狂乱のライブ
地震のように、揺れるスタジアム。
熱狂するファンの人波が、ボクの進路を阻害する。
「ド、ドローンがもう、ステージの前に行っているッ!?」
重低音のタリアのパートと、可愛らしいアステたち7人の少女たちのハミングが、入れ替わり立ち繰り返すカノン(追奏曲)は最終版を迎え、アウトロに入っていた。
「オイ、ドローンが1機、飛んでるぜ」
「アレも、ステージ演出なのか?」
「それにしちゃ、不自然な気もするケド」
観客席から、10メートルほど上を怪しく飛行する1機のドローン。
すでにボク以外の観客たちも、ドローンの存在に気付き始めていた。
「クソ、ここからじゃ、どうにもできない!」
ドローンは、タリアたちが歌うステージの前でホバリングをしながら、機体下部に装着された2丁のアサルトライフル銃を乱射する。
「きゃあああ!!」
ステージで曲を歌い終えたタリアやアステたちが、悲鳴を上げた。
銃の斉射は、手前の床照明を吹き飛ばし、中央に居たタリアに向っていく。
「ギャハハハハハ、ボクを追い詰めた報いを受けるがいい!」
会場付近のマンガ喫茶。
個室から、少年のおぞましい声が響いた。
「タリアーーーーーッ!!」
群衆をかき分け、ステージ方向に手を伸ばす、ボク。
けれども、どうにか出来るワケも無かった。
「ヤッ……!?」
運動神経の良いタリアであっても、呆気にとられ動けない。
「似合わん格好、してっからだ……」
そのとき、舞台袖から警備員の静止を振り切った男が、タリアに向かって飛び掛かっていた。
時間が、映画のスローモーションのように、ゆっくりと進む。
ドローンの銃撃が、タリアを捉える寸前……。
タリアは男によって抱えられ、ステージに転がった。
「お、お姉さまッ!?」
「いやあぁぁーー!!」
プレー・ア・デステニーの7人の少女たちの声が、マイクを通じて会場に響く。
「な、なんだ、なんだ!?」
「ひょっとしてあのドローン、演出じゃなくてテロなのかよ!?」
「タ、タリアちゃん、どうなった!?」
「そ、そうだ、タリアは……!?」
慌ててステージを確認する、ボク。
「オイ、立てるか……」
タリアを胸に抱えた男が、言った。
けれども返事は無く、抱えた少女は震えている。
「……たく、しゃーねェな。チビってんじゃ、ねェだろうな?」
ドローンを警戒しながら、タリアを抱え立ち上がる男。
「アレは、襟田 凶輔(えりだ きょうすけ)じゃないか!?」
金色の衣装を纏ったタリアを、お姫様抱っこするのは、かつてタリアによって重傷を負い、入院を余儀なくされた男だった。
「……え、襟田 凶輔。な、なんでお前がここに!?」
「あ、やっと喋れるようになったか。どうやら、漏らしちゃいねェみてーだな」
2人の会話は、タリアのヘッドセットマイクで会場中に伝わる。
「あ、当たり前だ。そ、それより、早く降ろし……て……!!」
タリアの口は、襟田 凶輔の口づけで塞がれた。
天井から吊り下げられた4面パネルに、タリアと襟田 凶輔の口づけの様子が映し出される。
同時にあらゆる角度からのキスの映像が、天井のクリアパネルに表示された。
「……な、なんでアンタが、居るんだよッ!?」
マンガ喫茶の個室で、モニターに映った襟田に怒りをぶつける少年。
「どうしてそんな女を、助けたんだ。せっかく顔面を、グチャグチャにして全国に放映させてやるつもりだったのに、どうしてアンタが邪魔するんだ!!」
少年の左腕が、大きなリモコンを再び操作した。
「な、なにしやがる、テメー!!」
「おっと、危ねェ」
抱えられたままのタリアのライトアッパーを、スウェーしてかわす襟田。
「……つっても、助けて貰ったのにそりゃ無いか。礼だけは、言っといてやる!」
放り出されたタリアは、難なく着地する。
ボクシングのように拳を構え、ドローンを警戒しながら左右にステップを踏んだ。
「そんなステップを踏んだところで、無駄さ。ライフルの弾をよけるなんて、マンガやアニメじゃあるまいし……出来るワケ……!?」
すると少年は、異変に気付く。
「ド、ドローンが、動かないだと。なんで、動かない!!?」
『ヤレヤレなのだわ』
『コイツの無力化に、時間がかかってしまったのだわ』
ドローンの上に乗った、小さな2体の人形が、会場のあらゆるモニターに映し出される。
『人間にしては、大したITスキルだとは思うケド、相手が悪かったわね』
『大人しくお縄に付きなさい、九頭山 太刀男』
「な、なにを言って……コイツら!?」
慌てて席を立とうとする、少年。
「九頭山 太刀男だな」
「身柄を、確保する」
けれども個室の外には、大勢の警官が待ち構えていた。
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