狂気の影
「アイツら、宙を舞ったまま1曲を終わらせたのか」
高いところが得意では無いボクにとって、生徒たちの勇気を褒め称えずにはいられなかった。
「おお、アステちゃんたちが、降りて来るぞ」
「見ろよ、ステージ。タリアが居るぜ!」
「ホントだ。きっと7人を、出迎えるんだ」
ボクも上ばかりを見ていたが、いつの間にかステージには黄金の衣装を纏ったタリアが居て、次々に降下して来る7人の少女たちの手を取り出迎える。
「あれが……タリアか。普段のパーカー姿を見慣れてると、とても同一人物とは……」
「思えないよね、先生!」
「タリアちゃん、すっごくキレイなのですゥ!」
いつの間にかボクの傍らに、2人の少女が立っていた。
「レノン、アリス、お前たちも来てたのか」
「あったり前じゃん。同じ天空教室の、仲間なんだからさ」
「スタッフさんに特別に入れて貰って、壁際で見てたのです」
「だけど壁際だと、ファンの人たちが大盛り上がりで、立ち上がっちゃって見づらくてさ。そしたら、先生とユミアがVIP席に居るのを見つけたんだ」
「ゴメンなさい、来ちゃいました」
「悪かったわね、2人とも。ホントは2人も、ここで見られるハズだったのに、コイツといきなり鉢合わせしちゃってさ」
ユミアの指さすコイツとは、久慈樹社長のコトだった。
「ボクとユミアは、エレベーターホールで社長とお会いして、そのままライブ会場まで来てしまったんだ。お前たちの席もあるから、座って見て行くとイイ」
ボクとユミアの後ろには、誰も座っていない席が3つ空いている。
「マジでェ、ラッキー」
「お邪魔するのですゥ」
金髪たてがみ少女と、フワモコ真っ白ヘアの女の子は、ボクたちの後ろの席に座った。
「クララは、一緒じゃないのか?」
「アイツ、普段から1人で浮いてるんだ。みんなで居るのが、嫌いみたい」
「お、起きたらもう、いなかったのですゥ。起きたの、10時ですケドォ」
「今日は社長の意向で、天空教室も休みになっているが、あまり弛んだ生活を……」
「それより、先生。ここに来るまでに、スゴいヤツを見たんだ!」
レノンが、真っすぐにボクを見ている。
「スゴいヤツ……って、一体誰だ?」
ボクの小言を聞きたくないからとも思ったが、一応は聞き返した。
「襟田 凶輔(えりだ きょうすけ)だよ!」
「襟田……って、本当なのか!?」
「タブンね。一瞬だったケド、あの顔は襟田 凶輔で、間違いないと思う」
襟田 凶輔とは、今ステージに立っているプレー・ア・デスティニーの7人の少女たちを襲い、盗撮をした少年グループのリーダーだ。
「アイツが、このライブ会場に来ているのか?」
「まさか逆恨みで、タリアやアステちゃんたちに復習なんてコト、考えてるんじゃないでしょうね?」
「可能性は否定できないな、ユミア。アイツは他の少年たち共々、ユークリッドによって世間に顔やプロフィールを晒されている。自業自得とは思うが、恨みを抱いている可能性も否定できない」
「これは、調べさせた方が良さそうですね」
久慈樹社長が、スマホを取り出し指示をする。
そうこうしているウチに、宙を舞っていた7人の少女たちは地上へと降り立ち、次の曲が始まろうとしていた。
「ボクは、辺りを確認して来ます」
「イヤ、このファンに埋め尽くされた会場から、1人の個人を見つけ出すなど不可能に近い。警備員にも連絡したし、レアラとピオラにも監視カメラの……を確認……いる」
久慈樹社長の言葉はなんとか聞き取れたものの、会場中が絶叫しそれ以上会話ができない。
「襟田 凶輔は、病院で会ったとき、タリアを自分のモノにするとか言っていた……」
不安を感じるボクだったが、揺れるライブ会場の中では身動きが取れなかった。
「何事も、起きなければイイんだが……」
ステージでは、タリアがメインボーカルの、パワーメタル的な重厚感溢れる曲が始まっている。
この後、ボクの悪い予感は意外なカタチで、的中するコトとなった。
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