ゼーレシオン
「艦長、急いで。今のうちに脱出よ」
トゥランが、公園に開いた穴の中に飛び込んだ。
「アフォロ・ヴェーナーによるレーザー掃射の穴が、そのまま宇宙港に通じているんだな」
ボクたちは公園から、開けられたばかりの穴の中を降り、宇宙港を目指す。
「隔壁が溶解して高温な上に、回線網が焼き切れてバチバチ言ってるな」
「問題無いわ、宇宙港は直ぐ真下よ」
「ホ、ホントか」
トゥランの言葉は真実で、隔壁は意外に薄く一瞬で宇宙港に辿り着いた。
「宇宙港(ポート)の中はまだ、普通に空気が存在してるんだな。それに、重力もある」
「あ、見て下さい、おじいちゃん。おっきなホタテ貝が止まっているのです」
セノンが指さす先には、ホタテ貝の形のアフォロ・ヴェーナーが、その巨体を顕わにしている。
「それにしても、アフォロ・ヴェーナーの向こうは、普通に宇宙空間じゃないか」
「空気は、重力で繋ぎとめているんだ。1気圧よりは小さいケドな」
ボクの疑問に、真央が答えた。
「遅えぞ、艦長。待ちくたびれたぜ」
ぶっきら棒な声が、ボクを呼び止めた。
「プ、プリズナーなのか。何だ、その機体は?」
プリズナーの声は本人からでは無く、宇宙港に浮遊する人型の巨人から発せられる。
「バル・クォーダ。オレ用の、サブスタンサーらしいぜ」
巨人は髑髏の兜を被り、刺々しい鎧を着た戦士の様なデザインだった。
全身がメタルブラックやシルバーに塗装され、ハードロックな雰囲気を醸し出している。
「どうやらノルニール・スカラが、用意してくれていたみたいなのよ。アフォロ・ヴェーナーに格納される形で、送られて来たわ」
ノルニール・スカラとは、MVSクロノ・カイロスの艦橋に設置された、カプセルの中に居る存在だ。
カプセルは、小さな覗き穴意外に中を確認する手段は無く、除き見る者によって中身が異なる。
普段はフォログラムとして行動し、ヴェルダンディを名乗っていた。
「アフォロ・ヴェーナーに比べれば小さいケド、娘たちのサブスタンサーより大きい機体だな」
「トゥランのはギガンティス・サブスタンサーに分類される機体だし、お前の娘のは、グレンデル・サブスタンサーだからちっこいんだ」
「ちなみに彼の機体は、キュクロプス・サブスタンサーに分類されるわ」
「グレンデルやギガンティス、キュクロプス……巨人の種類で、大きさによる分類分けがされているのか」
「そんなコトより、急いで。この宇宙港も、イービゲネイアの管制下にあるのよ。いつ、気圧をゼロにされ、空気を抜かれるか分らないわ」
アフォロ・ヴェーナーから、貝の入水管のように伸びた乗降口から、搭乗するトゥラン。
「おじいちゃん、マケマケ、わたし達も急ご……うぎゃッ!」
後ろを見ていたセノンが、乗降口の壁にぶつかった。
「ちゃんと前を見てないからだぜ、ドジだなあ」
「ホラ、行くよ……」
「世話が焼けるんだから」
「あううぅ、アリガトなのですゥ」
栗色のクワトロテールの女の子は、3人の友人に囲まれながら、アフォロ・ヴェーナーへと吸い込まれて行く。
「後はボクだけか、急がないと」
「まあ待ちな、艦長」
髑髏の巨人が、話しかけてきた。
「どうかしたか、プリズナー?」
「実はよ。送られてきたサブスタンサーは、もう1機あったんだ」
「え?」
ボクは思わず、宇宙港の中を視線を泳がせる。
「こ、この機体は……」
アフォロ・ヴェーナーに隠れるように、白く輝く機体があった。
「どうやら、アンタの機体らしいぜ。ま、乗ってみるんだな」
ボクの前から立ち去り、宇宙空間に飛び出していく、プリズナーのバル・クォーダ。
「バル・クォーダに比べると、ずいぶんとシャープなデザインだな。なんか、昔に見たロボットアニメに出てきたロボットに、そっくりな気がする」
白を基調とした装甲に、黒い筋肉が剥き出しになっていて、金色のパーツがアクセントのように、各所に配されている。
「『ゼーレシオン』……確か、そんな名前だったな」
ボクはロボットを、仰ぎ見た。
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