ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第8章・EP022

アルセーヌ・ド・ヴァンドーム

 屈強な身体を大きく揺らしながら、コーナーポストまで走って行くイヴァンさん。
コーナーフラッグを掴んで、征服者のようなポーズを決める。

「身体能力しか取り柄の無い男に決められるとは、何たる失態だ」
 ベンチで、苦虫を嚙み潰す壬帝オーナー。

「よし、まずはウチが先制だ。ナイスゴール、イヴァンさん」
「おお、ロラン。ベンチを見てみろよ、壬帝オーナーのあの顔。悔しくて、たまんなさそうだぜ」

 豪快に笑う、イヴァンさん。
してやったりと言った顔で、自陣に引き上げて来る。

「一馬も、ナイスシュートだった。あれで、イヴァンさんが押し込めたワケだからな」
 ロランさんは、ボクのプレーも褒めてくれた。
やはり、カリスマってヤツがある気がする。

「ロラン、まだ1点取っただけだ。油断はできないぞ」
「わかってるさ、オリビ。相手はランスさんを使って来るか、あるいは……」
「最終ラインから、リベロたちが前線に出て来るかだな」

 ロランさんとオリビさんは、すでに相手の次のプレーを予測していた。

『ピーーーッ!』
 再びホイッスルが鳴らされ、試合が再開する。

 一旦ボールをアルマさんに預ける、ランスさん。
そのまま右サイドに流れて、オフサイドラインを気にしながら、後ろからのボールを待っていた。

「さて、どう動くかな。ボクには、ロランのようなドリブルで突破する能力はない」
 ボールを受けたアルマさんも、さらに後ろへとボールを戻す。

「ずいぶんと消極的なプレーじゃないか、アルマ」
 そこには、アルセーヌ・ド・ヴァンドームさんが待っていた。

「こっちはレギュラークラスが、ディフェンス陣に集中している」
 なにやら独り言を言っている、ヴァンドームさん。

 ヴァンドームさんは、フランスリーグ1部カテゴリーのボルドーのチームで、技巧派のリベロとして名を馳せた人物だ。
センターバックにしては、かなり多彩なテクニックを持っている。

「もしくは前線の枚数を増やすために、オレにボールを預けたってところか?」
 スライドの大きいドリブルを使って、前線へとボールを持ち上がるヴァンドームさん。

「これ以上、貴方に突破を許すワケには行かない」
 その進路を塞ごうと、ロランさんが立ちはだかった。

「そりゃそうだろうな。そっちのディフェンス陣は、控えメンバーしか居ないんだからよ」
 嫌味そうな顔をしたヴァンドームさんが、右サイドから前線に走るランスさんの位置を確認する。
けれどもランスさんには、オリビさんがマークに張り付いていた。

「予想通りだねェ。だが、こんなパスコースもあるんだ、ロラン」
 ヴァンドームさんは、左サイドからペナルティエリアに走り込む、アルマさんへのパスを狙っていた。

「それくらい、読んでいる。ナメてくれるな!」
 ロランさんがパスコースを切りながら、タックルでボールを奪いにかかる。
けれどもヴァンドームさんは、パスを出すそぶりを見せただけだった。

「なにィッ!?」
 勢い余って、ヴァンドームさんの脚を刈り取ってしまうロランさん。
技巧派リベロは地面に転がり、痛そうに脚を抱え込んでいる。

『ピーッ!』
 レフェリーが笛を鳴らし、試合が中断され、ロランさんにイエローカードが提示された。

 ペナルティエリアの10メートルくらい手前からの、直接フリーキック。
キッカーは、さっきまで転げまわっていた、ヴァンドームさんだった。

「この距離なら、べリックのヤツに蹴ってもらうまでも無い。オレが直接、叩き込んでやるさ」
 控え組のキーパーが指示を出し、ヴァンドームさんの前に壁が構築される。

「aucun problème(問題ない)」
 アルセーヌ・ド・ヴァンドームさんの蹴った直接フリーキックは、左から壁を避けるように大きく弧を描いて、ボクたちのゴールへと吸い込まれた。

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・29話

偉大なる大魔導士の高弟

 城と呼ばれるような建築物を持たない、海底都市カル・タギア。
替わりに御殿のような建物で、国の執務が取り行われている。

「……と言うコトだ、舞人。お前に、クエストを依頼したい」
 玉座と呼ぶには質素過ぎる赤い木の椅子に座った、オレンジ色の長髪に日に焼けた肌の王が言った。

「わ、わかりました、バルガ王」
 幼き日より赤毛の英雄に憧れていた少年は、2つ返事で了承する。

「ボクやルーシェリアは、一般人のフリをしてクノ・ススに潜り込めば良いんですね?」
 舞人は、円卓を挟んで向こう側の席に座った王に、クエスト内容を確認した。

「ああ、そうだ。危険を伴う任務だが、ミノ・リス王やラビ・リンス帝国の王族には、オレやコイツらの顔は割れちまってるんでな」
 バルガ王の左右には、シドンとギスコーネが座っている。

「ヤツらとは、大した付き合いでもないんだが、一応ボクもカル・タギアの王族なんでね。軽々しく赴くワケには、行かないんだ」

「わかっています、ギスコーネさん。それで、ラビ・リンス帝国が戦争を始めるかも知れないってのは、本当なんですか?」

「まだ兆候が、見え始めていると言ったところだがな。ミノ・リス王は、武器や食料を大量に買い漁っている。恐らくは、どこかの国と戦争をするつもりだろう」
 バルガ王の知恵袋である、シドンが告げた。

「サタナトスが、人間の脅威として各地で暴れ回って、大変なコトになってるっつうのに、人間同士が戦争なんか始めてる場合か」

「そうは言われましても、兄上。ミノ・リス王は元々、領土を拡大するのに野心的な王です。ヤホーネスの王都が壊滅的な打撃を受けて先王が亡くなり、我らがカル・タギアも父上を始め7海将軍の多くが、かの者の軍門に降ってしまわれました」

「陸と海の大国が危機的状況にある今こそ、領土拡大の絶好のチャンスってコトか」
 実の弟の見解に、ため息を吐き天井を仰ぐバルガ王。

「なんじゃ、バルガ王。呼び出されたから来てみれば、きな臭い話をしておるでは無いか」
 御殿の会議室の扉が開き、2人の少女が入って来た。

「仕方ねェだろ。実際にきな臭い情報が、飛び込んで来たんだからよ」
「その情報の発信源は、どこなのさ?」
 スプラが、バルガ王に率直に聞く。

「ベリュトスの漁師仲間や、港で商売をしている商人たちだ」
「そっか。まあまあホントっぽいね」

「もちろん、敵が偽の情報を流している可能性も無くはないが、ラビ・リンス帝国が戦争の下準備を始めているという、偽情報を流す必要性も無いのでな」
 シドンが、可能性から現状を示唆(しさ)した。

「それでご主人サマと妾に、敵情を探って来いと言うのじゃな?」
「ラビ・リンス王国では、お2人の顔を知る者は居ないでしょうからね」

「チョッ……お2人って、ボクは入ってないの!」
「貴女は仮にも、七海将軍の1人でしょう。ラビ・リンス王国の誰かが顔を知っていても、おかしくはありません」

「ボクは、ラビ・ランス帝国のヤツらなんて、誰も知らないんだケド」
「貴女が知って居なくとも、向こうが貴女を知っている可能性があります」

「シドンさんの言う通りだよ、スプラ。それに七海将軍として、兵士たちを訓練する仕事もあるだろ?」
「ヒドいよ、ダーリン。そりゃないよォ」
 ヘタヘタと座り込む、スプラトゥリー。

「残念じゃったな。お主は大人しく、カル・タギアの防衛でもしておれ」
「キイィィッ!」

「それじゃあボクとルーシェリアの2人で、クノ・ススに潜り込むのか」
「残念じゃが、付き添いがおっての。ホレ、入って参れ」
 ルーシェリアが、自分たちが入って来た扉に向け叫んだ。

「し、失礼いたします」
「お。お邪魔します」
 扉が開き入って来たのは、ウティカとルスピナだった。

「ルーシェリア、このコたち……誰?」
 バルガ王以外の、皆の頭の中に在った疑問を、舞人が代表して質問する。

「偉大なる大魔導士の、高弟さ」
 ルーシェリアは、ニヤッと笑った。

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一千年間引き篭もり男・第08章・20話

作戦完了(クリア)

 掘削途中だったセノーテ予定地の巨大な縦穴。
シュガールの捲き起こした竜巻によって、洗濯機の洗濯槽に叩き込まれたかの様な錯覚を覚える。

「行けェェッ!」
 光の球(ブリューナグ)が、激しいスパーク音と共に、大ムカデの群れへと放たれた。

『ギェヤァアアアア――――ッ!!』
 ケツァルコアトル・ゼーレシオン必殺の最終兵器は、大ムカデの頑強な装甲を軽く破砕して疾走する。

「流石は、ブリューナグ(神の雷)だぜ。ムカデの丸焼きが、次々に出来上がってやがる」
「喜ぶのはまだだ、プリズナー。いくらムカデを焼き払っても、本体を仕留めなければ意味がない」

「了解したぜ、艦長。本体までの道は、見えた。このまま本体まで辿り着いて、オレのテスカトリポカ・バル・クォーダの戦斧(テペヨロトル)で、粉砕してくれる!」
 黒きドクロの神が、血塗られた戦斧を両腕に、ブリューナグの切り開いた道を突き進んだ。

「喰らいな、シュガール。ここは、新大陸だ。ヨーロッパのヤツらに、好きにはさせねェ!」
 テスカトリポカから噴き出した黒煙が、激しい戦いの様子をボクの目から隠す。

 禍々しい黒煙は、シュガールとテスカトリポカ・バル・クォーダを完全に包み込んだ。
やがて黒い煙は、シュガールの捲き起こした竜巻へと伝播し、ボクたちは黒い旋風に包まれる。

「オヤジ、上はどうなってんだ!」
「敵は、倒したのか?」
「辺りは、黒い竜巻に囲まれちまってるぜ」

 マレナ、マイテ、マノラ・ムラクモの声が、ゼーレシオンの高感度アンテナを通じて聞こえた。

「わからない……プリズナーが、シュガールを仕留めに行ったんだが」
 掘削機の頂上を隠す、黒煙が晴れるのを見守るボク。

「オレが、負けるワケねェだろうが」
 黒い煙の間から、ドクロの顔を持ったサブスタンサーの異形な姿が垣間(かいま)見える。

「ま、負け戦はイヤってホド、経験済みなんだがな」
 テスカトリポカ・バル・クォーダは、斬り刻まれたシュガールの残骸を踏み付けていた。

「オヤジ。こっちも片付いたよ」
「落っこちて来たムカデは、アタイらがぜんぶ退治してやったぜ」
「本体も、やっつけたみてーだな?」

 シエラ、シリカ、シーヤの3姉妹が、穴の底に広範囲に降り注いだ大ムカデの群れが、死に絶えたコトを伝えてくれる。

「ああ。これでもう大ムカデが、召還されるコトはないだろう」
 ケツァルコアトル・ゼーレシオンの大きな瞳に映る、テスカトリポカ・バル・クォーダ。

「作戦完了(クリア)ってところか、宇宙斗艦長」
「ゼーレシオンの触角でも、この領域に敵の気配は感知出来ない」
 セノーテ予定地の奪還作戦は、確かに完了していた。

「それなら、長居は無用だよな、オヤジ」
「こんなおぞましいところ、さっさと出ようよ」
「ムカデの残骸のじゅうたんなんて、趣味悪過ぎてさ」

 セシル、セレネ、セリス・ムラクモの3姉妹も、戦士であると同時に女のコなのだ。

「了解だ。シュガールの起こした竜巻も消滅したみたいだし、安全を確認しながら帰ろう」
 戦いを終えたボクたちは、トラロック・ヌアルピリのセノーテへと帰還する。

「ご苦労だったな、冷凍睡眠者(コールド・スリーパー)」
 そう言って出迎えたのは、ドス・サントスさんの乗る、巨大なサブスタンサーだった。

「そっちは、何ごとも無かったみてェだな」
「お陰様で、敵も襲来しなければ、戦いもありませんでしたよ」
 ヘラヘラとした笑顔のメルクリウスさんに、苛立ちを見せるプリズナー。

「ケッ、まったく呑気なヤツだぜ。奪還してやったセノーテは、どうすんだ?」
「オレが直々に別動隊を組織して、セノーテ予定地の現場に向かうぜ。掘削機が使えるかどうかも、確認しなきゃならんのでな」

 企業国家であるトラロック・ヌアルピリと同じ名前のサブスタンサーに乗ったドス・サントスさんは、工作員の部下たちを連れて、ボクたちが来たトンネルの中へと消えて行った。


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この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第12話

日本の会社社会の悪癖

「久慈樹社長。貴方はもっと、理性的な方だと思っていました」
 ボクは自分ですら、最後の悪足掻(あが)きだと解っていながら言った。

「それは、キミの見解だろう。間違いなく彼女は、そう思っていない……だろ?」
「ええ、とうぜんよ。アンタが理性的だなんて、考えたコトすら無いわ」
 ピシャリと言い切る、ユミア。

「キミとの付き合いも、かなりのモノだからね。ボクがキミの過去を知っているように……」
「わたしだって、アンタの過去はウンザリするくらい知っているわ。何人もの女の子たちを泣かせてきた、ドス黒いアンタの過去を……ね」

 控室の前で、いがみ合う久慈樹社長と、瀬堂 癒魅亜(せどう ゆみあ)。
すると部屋の中から、煌(きら)びやかなアイドル衣装を着たボクの生徒たちが出てきた。

「あら、ユミアたちも来たのね」
「もうすぐ、ライブの時間よ。それに……テストの時間でもあるわ」
 生徒たちを代表する、優等生のライアとメリー。

「ライアとメリーは、知ってるのか。アタシたちが、アイドルにされるってコト」
「ええ、知っているわ。と言っても、聞かされたのはつい先刻だケドね」
 レノンの問いに答える、ライア。

「レノン、アリス、大丈夫……じゃないわよね」
「ま、まあな。メリー先生」
「ぜんぜんだいじょうぶじゃ、ないのですゥ」

「久慈樹社長。アイドルを目指してすらいない彼女たちに、いきなりアイドルになれって言われてもムリに決まっているでしょう。歌もダンスもレッスンすらしていないのに、無謀過ぎです」

「キミはボクに、口答えするのかな……八木沼 芽理依(やぎぬま めりい)」
「そ、それは……」
 高圧的な台詞でメリーを黙らせる、ユークリッドの支配者。

「完全にパワハラですね、久慈樹社長」
 ライアが、正義の眼差しを向ける。

「これはこれは、正義の弁護士でも気取るのかい。新兎 礼唖(あらと らいあ)?」
「そんなつもりは、ありません。正義を断罪するのは、弁護士の役目ではありませんから」
 ライアの言葉は、揺らがない。

「自分を裁判官と勘違いしてる弁護士も多いようだが、キミは違うのだね。だがね、ライア。日本の会社社会の生んだ、悪癖とでも言うべきモノがあるのだよ」
「日本の会社社会の悪癖……ですか?」

「残念ながらパワハラなんて罪状でショッ引かれるのは、いつもそこそこの立場のヤツらだろう。頂点に立つヤツらは、ちゃんと身代わり(クッション)を用意して置くモノだよ」

「そ、そんなコトが、許されるのですか!」
 表情が強張る、ライア。

「大抵の場合、許されているじゃないか。なあ、クララ」
 向けられた久慈樹社長の視線から、顔を逸らす深紅のポニーテールの少女。

「残念ながら、多くの報道ではそうなっているわ。社長は直接、無理難題を最下層の社員に押し付けるのではなく、中間管理職と言う名のクッションを通してそれを行う。もし問題が生じたとしても、責任を取らされるのは部長や課長クラスなのよ」

「確かに、悪癖ですね。ですが、正義が成されるようにクライアントを精一杯弁護するのが、弁護士の役目です」
 ライアも、ただでは引き下がらない。

「それは、金次第だな」
 久慈樹社長の返答に言葉を詰まらせる、ピンク色の髪を宝石で飾った少女。

「キミだって知っているだろう、ライア。事務所を構える1流の弁護士と、弁護士を雇う金すら無い人間に付けられる国選弁護人とでは、能力がまるで違うのだよ」

「1流の弁護士を高額の金を払って雇っている人間には、金のない貧乏人は勝てないってコトですか?」
 今度はボクが、直接伺いを立てた。

「そう言っているじゃないか。例えば、こんな話がある」
「どんな話か知らないケド、さっさと語りなさい!」
 ユミアが、威嚇(いかく)する。

「ブラック企業に勤めていた、ある男の話さ。その男は、ブラック企業の違法なヒドい待遇を、裁判所に訴えた」
「訴えが……認められなかったのね?」

「イヤ、認められたよ。契約社員に対し、違法な処遇を行っていたとね」
「え、だったら……?」

「だがブラック企業は、その男を逆に名誉棄損で訴えた。自分たちを、ブラック企業と呼んで大きく名誉を損ねたとしてね」
「違法な行為を、行っていたんでしょう。そんなの、通るワケ……」

「そこを通すのが、企業のお抱え弁護士さ。裁判に負けた男は、高額の慰謝料と裁判費用を請求され、借金にまみれた」

 久慈樹 瑞葉は、金の無い男の顛末(てんまつ)を心底嘲笑(あざわら)った。

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キング・オブ・サッカー・第8章・EP021

オーナーへの答え

「まずは、オレたちのボールからだ。一馬、予定通りに行くぞ」
 背番号10の青いビブスを着た、ロランさんが言った。

「……はい」
 なんの背番号もない青いビブスのボクは、小さな声でコクリと頷(うなず)く。

『ピーーーーーッ!』
 ホイッスルが鳴り響き、30分ハーフの試合が始まった。

 センターサークルでボクは、ロランさんにボールを蹴り出す。
そして、試合前に指示されていた通りに、フォワードのポジションである前線へと走った。

「なるホド。あの影武者を、フォワードに使うつもりか」
 ベンチでボクたちの出方を伺う、壬帝オーナー。

「サンキューな、一馬。オレの我がままに付き合わせちまって、本当にすまないと思っている」
 ボールを受け取ったロランさんが、華麗なドリブルを開始した。

 やっぱ、エトワールアンフィニーの10番を任されてるだけあって、メチャクチャ上手い。
相手のフォワードや中盤のプレスを、軽々とかわしちゃった。

「やはり、控えのフォワードや中盤では、お前は止められんか。だが、そこから先は、ウチのレギュラークラスが待ち構えている。たとえお前とて、一筋縄では行かんぞ」

 ベンチの壬帝オーナーの言葉なんて聞えるハズも無かったが、今まさにロランさんの前に、アルマさんが立ちはだかっていた。

「ロラン、ボクもキミやキミの姉さんの想いには、賛同する。だけどこれは、サッカーの試合だ。手を抜くコトは、出来ない」
 ロランさんやオリビさんにとって、優しい兄貴分のアルマさん。

 壬帝オーナーから、ロランさんに替わってチームキャプテンに指名されていた。
責任感の強さは伝わって来たし、手を抜けないのも仕方ないのかも知れない。

「もちろんですよ、アルマさん。こっちこそ、迷惑をかけまくって申しワケなく思ってます」
 ロランさんが右脚で、ボールを大きく刈り込むように内側に持って行き、突破を図る。
アルマさんも瞬時に身体を右に寄せ、ドリブルのコースを切った。

「ですがオレも、サッカーの試合で手を抜くなんて出来ない。このオレを、簡単に止められるとは思わないで下さいよ」
 ボクは知らなかったケド、名古屋では倉崎さんともやり合った、ロランさん。

「なッ、しま……!?」
 今度は、右脚のアウトでボールを右側に出し、アルマさんの左を抜き切った。

「C'est un beau dribble(イイ、ドリブルだ)」
 ヴィラールさんが、フランス語で呟く。

 白いビブスのバックラインは、エトワールアンフィニーのバックラインをそのまま切り取って持ってきたモノで、レギュラークラスが顔を揃えていた。

「フランスのトップリーグで、レギュラークラスだったアナタたち。さて、オレのドリブルでどこまで斬り込めるか」
 言葉とは裏腹に、迷いなくドリブルで斬り込むロランさん。

「ヤレヤレ、ここは通さんぞ」
「エースと言っても、まだ若いね」
 センターバックでリベロの、ヴィラールさんとヴァンドームさんが立ちはだかった。

「まずはオレが行く。ヴィラール、フォローを頼む」
 ヴァンドームさんが最終ラインから前に出て、ロランさんに接近する。

「よし、一馬!」
 ヴァンドームさんを自分に引き付け、ギリギリでボクにパスを出すロランさん。
ボクはペナルティエリアに入ったくらいで、足元にボールを受けた。

 2人しか居ないセンターバックが縦に並んでいるから、シュートコースがガラ空きだ。

「マズい、間に合わないね!」
 ヴィラールさんが、必死に距離を詰めて来る。

「遅い……」
 ボクはヴィラールさんの居ない左側に向けて、シュートを撃った。

「ヴォーバン!」
 ヴィラールさんが、信頼するキーパーの名前を叫ぶ。

「Laisse le moi(任せな)!」
 フランスのトップリーグのチームで、正ゴールキーパーを務めたコトもあるドミニク・ヴォーバンさんが、横っ飛びに跳んでボールに触れた。

 アレを止めるなんて……完全に、決まったと思ったのに。
落ち込むボクの、左側に転がるボール。
反応が遅れ、先に触られてしまう。

「オラ、これが答えだ、壬帝オーナー!」
 ボールに反応したのは、野性的な体躯のイヴァンさんだった。
筋肉で覆われた脚が、強烈にボールをインパクトする。

 圧倒的な威力のシュートが、相手ゴールの右サイドネットに突き刺さった。

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・28話

水の王女とカゲロウの神

「さて、実験室もキレイに片付いたね」
 見違えるホドに整然と並んだ本棚や、なにも落ちていない床。
2人の愛弟子たちの仕事に、満足気な顔を浮かべる大魔導士。

「リュオーネ……お主、自分で部屋を片付けたコトはあるのかえ?」
「ないな。そんな時間があれば、研究をしているからね」
 シャポーで顔を隠す大魔導士に、肩を竦めるルーシェリア。

「でもさ。見たところ、どこにでも居そうなコたちだケド、魔法の才能はあるの?」
「そうだね。ルスピナ、ウティカ、精霊を呼び出してごらん」
 スプラの疑問に、弟子たちに実技で答えさせるリュオーネ。

「わ、わかりました、お師匠さま。まずは、わたしからやってみます」
 ルスピナが目を閉じ、両掌(てのひら)を天に向けて開いた。

「ん……んん、水の精霊さん……」
 すると、左右に垂らしたコバルトブルーのお下げが、水を纏(まと)ってフワリと揺らめく。

「ずいぶんと、大物が出て来おったわ」
「こ、これって、水の精霊(ウォーターエレメント)と言っても、かなり上位のヤツなんじゃないの!」
 ルーシェリアとスプラは、少女の背後に具現化した精霊を見て驚く。

 青い水で出来た精霊は、ミドルヘアに整った顔立ちをした少女の姿をしていた。
下半身は6頭の犬の上半身になっていて、犬の下半身からは、12本の海龍の尻尾が長く伸びている。

「名をメガラ・スキュレーと言って、水の王女とも呼ばれる高位精霊さ。魔物とされるコトもあるケドね。どちらかと言えば、神に近しい存在だよ」
 弟子の呼び出した精霊を、解説する師匠。

「では、次はわたしが行きます。ハアッ!」
 気合の掛け声を上げる、ウティカ。
ハンターグリーンの背中で纏めた髪が、風に舞う。

「今度は妾も、知らぬ精霊じゃのォ」
「元魔王の、キミでも知らないんだ」
「風の高位精霊なのは、一目瞭然(いちもくりょうぜん)なのじゃがな」

 風は、ウティカを中心として竜巻となり、海底都市のドームの天井に雷雲を呼ぶ。
吹きすさぶ暴風の中に、異形の姿が顕(あらわ)れた。

「わたしですら、東の国の文献をあさって、やっと正体を突き止めたくらいだからね」
「なんと、東の国の神なのかえ?」
「ああ、そうさ。かなり古い時代の神だよ」

 大魔導士は、弟子の呼び出した巨大な竜巻を見上げる。

「名を、アニチ・マリシエイと言ってね。陽炎(かげろう)の神らしいね」
「カゲロウ……夏の暑い日とかに、幻が見えるヤツのコト?」
「そう。だから姿を見せないのさ。軍神と呼ばれたり、暁(あかつき)の女神とされたりするらしいね」

「それでは、男か女かも解らぬではないか」
「まったく、その通りだよ。謎だらけの精霊を、呼び出してくれたモノさ」

 リュオーネは、高位精霊を呼び出した弟子たちの元へと向かう。
2人の労をねぎらうと、呼び出した精霊を本来の世界へと返した。

「なんじゃ。ひょっとして呼び出せはするが、返すのは出来ないのかえ?」
「まだ、そこまでは教えてないからね。なあに、直ぐに覚えるよ」
 弟子たちを連れて、戻って来るリュオーネ。

「名高い大魔導士サマに言われちゃうと、流石に説得力あるよね」
「これだけの、高位精霊を見せられてはのォ。納得する他、ないようじゃ」

「ところでお前たち、バルガ王の元へ行くのであったな?」
 大魔導士は、シャポーを上げる。

「そうだケド、なにか伝言でもあるの?」
「いいや、スプラ。実はこのコたちを、王の元へ連れて行ってやってくれないか?」

「2人って、ルスピナちゃんと、ウティカちゃんのコト?」
「他に居ないだろう」
 弟子の背中をポンと叩いて、2人を送り出すリュオーネ。

「お、師匠さま!」
「ど、どう言うコトでしょうか?」

「魔法の修行さ」
「しゅ、修行ですか?」
「今でも、お師匠サマの元で……」

「魔導の知識を覚えるのも、重要なコトだケドね。実際に世界を歩いて、色んな精霊と出会い、魔法を会得するのも大切なコトだからね」
 不安そうな顔の愛弟子たちに、優しい微笑みを見せる褐色の肌の大魔導士。

「アンタたちはね。まだ若いんだ。色んなモノを、その目で見て来るといい」
「わ、わかりました」
「では、行って参ります」

 ルーシェリアとスプラに連れられ、旅立って行くルスピナとウティカ。
リュオーネは少しの間、小さくなって行く愛弟子たちの背中を見送った。

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一千年間引き篭もり男・第08章・19話

アステカの神対スペインの神

 セノーテの予定地に残された、掘削機の上に貼りついた嵐と雷の神・シュガール。

「かつてアステカ帝国を侵略した、スペインの神か……」
「ヨーロッパのアーキテクターを従えてやがったのも、関係がありそうだぜ」

 ケツァルコアトルとテスカトリポカ。
アステカの2柱の神の名をいただいたサブスタンサーが、スペインの神に刃を向ける。

『ギャガッガガッゲ』
 不気味な音を発したシュガールは、無数に生えた大ムカデの頭をこちらに向け、一斉に火焔弾を吐いて攻撃して来た。

「嵐と雷の神のクセに、火焔弾とはね」
「無節操な神も、居たモンだぜ」

 ボクのケツァルコアトル・ゼーレシオンは右に、プリズナーのテスカトリポカ・バル・クォーダは左に開いて攻撃を仕掛ける。
中央からは、娘たちが駆る9機のジャガーグヘレーラーが、ライフルによる射撃を開始していた。

「フラガラッハッ!」
 腰の背面にマウントされた魔の十字剣を右手に握ると、ボクは大ムカデの1匹を頭から長い胴体に沿って、真っ二つに斬り裂く。

「テペヨロトル!」
 プリズナーも、両腕に持った真っ黒な斧の名を叫んだ。
黒光りする斧で、大ムカデを乱雑に切り刻むテスカトリポカ。

「ガッハハ、こりゃあ大した切れ味じゃねェか!」
 狂乱の黒き神は、2挺の斧をムカデの緑色の体液で汚しながらも、敵を次々に破壊して行く。

「プリズナー、煙が出ているぞ。大丈夫か?」
 ゼーレシオンの高性能な目が捉えた、テスカトリポカ・バル・クォーダには、全身に黒い煙が纏(まと)わり付いていた。

「気にすんな、艦長。どうやらこれが、仕様らしいぜ」
 ドス・サントスさんによって与えられた、新たな装備の性能を確かめる為、試し斬りをするように敵を倒して行く、黒きドクロの破壊神。

「スペインの神ってのも、大したコトはねェな」
「だけどおかしいぞ。これだけ斬り伏せているにも関わらず、大ムカデの数がほとんど減っていない」

「な、なんだと!」
 狂乱から、我に還るプリズナー。
その足元には、無残に切り刻まれた無数の大ムカデの死骸が転がっていた。

「大ムカデがシュガールの本体から、昔の日本のロボットアニメの胸部ミサイルみたいに、無限に生成されてるんだ」
「オイオイ。質量保存の法則とか、どうなったよ」

「どうやらシュガールの本体が、一種のワープ装置なんだろうな。現に本体から切り離されて、活動しているヤツも居る」
 本体から這い出た大ムカデは、その長き巨体をうねらせながら、巨大な穴の底へと落下して行く。

「うぎゃあ、ムカデが降って来た!」
「なんなんだい、コイツら」
「ライフルのビームが、通んないよ」

「セシル、セレネ、セリス、お前たちが中心になって対処してくれ。ライフルの遠距離よりも、近接戦闘の槍の方が通りやすいハズだ」

「了解したよ、オヤジ」
「元々ウチらのサブスタンサーは、近接戦闘用なんだ」
「確かに槍なら、装甲を破れるね」

 夢で出会った3姉妹の長女ショチケ・サントスの3人の娘たちが、リーダーシップを取って大ムカデの殲滅(せんめつ)に当たっていた。

「よォ、艦長。本体から大ムカデが生成されるスピードが、速くなってねェか?」
「ああ、プリズナー。どうやら本体を真っ先に叩くしか、無いみたいだな」

 ボクたちは、再びシュガールに攻撃を仕掛ける。
けれどもボクたちの前には、大ムカデの大群が立ちはだかっていた。

「クソッ、斬っても斬っても、これじゃキリがないぞ」
「近接武器じゃ、ラチが明かねェぞ。艦長、アレしか……」
 テスカトリポカ・バル・クォーダのドクロの頭部が、ケツァルコアトル・ゼーレシオンを見ている。

「了解だ、プリズナー」
 ボクたちの見解は一致し、ゼーレシオンは左腕に装備した大きな盾を展開した。

「ブリューナグ!!」
 ゼーレシオンの盾から虚空の天井に向って、光の球がバチバチと音を立てて放たれていた。

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