ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~外伝・9話

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生贄の儀式

「どうすんだよ。食糧庫の食料まで、喰われちまったら……」
「ただでさえ飢饉だってのに、みんな干上がっちまうぞ」

 4人の少年たちは一つに固まって、バッタが当たる面積をできる限り減らしながら歩く。

「うわあ!?」
「どうした、ハンス?」
「今、何かにぶつかって転んじゃって……」

 小太りの少年の前で、バッタが一斉に飛び立つ。
そこには、彼がつまづいたモノが転がっていた。

「オ、オイ、これって……ハンナさんじゃないか?」
「何言ってんだ。脅かすなよ、マル……ク、うわあ!?」
 キノが恐る恐る覗き込むと、そこには半ば白骨化した女性の遺体があった。

「もうダメだ。この村は、お終いだぁ」
「バッタのヤロウ、人の肉まで貪り喰うのか」
「どうする、マルク」

「オレたちだけでも、逃げるしかねえ」
「だけど、食料も無いのにどうやって生き抜く?」
「うるせえ、そんなのテメーで考えろよ、ケイダン」

 疲労と恐怖と絶望によって、少年たちは遂に仲たがいを始めてしまう。

「オレは逃げるぜ。お前らは、勝手にしやがれ」
「逃しはせぬぞ、小童ども」
 マルクは、一人だけ走り出そうとするが、誰かに行く手を阻まれる。

「うわあああ、そ、村長!?」
 彼を見降ろすように、村の村長とやせ細った大人たちが立っていた。

「ゴ、ゴメン、村長。オレたち……」
「今、小童どもが行なった非道を見たか、皆の者!」
 マルクの声は、村長の怒声でかき消される。

「この者たちは村から逃走し、外よりバッタの大軍を導き入れ、食糧庫の食料までバッタにくれてやった。そればかりか、村の家々に火をかけたのだ」

「な、何言ってんだァ……?」
「オ、オレたち、そんなコトするワケねえだろ」

「なんてガキどもだ」
「この村の命運は、コイツらのせいで終わっちまった」
「子供だからって、許される犯罪じゃないわ」

 大人たちは、聞く耳を持たない。

「み、見てくれ、村長」
「こっちでハンナが、死んでるぞ!」

「な、何と……殺人まで犯すとは、もはや許し難し!」
「違うよ、村長。ハンナさんは、最初っから死んで……」

「この者たちを、モレクスさまの生贄とする」
 村長の号令で、村人たちの持った松明が、子供たちを取り囲んだ。

「や、止めてくれェ!」
「イヤだよ。まだ死にたくないィ!」
 4人の少年は、村に戻ったコトを心の底から後悔する。

「マルク、ハンス、キノ、ケイダン……」
 彼らにとって、母親のような存在の声が聞こえた。

「シ、シスター、聞いてくれ」
「オ、オレたち、何もしてねえんだ」
「全ては、バッタがやったトコで……」

「ど……どうして……どうして戻って来たのォ!」
 揺ら揺らと揺らめく松明の後ろで、ただ泣き崩れるシスター。
その姿を見て、4人は自分たちの辿る運命を悟る。

 月は、炭と化した家々のくすぶった煙と、黒いカーテンに覆われた。
聖堂に籠ったシスターは窓から、松明の列が谷底に向かって降りて行くのを目撃する。

「モレクスさま、どうかこの者たちの命で、怒りをお鎮め下され」
 長老が、谷底の干上がった湖にある、巨像の残骸の隠し扉を開ける。

 地下のマグマ湖に向かって、降りて行く大人たちに挟まれる、4人の少年たち。

「これより、生贄の儀式を執り行う。皆の者、準備をせい」
 マグマ湖に浮かぶ牛頭の巨像の周りに、かがり火が焚かれる。
中が空洞となった巨像の中に、乾燥した薪がくべられ炎が燃え上がった。

「最期に聞く。サタナトスと、アズリーサの兄妹はどうした?」
「ジル、ミリィ、シア、セリア、サティの5人は、生きているのか?」

「ア、アイツらは……その」
「リ、リザードマンに……」
「オイ、バカ!」

「なんじゃ、マルク。お主が答えて見せいッ」

「ジ、ジルたちは死んだケド、サタナトスとアズリーサは生きている!」
「オイ、マルク!」
「うるせえ、ケイダン。オレたちはサタナトスの命令で、村に帰って来たんだ」

 少しでも生き永らえようとする少年の嘘が、新たな悲劇を産む。

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