ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第05章・第09話

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詩杏の決意

 詩杏が天空教室に迎え入れられるまで、こんなコトがあった。

「超高層マンションに、タクシーで乗りつけるたぁ」
「芸能人にでも、なった気分やな」

 タクシーのフロントガラスに映し出された、天を衝く円筒形のマンション。

「タクシーに乗ってるのも、マスコミのカメラを避けてのコトだしな」
 実杏と理杏の言葉も、あながち間違いでは無い。

「ストリーミング動画の人気が、ここまで高くなるなんて、昔なら想像もできなかったよ」
「今じゃ影響力は、テレビを超えたって言う人もいますからね」
 後ろの席に、双子に挟まれて座っている詩杏が言った。

 ユークリッド……時代の寵児たる企業に、ボクは関わっているのか。
思えば就活の最中までのボクは、アンチ・ユークリッドの立場だった。

「アイツも、ボクの動画を見て仰天してるんじゃないかな……」
「なあ、先生」
「アイツって誰や?」

「ああ。今年の夏くらいまで、一緒に就職活動をしてた友達だよ。ボクより先に就職先が見つかって、今はスマホゲーム会社の音楽担当をしてるらしい」

「ゲームミュージックですか。凄いですね」
「まあ、年中ギターぶら下げて、歩いてたヤツだからね」

「まるで、オトンみたいやな」
「せやせや」
 バックミラーの中の、元気な双子姉妹。

「昔はオトンも、家ン中でギターかき鳴らしおって……」
「ようオカンに、どやされとった……で」
 いつの間にか瞳に涙を浮かべ、姉の小さな胸で泣いている。

「ち、父の話は止めましょう」
 姉は、泣きじゃくる妹を両腕で抱きながら、絞り出すように言った。

「父はもう、昔の音楽好きな父ではありません。姉さんの大事なギターさえ、壊して捨ててしまったんですから……」

「だけどキミたちは、昔の音楽好きな父親は大好きなんだろう?」
「で、でも今のオトンは、ウチらを殴りつけて……」
「キア姉とシア姉を、冷蔵庫に閉じ込めおったんや」

「だったらさ。昔みたいな音楽好きな父親に、戻ってもらえるように努力しないか?」
「それは……簡単なコトではありません」
「ああ、その通りだよ」

「父は、音楽講師をクビになって生活の糧を絶たれ、全てを世の中のせいにしたんです」
「社会ってのは、生易しいモノじゃない。ボクも大学期間中に就職できなかったツケを、後々払わされたからね」

「でも先生は、ユークリッドの教師として立派に働いています。父は……」
「偶々ボクは、運が良かっただけさ」
 それは、心の底から感じていた。

「キミたちの父親は、キミたちが大きくなる何年もの間、専門学校の音楽講師として働いていたんだよね。ボクの教師としてのキャリアなんて、まだほんの少しだよ」
 今の世の中、職を失うリスクは誰にでもある。

 例え今日、生徒たちを前に教壇に立っていても、明日は就職活動を再開しているかも知れない。
高度経済成長もバブルも、遠い昔の出来事となった日本では、終身雇用の安定したキャリアなど望めようハズも無かった。

「わたしは、父を許せるでしょうか……」
「時が解決してくれたり、そのウチに折り合えたり出来るかもしれない。確実にそうなるなんて言えないケド、そうなる可能性だって十分にある」

「わたしも、強くならないといけないみたいですね」
「せやな。ウチらもオトンをシバき倒しせるくらい」
「強うなったるでぇ」

 三人の姉妹たちは、覚悟を決めた様子だった。
それからボクたちを乗せたタクシーは、地下駐車場に滑り込む。

「どや、シア姉」
「めっちゃイイ眺めやろ?」
 エレベーターの全面ガラスに、夕焼けがスミレ色へと染まっていく風景が映った。

「わ、わたしには、場違いな気がしてきました」
「心配せんでええで」
「ウチらが着いとるさかい」

 双子姉妹に引っ張られ、天空教室へと入っていくシア。

「は、始めまして。可児津 詩杏と申します。本日より……」
「そんなに気を遣わなくていいわ。同年代のコたちも居るし、気楽にいきましょ」
 ユミアが、テニスサークルの少女たちに視線を向ける。

「あなたが、キアさんの妹さんね。わたしは、禄部 明日照(アステ)よ。仲良くしましょう」
「ええ、よろしく」
 シアとアステは、ぎこちない握手を交わした。

 

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一千年間引き篭もり男・第05章・42話

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罠に誘われた獲物

「60機ものマニプュレート・プレイシィンガーたちが、全て堕とされたというのか!?」
 街の上空には、白い翼を生やしたアマゾネスだけが存在し、戦闘機や小柄な少女の姿の機体はことごとく、地面へと墜ちて行った。

「流石にこうも一瞬で、無力化してしまうなんて想定外だわ」
 ボクを抱えながら街の地面に着地した、トゥランが嘆く。

「あの様なオモチャなど、通用しないと言ったハズだ」
「我らアマゾネスの戦闘力を、舐めないでもらいたい!」
 二人のアマゾネス女王が、エメラルド色とサファイア色の髪を靡かせ突進して来た。

「ここはアタシらが食い止める。艦長はセノンを連れて、先に避難してくれ」
 真央・ケイトハルト・マッケンジーはそう言うと、振り向きザマに両拳のチューナーで、アマゾネス姉妹の剣を受け止める。

「ククク、また貧弱なオモチャか」
「それで我らが攻撃を、止めたつもりですか?」
 ヒュッポリュテーとペンテシレイアは、剣にレーザーの刃を発生させ、そのまま突き切ろうとした。

「真央!?」
「こっのォ、カエサル・ナックラー!!」
 咄嗟に手を放し、両拳を打ち鳴らして発生させた放電で、二人の剣を跳ね上げる真央。

「人間にしては、素晴らしい反射神経だな」
「ですが、攻撃は終わってませんよ……」

「ぐあッ!」
 支えていたラサごと建物の壁に叩き付けられ、悲鳴を上げる真央。
チューナーで威力は落としたものの、かなりの傷を負っている。

「マズいぞ、早く宇宙港に逃げ込まないと」
「でも宇宙港の入り口なんて、どこにも見当たりませんよ、おじいちゃん!」
「な、なんだって!?」

 ボクたちが降り立った場所は、閑静な公園であったが、宇宙港らしき入り口など存在しなかった。

「フフ、悪あがきだな、人間どもよ」
「我ら26人のアマゾネスを相手に、たった数人で何ができる」
「戦争も狩りも、数と兵士の質が勝っている方が勝利するのだ」

 他のアマゾネスたちも続々と、ボクたち目掛けて突っ込んで来る。

「させない。アクア・エクスキュート……」
「おりゃあッ、ペレアイホヌア!」

 ヴァルナが、ナノ・マシンのチューナーを網目状に展開させ、ハウメアのチューナーが網目の間から火炎弾を射出し、敵の進路を塞ごうとした。

「小癪な……」
「だがそんな弾幕が、何時まで維持出来ると言うのか」
 アマゾネスたちは遠距離攻撃に切り替え、ハウメアの火炎弾が切れる時を伺っている。

「トゥラン、キミも参戦しれくれないか。ボクを降ろし自由になったハズだ」
「その必要は無いわ、艦長」
「え……?」

「マケマケがケガしちゃって、大変なんですよ。宇宙港まで行かなきゃだし……」
「だから、必要は無いって言っているの」
「そんな……ま、まさかトゥランさん、向こうに寝返ったんじゃ!?」

「艦長、アクア・エクスキュートが突破される……」
「ペレアイホヌアの弾幕も、もう持たないよ!」
 ヴァルナとハウメアが叫んだ。

「火山弾も弾切れがあるようだな、人間よ」
「覚悟するがいい!」
 戦闘態勢を構築したアマゾネスが、再び攻撃を開始した……その時。

 地面から巨大な閃光が立ち登り、アマゾネスの部隊を捕らえる。

「な……なんだ!?」
「ぐわッ!」
 アマゾネスたちは盾で、何とか閃光を無力化したがダメージはあった。

「こ、これは、どう言うコトなんだ、トゥラン!?」
「地面から光が出て来ちゃったけど、なんで?」

「フフ……驚かせてしまったみたいね。この公園の下が、宇宙港なのよ」
 クワトロテールのアーキテクターが、微笑む。

「なッ、そうなのか!?」
「ええ、そして閃光の正体は、アフォロ・ヴェーナーのレーザーよ」

「クッ、獲物を狩る側と思っていた我々が……」
「あのアーキテクターに、誘い込まれていたと言うのか?」
 地面からの閃光が、アマゾネスたちを狙い続けた。

「ええ、そうよ。今は街への被害を無くす為に、威力を落としているケド、戦艦並みのレーザーをその小さな盾で、無効化(レジスト)できるかしら?」

「わ、我らの反乱は……」
「こんなところで、終わりはしない!」
 アマゾネスたちは、トゥランをターゲットに攻撃を仕掛ける。

「愚かな判断ね。冷静さに欠けるわ」
 気高き女戦士たちは、次々に白い閃光に包まれ、地面に墜ちて行った。

 

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ある意味勇者の魔王征伐~外伝・11話

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蜃気楼の剣士とマホ・メディア

 灼熱の砂漠にあって唯一、生物が安らぎを得られる場所、オアシス。

「ここ数日、何事もなく過ぎているわね、兄さん」
 低木に囲まれた泉は澄み、キラキラと太陽の光を反射させている。

「これからも、こうであってくれると良いんだがね」
 水の中を気持ちよさそうに泳ぐ、無邪気な13人の少女たち。
楽園のような光景を眺めながらも、サタナトスとアズリーサは不安を感じていた。

「マルクやケイダンたち、無事に村で暮せているかしら」
「心配は無いさ。きっと上手く村長に言い訳して、元気にしているよ」
「そう……ね。だよね」

 兄妹は、4人の少年たちの辿った運命を、この時はまだ知らない。

「それより、ボクたちの方が問題じゃないか。確かにここは、食料も水も事欠かないが」
「そうね。だからと言って、永遠にここで暮らせるかは不安だわ」
 蒼い髪の妹は、脚を抱え込んで水面を見つめる。

「まずは、村から一番近い街の、キャス・ギアに行ってみようと思う」
「そこは、どれくらいの距離なの?」

「ここからなら、半日くらいで行けるよ。城塞都市じゃ無いから、昼間に行けば入れるハズさ」
「でも、あのコたちを見たら、街の人はどう思うかしら」
 アズリーサは、泉から魚を獲って戻って来る少女たちを出迎える。

「どうだろうか。ボクたちの村みたいに、よそ者に冷たい大人が多いなら、最悪の場合……」
「そ、そんなコトは、させないわ」
 アズリーサは、トカゲのシッポが生えた少女たちを抱きしめる。

「わかってるさ、まずはボクだけで行ってみるよ。街で服や日用品を買って来る」
「お金はどうするの。まさか、盗む気じゃ?」
「そんなコトはしないよ。実は保存食も兼ねて、余った魚を干しておいたのさ」

「いつの間に……その魚を売るのね?」
「他にも、礫の砂漠の岩は染料として売れるし、近くの岩山には鉱石も地表に出ていた」
「兄さんったら、抜け目ないわね」

「アズリーサ。キミはコイツらと、留守番を頼む」
「ええ、わかったわ」
「万が一誰か来たら、どこかに隠れるんだぞ」

「兄さんこそ、無茶はしないように。わかった」
「ヘイヘイ、なんかシスターみたいになって来たな」
「なんか言った?」

「それじゃ、言って来るよ」
 金髪の少年は、逃げ出すように砂漠を駆けだした。

~その頃~

 村長と数人の村の大人たちは、キャス・ギアの街へと辿り着く。

「アナタが、ムハー・アブデル・ラディオ様ですね」
「蜃気楼の剣士の功名は、伺っております」
 街外れにある酒場で一行は、丸テーブルにビアジョッキを置いた男に話しかけていた。

「オレに何の用だか知らんが、消えろ……酒がマズくなる」
 男は左目に大きな傷があり、グレーの長い髪に、顎には不精髭を生やしている。
つまみの干し肉を口にくわえ、それを酒で豪快に流し込んだ。

「用件はただ一つ、農作物を食い荒らすバッタを呼び寄せた、兄妹を始末したいのでございます」

 村長は酒場の窓に視線を移す。
ガラスは割れ、その向こうには無数の羽虫が飛び回っていた。

「その兄妹がどこのどいつか知らんが、バッタを呼び寄せたなど誰かの虚言であろう」
「わたくし共も、その可能性があるのは承知いたしております」
「ですがその兄妹は、魔王の血を引いている者たちなんですよ」

「魔王の……血だと?」
 酒に酔っていた、男の目付きが変る。

「はい。兄をサタナトス、妹はアズリーサと言って、我が村の巫女の子供たちなのでございます」
「母親の名は……何と言う?」

「マホ・メディアと言います」
「な……マホ……メディアの子たちなのか?」

「はい。貴方と共に魔王討伐へと向かい、命を落としたかに思われた娘にございます」
「魔王との闘いより数年後、生きて帰って来たとは聞いていたが……」
「娘は腹に、父親の解らぬ双子を身籠っており、出産の後に死んでしまいました」

「マホの子供たちってのが、件(くだん)の……」
「始末するべき、双子の兄妹にございます」
 男はそれを聞くと、顎髭を撫でながら大きく息を吐き出した。

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キング・オブ・サッカー・第四章・EP007

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三木一葬の猛襲

「え、アレ?」
「オレら、なんで……」
「ゴール決められてんだ!」

 穴山三兄弟が唖然としているし、正直ボクもワケが解らなかった。
……でも、確かにボールはマジシャンズ・デステニーのゴールネットを割っている。

「どう言うこった。葛埜季と柴芭が競り合ってると思ったら……」
「いつの間にかボールが消えて、いつの間にかゴールが決まってたぞ?」
 紅華さんも黒浪さんも、コートで起きたコトが理解できていなかった。

「簡単な話さ」
 サングラスをずらし、コートに目をやる倉崎さん。

「葛埜季は宝木をスクリーンに使って、ドリブルで突破すると見せかけた。だが実は、宝木にボールを渡して、ボールを持たないいまま柴芭を引き連れ、ドリブルしていたんだ」

「ボールを持ってないのに、ドリブルって言うのかよ?」
「そこは言葉のアヤだろ。駄犬」
「オレは、オオカミだ!」

「柴芭が釘付けになっている間に、宝木は勇樹にパスを通し、勇樹がそのままゴールを決めたのさ」
「マジかよ。オフサイドには、ならなかったのか」
「フットサルに、オフサイドはね~よ」

 確かにボクも紅華さんたちも、葛埜季さんと柴芭さんの対決に目が行っていた。
その裏で、あっさりとゴールが決められたんだ。

「柴芭の野郎、イキってたクセにマンマとしてやられちまったな」
 これは、相当ショックだったに違いない。

 前半終了の笛が鳴り、肩を落としてベンチに引き上げて来る柴芭さん。

「魔術師のボクが、相手の仕掛けたトリックに引っ掛かってしまうとは……ね」

「し、仕方ないっスよ、柴芭さん」
「相手は、柴芭さんに見えないように……」
「身体でガードしながら、ドリブルしてたんスから」

「それはマジシャンの常套手段だよ。言いワケにはならない」

「だけど、どうします。リードを許したっスよ」
「ここから、逆転できるかどうか」
「キーパーだけじゃなく、リベロも司令塔も点取り屋もいるッス」

「どうやら自力では、相手の方が上だろう。だけどサッカーは、強いチームが勝つとは限らない。不本意だが守ってカウンターを狙う」

 マジシャンズ・デステニーと、チェルノ・ボグスは前半と同じメンバーで、再びピッチに姿を現した。

「流石に高校生のエースクラス4人相手、厳しいね」
 豊満ボディの、メタボリッカーが言った。

「なんだ、セルディオスのおっさん。まだ居たのかよ」
「死神見たくて残ったのデスが、今日は見れないネ」
「そりゃ柴芭のチームが、負けるってコトか?」

「チョット力の差、あり過ぎマ~ス。見てみるね、柴芭をリベロに置いてる」
 セルディオスさんが言った通り、リベロのポジションでプレイする柴芭さん。

「護ってカウンター狙いだろ。悪くない戦術じゃねえか?」
「悪くないと言うより、それしか選択肢が無いんだよ、紅華」
「何だよ、雪峰……って、まあそうかも知れんが」

「マジシャンズ・デステニーは中盤を、柴芭と穴山三兄弟でポジションチェンジをしながら、イニシアティブを取って攻めるチームだ。だが、エースが後ろに下がった今、中学生の穴山兄弟だけで中盤の戦いを制するのは難しい」

「だから、カウンターを選んだのではないか、雪峰司令?」
「その通りだ、杜都。だが、マジシャンズ・デステニーで守備力を期待できるのは、柴芭 師直ただ一人なんだよ」

「な、なる程。言われてみれば、非常に厳しい戦況と言えるな」
「一人の守備センスだけ護る。サッカー、そんな甘くないね」

 セルディオスさんが言った通り、柴芭さんが必死にクリアしたボールを拾われ、宝木さんがミドルシュートを決めた。

「流石の柴芭でも、これは防ぎきれなかったか」
「1-3かよ、こりゃもう決まったな」
「柴芭司令はまだ試合を諦めていないが、穴山隊員たちの戦意が薄れている」

 それから試合は、一方的な展開となる。
前線にオーバーラップした葛埜季さんが、強引なシュートをねじ込むと、勇樹さんも負けじと2点を叩き込んだ。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第05章・第08話

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詩杏と実杏と理杏

「え……とだな、シア」
 ボクは上目遣いで、目の前の少女の様子を伺う。

「父が逮捕されたコトなんて、とっくに知ってますよ、先生」
 可児津 詩杏は、表情も変えず事も無げに言った。

「ああ、そうか……そうだよな」
 この情報化社会にあって、誰かの目に情報を触れさせずに、居られようハズがない。

 偶々置きっぱなしになっていた新聞など読まなくとも、スマホやテレビ、パソコンなどあらゆる媒体で、誰でも自分が知りたい情報にアクセスできるのだ。

「そんな、気ィ遣わんでええで、先生」
「ウチらもシア姉も、オトンが逮捕されんのは解っとったコトや」
 ミアとリアの双子姉妹が、姉の両隣にチョコンと座った。

「シア、キミも大丈夫なのか?」
「正直、気持ちを落ち着かせるまで、時間は掛かりました。自分の父親に殴られ続け、わたしを庇って姉もあんな状態ですから」

「キアも峠は越え、快方に向かっている。ミアとリアは今、天空教室で預かっているんだ」
「伺ってます。妹たちは、迷惑をかけてませんか?」

「大丈夫だ……と思うぞ」
「そこは断言せなアカンで、先生」
「ウチら姉さん方から、マスカットキャラとして、むっちゃ可愛がられとるんや」

「その程度のボケで、笑い取れる思っとるんか、リア?」
「うわあ。カンニンやで」

「なにも、そこまで怒らなくても」
「関西人は笑いにシビアなんです。ところで先生、わたしは今日で退院するコトにしました」

「今日って、随分と急だな。先生がそう言ったのか?」
「いいえ、わたしがそう決めたんです。当然、先生とも話し合って許可は取ってます」
 シアの身体にはまだ、あちこちに白い絆創膏が貼ってある。

「本当に大丈夫なのか。身体の傷すらまだ、完全には治ってない様だが……」
「病院の先生は、まだ入院しとった方がええ、言うとるんや」
「でも、シア姉が強引に……」

「大したケガでも無いのに、これ以上入院費を払ってられません」
「そうは言ってもキミには、精神的なケアも必要だろう」

「アメリカでは、医療費が払えなければ治療を受けられません。日本でもこれからは、そう言った人間が増えると思いますよ」
 中学生の少女が言った。

 確かに彼女の言っているコトは、薄ら寒い現実となりそうな気がする。

「昨日……ユークリッドの関係者が、病院に来ました」
「な、なんだって、まさか!?」
「わたしも顔出しを条件に、天空教室にお世話になるコトとなりました」

「そんな酷い条件でか。金銭面なら、他にも解決策があるハズだ」
「わたしが選択肢の中から、選んだまでのコトです。それに……」
「そ、それに?」

「このまま家に帰っても、更に酷い状況が待ち受けているんですよ」
「あ……」
 ボクは、ハッとした。

 病院側が抗議したためか、病院の周りのマスコミの数は確実に減っている。
替わりに、『娘2人を冷蔵庫の中に閉じ込めた父親』の家に、大挙して押し寄せていた。

「ウチ、今大変なコトになっとるで」
「天空教室のが、賑やかで楽しく暮らせるわ」
「ご迷惑かとは思いますが、そう言うコトです」

 可児津4姉妹のウチの、3人が口を揃える。

「わかったよ。そこまで意思が固いのなら、ボクはキミたちの意見を尊重する」

「あ……有難う、ございます……先生」
 今まで理路整然とした語り口だった、シアの言葉が急に乱れた。

「ン、どうしたんだ、シア?」
「な、なんでもありません」
「そうか?」

「シア姉にとっちゃ先生は、オトン以外で初めてお姫様抱っこされた異性や」
「チッパイまで見られてしもたし、意識せん方が……いひゃひゃひゃ!?」

「この子たちったら……なんでもありませんから」
 双子の妹の、実杏と理杏の口を引っ張りながら、微笑む詩杏。

 その日のウチに彼女は退院してしまい、天空教室の一員となった。

 

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一千年間引き篭もり男・第05章・41話

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アマゾネスの猛攻

「マニプュレート・プレイシィンガーたちが囮になってくれている間に、港まで逃げるわよ」

 援軍として現れた、娘たちの髪と同じ色の少女たち。
ヒュッポリュテとペンテシレイアの姉妹が率いる、アマゾネスの2部隊と交戦を開始する。

「トゥラン、アレは娘たちが操っているのか?」
「いいえ、彼女たちは今、ギリシャ軍の敵と交戦中よ。サブスタンサーを駆って、出撃しているわ」

 マニプュレート・プレイシィンガーたちは、機動性とヒットボックスの小ささを活かし、人型と戦闘機への変形を繰り返しながら相手を攪乱した。

「それじゃあ、自動操縦なのか?」
「わたしが操っているわ。これでも並列処理(マルチタスク)は得意なの」

 対するアマゾネスの部隊は、手にした剣からレーザーショットを撃って攻撃する。
半月型の盾・ペルタストも、射撃を安定させる役割と防御を同時に担っていた。

「それって、危険じゃねえか?」
「わたし達のチューナーみたく……」
「イーピゲネイアに、ハッキングされちゃわない?」

「恐らく大丈夫よ。その為にアフォロ・ヴェーナーの、電磁波の支配領域まで引き込んだんだから」
 アフォロ・ヴェーナーとは、トゥランの駆るキガンティス・サブスタンサーの名だ。

「アフォロ・ヴェーナーには、高度な情報戦能力が備わっているわ。それでも、この小惑星のほぼ全てを支配下に置く、イーピゲネイアには警戒する必要があったの」
 MVSクロノ・カイロスより派遣され、今は宇宙港に駐留している。

「マニプュレート・プレイシィンガーたちは、アイツのハッキングを受けないんだな」
「てコトはつまり……」
「アタシたちのチューナーも、使えるんじゃない?」

「あのコたちが突破されたら、迎撃をお願いね。既に半数以上が、やられているから」
 トゥランがオペレーター娘たちに、衝撃の事実をさらりと告げた。

 後ろに目をやると、ピンクやオレンジ色、ソーダ色の少女や戦闘機たちが、アマゾネス部隊の手によって次々に無力化され、地上に墜ちて行く。

「このままでは、突破されるのは時間の問題か。だけど、身体に感じる重力が強くなって来ている。地上まで、もう少しだ」
 小惑星の内側に築かれた街は、間近まで迫っていた。

「見て下さい、おじいちゃん。あちこちで人が襲われてます」
 街には、反乱を起こしたアーキテクターに襲われ、逃げ惑う人間の姿がそこら中にあった。

「残念だケドよ、セノン。街の人を、助けてる余裕は無いぜ」
 街にいるアーキテクターの多くは、戦闘用ではない。
それでも人間を殺すのに、十分な能力を備えていた。

「そ、そんな。みんな、殺されちゃうんですよ」
「今は一刻も早く、宇宙港に辿り着くコトが大事……」
「そうじゃ無いと、こっちもアマゾネスにやられちゃうから」

 真央、ヴァルナ、ハウメアは、状況を冷静に分析し、親友を納得させようとする。
けれども、セノンの表情は晴れなかった。

「そんな顔するな、セノン。どうやら全てのアーキテクターが、反乱に加わったワケじゃ無さそうだ」
「え?」
 栗色のクワトロ・テールの少女の瞳に、真下に広がる街の状況が映った。

「ホ、ホントです。人間の前に立って、護ってくれてるアーキテクターもいっぱいいるですゥ」
「まあな。思ったより被害が少なそうなのは、その為か……うわあ!?」
 閃光が、真央の鼻先をかすめる。

「逃しはしない、艦長」
「我らが女神の意に反する、お前たちを処分する!」
 上を見上げると、ペンテシレイアと、ヒュッポリュテーが剣を構えていた。

「確かに今は、多くのアーキテクターが反乱には加わらず、情勢を見極めている状態だ」
「だが情勢が、我らアーキテクターに有利に傾けば、彼らは同胞となろう」
 アーキテクターたちは、人間の革命家や独裁者が言いそうな台詞を吐いた。

 

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ある意味勇者の魔王征伐~外伝・10話

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立ち昇る煙

「なあ、助けてくれよ。オレたちは、サタナトスに命令されたんだ」

 祭壇のかがり火によって、照らされる牛頭の巨像。
周囲では、大人たちがドラムの準備を始めている。

「……詳しく、話てみよ」
「え、えっと……」
 村長は、マルクの弁明に耳を傾けた。

「アイツはやっぱ、悪魔の子だったんだ。バッタの大群だって、アズリーサが呼び出したんだ」
 与えられた少ない時間の中で、咄嗟に考えた嘘。

「この村を覆いつくす、忌まわしき虫どもを呼び寄せたのは、あの蒼髪の娘だと申すか?」
「そうだよ。あの兄妹は村を追われて、復讐がしたかったんだ」
 マルクの言葉に、大人たちも顔を見合わせ騒めき立つ。

「聞き捨てならない言葉だが、にわかには信じられんな」
「とくにアズリーサは、髪の色とやい歯がある以外は普通の子供だったぞ」
「そこまで強力な魔術を使うなど、到底信じられません」

「ウウム……マルクの命押惜しさの、虚言と見るべきか」
「み、見たんだ!」
 その時、気弱な少年が叫んだ。

「ボ、ボボ、ボクも見たよ。アズリーサが魔術で、沢山のバッタを呼び出すのを」
「キノ……お、お前まで、何を言って……」
「オ、オレも見たんだ。悪いのは、あの兄妹だよ」

 マルクの嘘に、キノもハンスも同調し、彼の意に反するのはケイダンだけとなる。

「ヤツらは……サタナトスとアズリーサは、どこにいる?」
「谷を抜けた先の、砂丘の向こうのオアシスにいるよ」
「それは誠か?」

「村長、そのオアシスなら聞いた事があります」
「オオカミの出る礫の砂漠に隣接した、砂漠にあると冒険者が言ってたな」

「オオカミの群れなら、心配ないよ。サタナトスのヤツが、殆ど殺しちまったからな」
「なんじゃと?」

 マルクの瞳を確認する、村長。
けれども彼が今語ったコトは、紛れも無い真実であり、自信に満ちていた。

「オレたちを生贄にしたって、アイツらがバッタを呼び寄せているんだから無駄だよ」
「そ、そうだよ、マルクの言う通りさ」
「サ、サタナトスたちを、殺さなきゃ意味ないって」

「そのオアシスとやらに、出向く必要がありそうじゃな」
「ですが村長、冒険者の話ではオアシスは、屈強なリザードマンに支配されているのだとか」
「素人の我々が近づくのは、余りに無謀かと」

「ムウ、確かにそうじゃが、もしコヤツらの言葉が真実なら、放っておくワケにも行くまい」
「む、無謀ですよ、村長」
「解かっておる……」

 村長はしばらく試案を巡らせ、瞳を閉じる。

「そう……あの男に、同行を頼んでみるとしよう」
「あ、あの男とは?」

「ムハー・アブデル・ラディオじゃよ」
「ム、ムバーとは、まさかあの、蜃気楼の剣士と呼ばれた?」

「そうじゃ。ヤツは先の魔王討伐で、サタナトスたちの母でもあるマホ・メディアらと共に、パーティーを組んだ男よ」
 ゆっくりと、眼を開ける村長。

「今はカス・ギアの街に住んでいると聞く。夜明けを待って、使者を立てよう」

「こ、これで解かってくれただろ」
「た、助かったァ」
「ビビっちまったぜ」

「この者たちを、火にくべよ」
 安堵の表情を浮かべる少年たちに、死刑宣告をする村長。

「ま、待ってくれよ。オレたちは、有りのままを話しただろ!?」
「そ、そうだよ、なんで殺されなきゃならないんだよォ!」
「し、死にたくない、助けてくれ」

「サタナトスたちを討ったところで、村の惨状は変わらん。どの道お前たち孤児は、村に必要ない」
「悪いがそう言うこった」
「今の村には到底、お前たちを養える食糧は無いんだ」

 空洞の巨像の内部の大量の薪に、火が点けられる。
激しいドラムの葬送曲が、地底の溶岩湖に鳴り響いた。

「待ってくれ、オレたちが死ねば、オアシスの正確な位置は解からないぞ」
「それもそうじゃな。ならばケイダン、お主には少しだけ、生き永らえる時間をやろう」
 村長は、マルクではなくケイダンを指名する。

「ど、どうしてケイダンなんだよ。話したのはオレたちだぞ!?」
「そんな、そんな、そんな、そんな……」
「丸焼きにされるなんて、イヤだァ!」

 それから渓谷に、黒い煙が立ち昇った。
シスターは煙に祈りを捧げながら、泣き伏せった。

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