ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

ある意味勇者の魔王征伐~外伝・10話

f:id:eitihinomoto:20190914042011p:plain

立ち昇る煙

「なあ、助けてくれよ。オレたちは、サタナトスに命令されたんだ」

 祭壇のかがり火によって、照らされる牛頭の巨像。
周囲では、大人たちがドラムの準備を始めている。

「……詳しく、話てみよ」
「え、えっと……」
 村長は、マルクの弁明に耳を傾けた。

「アイツはやっぱ、悪魔の子だったんだ。バッタの大群だって、アズリーサが呼び出したんだ」
 与えられた少ない時間の中で、咄嗟に考えた嘘。

「この村を覆いつくす、忌まわしき虫どもを呼び寄せたのは、あの蒼髪の娘だと申すか?」
「そうだよ。あの兄妹は村を追われて、復讐がしたかったんだ」
 マルクの言葉に、大人たちも顔を見合わせ騒めき立つ。

「聞き捨てならない言葉だが、にわかには信じられんな」
「とくにアズリーサは、髪の色とやい歯がある以外は普通の子供だったぞ」
「そこまで強力な魔術を使うなど、到底信じられません」

「ウウム……マルクの命押惜しさの、虚言と見るべきか」
「み、見たんだ!」
 その時、気弱な少年が叫んだ。

「ボ、ボボ、ボクも見たよ。アズリーサが魔術で、沢山のバッタを呼び出すのを」
「キノ……お、お前まで、何を言って……」
「オ、オレも見たんだ。悪いのは、あの兄妹だよ」

 マルクの嘘に、キノもハンスも同調し、彼の意に反するのはケイダンだけとなる。

「ヤツらは……サタナトスとアズリーサは、どこにいる?」
「谷を抜けた先の、砂丘の向こうのオアシスにいるよ」
「それは誠か?」

「村長、そのオアシスなら聞いた事があります」
「オオカミの出る礫の砂漠に隣接した、砂漠にあると冒険者が言ってたな」

「オオカミの群れなら、心配ないよ。サタナトスのヤツが、殆ど殺しちまったからな」
「なんじゃと?」

 マルクの瞳を確認する、村長。
けれども彼が今語ったコトは、紛れも無い真実であり、自信に満ちていた。

「オレたちを生贄にしたって、アイツらがバッタを呼び寄せているんだから無駄だよ」
「そ、そうだよ、マルクの言う通りさ」
「サ、サタナトスたちを、殺さなきゃ意味ないって」

「そのオアシスとやらに、出向く必要がありそうじゃな」
「ですが村長、冒険者の話ではオアシスは、屈強なリザードマンに支配されているのだとか」
「素人の我々が近づくのは、余りに無謀かと」

「ムウ、確かにそうじゃが、もしコヤツらの言葉が真実なら、放っておくワケにも行くまい」
「む、無謀ですよ、村長」
「解かっておる……」

 村長はしばらく試案を巡らせ、瞳を閉じる。

「そう……あの男に、同行を頼んでみるとしよう」
「あ、あの男とは?」

「ムハー・アブデル・ラディオじゃよ」
「ム、ムバーとは、まさかあの、蜃気楼の剣士と呼ばれた?」

「そうじゃ。ヤツは先の魔王討伐で、サタナトスたちの母でもあるマホ・メディアらと共に、パーティーを組んだ男よ」
 ゆっくりと、眼を開ける村長。

「今はカス・ギアの街に住んでいると聞く。夜明けを待って、使者を立てよう」

「こ、これで解かってくれただろ」
「た、助かったァ」
「ビビっちまったぜ」

「この者たちを、火にくべよ」
 安堵の表情を浮かべる少年たちに、死刑宣告をする村長。

「ま、待ってくれよ。オレたちは、有りのままを話しただろ!?」
「そ、そうだよ、なんで殺されなきゃならないんだよォ!」
「し、死にたくない、助けてくれ」

「サタナトスたちを討ったところで、村の惨状は変わらん。どの道お前たち孤児は、村に必要ない」
「悪いがそう言うこった」
「今の村には到底、お前たちを養える食糧は無いんだ」

 空洞の巨像の内部の大量の薪に、火が点けられる。
激しいドラムの葬送曲が、地底の溶岩湖に鳴り響いた。

「待ってくれ、オレたちが死ねば、オアシスの正確な位置は解からないぞ」
「それもそうじゃな。ならばケイダン、お主には少しだけ、生き永らえる時間をやろう」
 村長は、マルクではなくケイダンを指名する。

「ど、どうしてケイダンなんだよ。話したのはオレたちだぞ!?」
「そんな、そんな、そんな、そんな……」
「丸焼きにされるなんて、イヤだァ!」

 それから渓谷に、黒い煙が立ち昇った。
シスターは煙に祈りを捧げながら、泣き伏せった。

 前へ   目次   次へ