アト・ラティアの深層
「さて、キミたちに質問だ。キミらはこのボクを、王として認めるのか?」
天空に浮かぶ街の宮殿の前で、金髪の少年は3体の鎧姿の騎士たちに問いかける。
『まだ認めてはおらぬ。キサマに王たる資格があるのは認めるが、あくまで資格に過ぎぬ』
「そうかい、ラ・ラーン。この世の王となるのも、一筋縄じゃ行かないようだね」
黄金の鎧の戦士の言葉に、サタナトスはため息を吐きながら微笑んだ。
『よって我らは、キサマの野望に協力する気は無い』
「へー。それはつまり、キミたちにも目的があるってコトじゃないのかい?」
しばらく沈黙した黄金の戦士は、栗色の髪の少女に伺いを立てる。
「そうですね。それは、わたくしから話させていただきましょう」
パレアナの身体に憑依した、クシィ―は言った。
「わたくしが生きていたのは、今から1万年以上前の時代。その頃には、今のような魔法は存在せず、人々は『科学』によって発展し、高度な生活を営んでおりました」
「カガク……とはなんだい、クシィー?」
『クケケ。科学とは、この世の理(ことわり)よ。解明された理によって未知の物質を獲得し、巨大なエネルギーを生み出す技術が科学。この街を浮かせているのも、科学の力さ』
主の替わりに、黒鉄色の少女の身体を持った、マ・ニアが答える。
「ふうむ、中々に理解しがたいモノのようだね」
「では、朧の間に案内いたしましょう」
そう告げると1万年前の王女は、宮殿の方へと歩いて行った。
「朧の間……なんだい、それは?」
『良いから、付いて参れ。ただし、他の者たちの進入は、許可できない』
「オイオイ、そりゃねぇぜ」
「サタナトス様を、1人で行かせられるワケ無いっしょ!」
「危険なんだな」
「大丈夫さ、お前たち。もしボクに危害を加える気なら、とっくに殺ってるだろうからね」
サタナトスは、メディチ・ラーネウス、ペル・シア、ソーマ・リオの心配を振り切って、ラ・ラーンたちに従う。
「では、参りましょう」
クシィー・ギューフィンが宮殿の扉の前に立つと、巨大な扉はひとりでに開き、灯っていなかった天井照明が燦然と輝き始めた。
「ボクがキミたちを見つけたときには、左右の照明しか灯っていなかったのに、これは驚きだ」
『この宮殿は、王家の宮殿なのだ。我らが眠っていたのと同じく、宮殿も眠っていた』
「それが王家の血とやらで、目覚めたって言うのかい?」
「ええ。ですがもう、ここには人の魂はありません」
哀しそうな瞳を浮かべて、豪奢なロビーの壁を見つめるパレアナ。
そこには、4人の人物が描かれた絵が飾られていた。
「もしかしてクシィー、これはキミの家族かい?」
「王であった父と、皇后の母、それに弟……わたくしも含めて、あの日命を落としたのです」
「でもキミは、1万年の時を超えて、こうして甦ったじゃないか」
「いいえ。今のわたくしは、あくまでペンダントに刻まれた、わたくし自身の記憶に過ぎないのです」
「キミ自身の記憶……か。どの道ボクには、ワケが解らないよ」
それ以上は答えず、ロビーの奥へと進むクシィ―。
左右に5枚ずつの扉が並ぶ、部屋に入る。
「ここにも、部屋があったのか。ボクやギスコーネが行ったときには、見つけられなかった」
『いいから、行くぞ』
3人の騎士たちは、クシィーに従い扉の1つに入った。
「ずいぶんと、小さな部屋だ……うわッ!?」
サタナトスが感心していると、小さな部屋自体が下降を始める。
「これは、エレベーターという装置です」
「なるホド、鉱山とかにある滑車で荷を上げる装置を、発展させたモノか」
エレベーターは、僅かばかり降下した後に停まった。
クシィーたちは、エレベーターホールを出て金属の通路を歩くと、突き当りの扉へと入る。
「こ、これは……なんだッ!?」
驚愕する、サタナトス。
彼の前には、全面が黒い金属に覆われた、無機質な巨大部屋が広がっていた。
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