ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第05章・第06話

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クズ男

「キ、キミは何を言ってるんだ!?」

「あの女に、オレの子を産ませるっつってんだ」
 襟田 凶輔は、左側の髪も梳かす。

「パーカー着て男みてーだが、胸も尻もデカくていい身体してやがるからよ」
 真っ白だった長い髪の毛が、全て赤へと染まった。

 そう言えばタリアが言っていた。
『髪を真っ赤に染めた、嫌味な野郎だったよ』……と。

「キミはまだ、19歳だろう。タリアだってまだ17歳だ」
「お似合いのカップルじゃねえか、なあ」
「なあと言われても困りますよ、御曹司」

「だから、御曹司言うなっつってんだろ」
 襟田 凶輔が軽くボディブローを撃ち込むと、瀧鬼川弁護士は腹を抱えてうずくまった。

「アンタ、タリアの先生なんだろうが、他人の恋愛にとやかく言う権利はねェな」
「恋愛と言うより、キミの一方的な思い込みだろう」

「犯りてえ女がいるから、やる。男にとって女なんざ、所詮はそんなモンだろ」
「また叩きのめされるのが、オチじゃないのか?」

「フン……確かに弱っちいままじゃ、格好つかねえか」
 襟田 凶輔は、ガウンを脱ぎ捨て弁護士におっかぶせる。

「病院のマズイ飯にも、飽きたしよ。そろそろ誰か、ブン殴りたくなって来たぜ」
 真っ赤な長髪の男は、イートイン部屋を出て行った。
恐らく、病院も出て行ったのだろう。

「ヤ、ヤレヤレ……御曹司の我がままにも、困ったモノです」
「彼は、タリアに付きまとう気なのでしょうか?」

「残念ながら、わたしにも解りませんよ。見ての通り御曹司は、まるで狂犬ですからな」
「彼は、家族からはどう思われているのです?」

「そりゃあ、厄介者以外の何者でも無いでしょう。特にお父上は厳格な方だ」
「そう……ですか」

「今回の一件で、御曹司の友人の多くが、ユークリッドに顔出しの実名動画や実家の映像までアップされ、引っ越しを余儀なくされましたからな」
「彼が友人とつるまなくなって、返って好都合だと?」

「昔ならそうでしょうが、今はネット社会ですからな。何とも、言えませんわ」
 瀧鬼川弁護士は、ドカッと椅子に腰を下ろした。

 現実(リアル)でいかに距離が離れていても、ネットの世界では距離など無意味に等しい。
例え地球の裏側であっても、ボイスチャットで話しながらゲームだって出来る時代なのだ。

「唯一の救いは、御曹司はあまりデジタルが得意で無いところですかな」
「テニスサークルの少女たちの動画をアップしたのは、彼ではないようですね」

「クズ男……おっと、失礼。九頭山 太刀男という少年ですよ」
 瀧鬼川弁護士は、口を滑らせ素早く訂正する。
そう言えば、襟田 凶輔もクズ男と読んでいた。

「よろしいのですか?」
「守秘義務のコトですかな。ええ、構いませんよ」
 中年の弁護士は、ニカッと笑う。

「彼の親からは、弁護料金の支払いはありませんでしたからな。それに彼は、今回の裁判の最大の敗因に他なりません」
「ですが九頭山 太刀男も、未成年なのでしょう?」

「未成年の少年たちの実名動画を出した、アナタ方に言われる筋合いはありませんな」
 確かに瀧鬼川弁護士からすれば、ボクもユークリッドの一味でしかない。

「今回の件、少年法を無視したユークリッドの動画も、九頭山がネットに投稿してしまった少女たちの動画の報復とみなされた。少なくとも、世論はそれが大勢です」

「マスコミ各社の報道も、概ね世論に沿っていますからね」
「全く、世論に迎合するマスコミなど、既にマスコミと呼べる代物では無い……」
 弁護士は、自分の言葉が熱くなっているのに気付き、コホンと咳払いをした。

「九頭山は、引っ越しを余儀なくされた少年たちやその父兄からも、酷く恨まれていましてね。彼の父親は、御曹司の父上の会社の社員でしたが、退社されたようですよ」
 瀧鬼川弁護士は、聞いてもいないコトまで漏洩(リーク)する。

「今回の一件は、ユークリッドの若き社長に完敗と言ったところです。ですが……近い将来、またお目にかかるかも知れませんな」
 弁護士は席を立つと、病院の廊下の向こうに小さく消えて行った。

 

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