パサーとドリブラー
「こりゃ、決まったな。ピンク頭」
「ああ、またチェルノ・ボグスのリードだぜ」
黒浪さんと、紅華さんだけじゃない。
会場にいた、誰しもがそう思った。
「決めさせるか!」
柴芭さんが、ゴールに向かって走ってる。
「だが、もう遅い」
シュートを放った、宝木 名和敏が呟いた。
「あのまま自陣のゴールに向かって走ってみたところで、クリアは不可能だ」
雪峰さんが指摘した通り、クリアするにしても角度が無さ過ぎた。
最悪、自分のゴールにボールを押し込むハメに……。
「し、柴芭さん!」
「やった!」
「クリアだ!」
穴山三兄弟が叫んだ通り、ボールは再び跳ね返され宙を舞った。
「バ、バカな。オレのシュートを……どうやって!?」
「あ、あの野郎、ヒールで……」
驚きを隠せない、三木一葬の宝木さんと勇樹さん。
「見たか、今の。柴芭のヤロウ、自分のゴールに戻りながら、ヒールでクリアしやがった」
「ああ、流石は魔術師。とんでもないプレイだぜ」
それは、ボクたちも同じだった。
「かつて、『ローマの鷹』と言われた、パオロ・ロベルト・ファルカンが行なったプレイだ」
ファルカンって確か、ジーコやソクラテス、トニーニョ・セレーゾと共に、ブラジルの黄金のカルテットを組んでた人だ。
「自陣に戻りながら、ヒールでクリアするなど、相当高度なスキルが要求される。それを柴芭は……」
「ヤツも、オレが狙っている選手の一人だ。ファルカンがそうであった様に、背筋をまっすぐに伸ばした優雅なプレイスタイルから、ベッケンバウアーに例えられるコトもある」
「つまり、戦術眼や状況把握も優れている……と?」
「そうだ、雪峰。ウチが取れれば、お前と同じボランチか、もしくはリベロでの起用となるだろうな」
「そう……ですか」
雪峰さん、顔はクールだケド、目が燃えてるな。
やっは同じポジションだと、ライバル心があったりするのかな?
「オ、見ろよ。中盤で穴山兄弟が、ボールを回してるぜ」
「アイツら、ドリブルやシュートの技術はまだまだだが、ショートパスを繋ぐ能力はかなりのモンだぜ」
「確かに、上手く三角形を造れているな。ショートパスは、現代サッカーにおいても基本中の基本だ。オランダ代表などは、3-4-3のシステムを使っているが、最も多くの三角形を形成できるシステムとして、攻守に機能させている」
雪峰さんが言った通り、サッカーやフットサルにおいては、三角形を造りながらショートパスを回す。
今、ボールを持ってる穴山兄弟の一人に、勇樹さんがボールを奪いに行った。
すかさず他の兄弟にパスを出し、自分は勇樹さんの背後に走り込む。
勇樹さんは、パスを受けた穴山兄弟か、背後を走る穴山兄弟のどちらに行くかで、迷う。
勇樹さんは、受けた側にプレスに行く判断をした。
けど、判断の遅れが仇となって、背後に走り込んだ穴山兄弟にパスを出されてしまう。
これがワンツーとか、壁パスと呼ばれるプレイで、二人で三角形を完成させたのだ。
「なあ、ピンク頭。こうやって上から見てると、ショートパスを繋ぐのも重要なのかもな」
「お前、熱でもあんのか。ま、ドリブル一辺倒じゃ、正直頭打ちだわな。認めたくねーケドよ」
「そう言うな、紅華、黒浪。ショートパスは、ドルブルの威力や意義を、何倍にもする」
「え、そうなのか、キャプテン?」
「例えば黒浪、お前が相手に詰められる前にオレにパスを出し、相手の背後に走り込んだらどうなる?」
「そりゃもちろん、パスを返して貰って、オレさまのスピードでぶっちぎってやるぜ」
背後を黒浪さんのスピードで走られたら、相手はどんなに厄介と思うだろう。
「なるホドな。ドリブラーにとっても、パスは重要だっつーコトか」
「ああ。お前たちドリブラーは、オレたちパサーを上手く使え」
「んじゃ次の試合、そうさせて貰うぜ」
デッドエンド・ボーイズの次の相手を決める試合も、佳境へとさしかかっていた。
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