御前試合
『ワレ ノ アイテ ハ ダレダ。キサマ カ?』
赤いトサカの付いた黄金の兜から聞こえる、ノイズ混じりの声。
それはサタナトスや舞人たちが、日常的に使っている言語だった。
「イヤイヤ、ボクは今の時代の王だよ、ラ・ラーン」
『ソレ ニ シテハ ミスボラシイ シロ ニ スンデ イルナ』
「皮肉を言われるとは……これは参ったね。もうそこまで、今の時代の言語を学んだのかい」
肩を竦める、サタナトス。
『ワレ ハ アト・ラティア ノ 科学 ガ 生みダシタ 最高 クラス ノ 兵器。言葉 ヲ 理解 スル など 造作もないコト』
「オイオイ、コイツの話す言葉……」
「喋りながら、ドンドン上手くなってるっしょ!?」
「もう、オデより上手いかも……」
「フフフ、メディチ・ラーネウス、ペル・シア、ソーマ・リオ。どうやらキミたちよりこのラ・ラーンの方が、圧倒的に知性が上らしいよ」
玉座に座って、無邪気にほほ笑む金髪の少年。
『クシィー 様の、ご協力はいただいているがな』
「なるホド。この蒼いペンダントは、彼女が無事かをキミたちに伝えると同時に、その思考や言語、彼女の知識をも伝えているんだね」
『そうだ。クシィー様の依り代になった娘の記憶を、参照している』
「では、ラ・ラーン。キミはアト・ラティアの王女、クシィー・ギューフィンが既に亡くなっているコトも、知っているんだね?」
『ウム、残念ながらアト・ラティアの科学を持ってしても、永遠の命を手に入れるコトは出来なかった。だが我らは、例え肉体が滅んでも、クシィ―様のご遺志に従うように造られている』
「なる程、実に殊勝な心掛けじゃないか。ところでキミがさっき言っていた、『科学』とか『兵器』ってのは、なんだい?」
「確かに、聞きなれない言葉ですな」
サタナトスが問いかけると、玉座の傍に控えていたアクト・ランディーグも、それを補完する。
『ほう。この時代の海龍は、言語を話せるのか。これは面白い』
「わたしが話せるコトのなにが、面白いというのだ?」
ラ・ラーンに対する感情を悪化させる、紫色の海龍、アクト・ランディーグ。
『お前たち海龍や、ここに居並ぶ者の多くは、アト・ラティアの科学が生みだした、人間を海洋に適応させた人工のバイオノイド。恐らくはその末裔であろう』
「科学が、オレらを生みだしただとォ!?」
「ああ、もう! 一体科学ってのは、なんなのっしょッ!」
「ワケわかんねェだ」
「落ち着きなよ、お前たち。どうやら今の時代の『魔術』とは別の何かが、古代のアト・ラティアにはあったらしい」
『流石に、王を自称するだけはある。見事な洞察力だ』
「これはこれは、お褒めにあずかり光栄だね。ところでもう一つの言葉、『兵器』とは何だい?」
『それは、我らのコト。宮殿で逃げ惑う者たちが使っているのも、兵器と呼ばれるが、その最高峰に位置するのが、我らだ』
「なる程、ではその実力……見せてもらおうじゃないか?」
玉座の王が、御前試合の開催を要求した。
「こんな骨董品なんざ、このメディチ・ラーネウスの蒼流槍『ジブラ・ティア』で、破壊してやっぜ!」
「戦うのは、アタシ……ぺル・シアっしょ。破黄槍『バス・ラス』で、刺し貫いてやるっしょ!」
「オデも、戦ってみたいダ」
「キミたち、自分の力量が解って無いみたいだね。ラ・ラーンは、例えキミたち3人が束になったとしても、勝てる相手じゃないよ」
金髪の主にたしなめられ、渋々ながら身を引く3体の魔王。
「悪いが、大魔王ダグ・ア・ウォン。キミの力を、見せてくれるかな?」
『面白い、太古の戦士のちからがどれ程か、我が身を持って確かめてくれようぞ!』
5体の魔王の主である大魔王が、金色の戦士の前に立った。
『では、決闘と参ろうか。古の戦士よ』
ダグ・ア・ウォンは、蒼い水搔きのような翼を大きく広げて、大空へと舞い上がった。
『フッ、望むとことよ、蒼き龍(ドラゴン)』
ラ・ラーンも黄金に輝く翼を展開し、大魔王のいる高度に一瞬で到達する。
失われた亡国の虚城の上空で、世紀の決闘が幕を開けようとしていた。
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