三木一葬の猛襲
「え、アレ?」
「オレら、なんで……」
「ゴール決められてんだ!」
穴山三兄弟が唖然としているし、正直ボクもワケが解らなかった。
……でも、確かにボールはマジシャンズ・デステニーのゴールネットを割っている。
「どう言うこった。葛埜季と柴芭が競り合ってると思ったら……」
「いつの間にかボールが消えて、いつの間にかゴールが決まってたぞ?」
紅華さんも黒浪さんも、コートで起きたコトが理解できていなかった。
「簡単な話さ」
サングラスをずらし、コートに目をやる倉崎さん。
「葛埜季は宝木をスクリーンに使って、ドリブルで突破すると見せかけた。だが実は、宝木にボールを渡して、ボールを持たないいまま柴芭を引き連れ、ドリブルしていたんだ」
「ボールを持ってないのに、ドリブルって言うのかよ?」
「そこは言葉のアヤだろ。駄犬」
「オレは、オオカミだ!」
「柴芭が釘付けになっている間に、宝木は勇樹にパスを通し、勇樹がそのままゴールを決めたのさ」
「マジかよ。オフサイドには、ならなかったのか」
「フットサルに、オフサイドはね~よ」
確かにボクも紅華さんたちも、葛埜季さんと柴芭さんの対決に目が行っていた。
その裏で、あっさりとゴールが決められたんだ。
「柴芭の野郎、イキってたクセにマンマとしてやられちまったな」
これは、相当ショックだったに違いない。
前半終了の笛が鳴り、肩を落としてベンチに引き上げて来る柴芭さん。
「魔術師のボクが、相手の仕掛けたトリックに引っ掛かってしまうとは……ね」
「し、仕方ないっスよ、柴芭さん」
「相手は、柴芭さんに見えないように……」
「身体でガードしながら、ドリブルしてたんスから」
「それはマジシャンの常套手段だよ。言いワケにはならない」
「だけど、どうします。リードを許したっスよ」
「ここから、逆転できるかどうか」
「キーパーだけじゃなく、リベロも司令塔も点取り屋もいるッス」
「どうやら自力では、相手の方が上だろう。だけどサッカーは、強いチームが勝つとは限らない。不本意だが守ってカウンターを狙う」
マジシャンズ・デステニーと、チェルノ・ボグスは前半と同じメンバーで、再びピッチに姿を現した。
「流石に高校生のエースクラス4人相手、厳しいね」
豊満ボディの、メタボリッカーが言った。
「なんだ、セルディオスのおっさん。まだ居たのかよ」
「死神見たくて残ったのデスが、今日は見れないネ」
「そりゃ柴芭のチームが、負けるってコトか?」
「チョット力の差、あり過ぎマ~ス。見てみるね、柴芭をリベロに置いてる」
セルディオスさんが言った通り、リベロのポジションでプレイする柴芭さん。
「護ってカウンター狙いだろ。悪くない戦術じゃねえか?」
「悪くないと言うより、それしか選択肢が無いんだよ、紅華」
「何だよ、雪峰……って、まあそうかも知れんが」
「マジシャンズ・デステニーは中盤を、柴芭と穴山三兄弟でポジションチェンジをしながら、イニシアティブを取って攻めるチームだ。だが、エースが後ろに下がった今、中学生の穴山兄弟だけで中盤の戦いを制するのは難しい」
「だから、カウンターを選んだのではないか、雪峰司令?」
「その通りだ、杜都。だが、マジシャンズ・デステニーで守備力を期待できるのは、柴芭 師直ただ一人なんだよ」
「な、なる程。言われてみれば、非常に厳しい戦況と言えるな」
「一人の守備センスだけ護る。サッカー、そんな甘くないね」
セルディオスさんが言った通り、柴芭さんが必死にクリアしたボールを拾われ、宝木さんがミドルシュートを決めた。
「流石の柴芭でも、これは防ぎきれなかったか」
「1-3かよ、こりゃもう決まったな」
「柴芭司令はまだ試合を諦めていないが、穴山隊員たちの戦意が薄れている」
それから試合は、一方的な展開となる。
前線にオーバーラップした葛埜季さんが、強引なシュートをねじ込むと、勇樹さんも負けじと2点を叩き込んだ。
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