白と青のビブス
ボクたちは、ピッチに移っていた。
真新しい芝が生えそろったグランドに散る、白と青のビブスの選手たち。
「試合は、30分ハーフの60分。無論、1点でも多く取ったチームの勝利だ。同点の場合は、10分ハーフの延長戦となる」
シャルオーナーが、試合のレギュレーションを説明する。
「D’accord(了解ですよ)、壬帝オーナー。我々が、負けるハズが無いね」
白の背番号5を付けたヴィラールさんが、フランス語で言った。
白のビブスはシャルオーナー側のチームで、エトワールアンフィニ―の主力級が名を連ねる。
「とうぜんだ、ヴィラール。フルミネスパーダ戦のような無様な戦いは、2度と許さん」
「D’accord(ダッコー)」
同じ返事を繰り返す、ヴィラールさん、べリックさん、ヴァンドームさん、ヴォーバンさん。
少し前までフランスのトップリーグに所属していた彼らも、全員白いビブスを着ていた。
「こちらも了解ですよ、壬帝オーナー。ロラン、問題ないだろ?」
「ああ、問題ないさ。一馬、準備は出来てるか?」
青いビブスを纏(まと)ったロランさんの問いかけに、ボクはコクリと頷(うなず)く。
「イヴァンさん、アナタも問題はありませんか?」
「レギュレーションに問題はないんだがよ、オリビ。なんでオレが、フォワードじゃなく中盤なんだ。説明して貰おうじゃないか」
屈強な身体を誇るイヴァンさんが、オリビさんに苦言を呈した。
するとオリビさんでは無く、壬帝オーナーの口が動く。
「理由など、明白だろうに。オフサイドラインを気にしないお前をそのままフォワードで使えば、どれだけオフサイドを取られるコトか。だからあえて中盤に下げて、前線に飛び出させる戦術なのだろうが……所詮は、付け焼刃に過ぎん」
「お見通しですか。ま、狙いはそれだけじゃ、無いんですケドね」
「なにィ?」
睨み合う、ロランさんと壬帝オーナー。
「ま、納得したワケじゃねェが、了解だぜ。中盤だろうが、ポジションなんて関係ねェ。壬帝オーナー、アンタんトコの貧弱なフォワードよりは、多くの点を決めてやるさ」
イヴァンさんはオーナーに言ってのけると、自陣へと消えて行った。
「ランス、ヤツはお前を貧弱と言っているぞ」
壬帝オーナーは、後ろに立つ白いビブスの男に告げる。
「野生児らしい、セリフですね。ですが身体能力だけで点が取れるホド、現代サッカーは甘くないと言うところを、見せてやりますよ」
「ランス。ストライカーに求められるのは、雄弁でもなければ詭弁(きべん)でも無い。結果だ」
「わ、わかってます、オーナー。この試合で、必ず結果を出して見せます」
去年はシーズンの大半をケガで棒に振ったストライカーが、得点を宣言した。
この試合、ロランさんと壬帝オーナーの戦術論の戦いだけじゃなく、イヴァンさんとランスさんの、ストライカーとしてのプライドをかけた戦いでもあるんだ。
「一馬、今まで色々と迷惑をかけた。本当に、すまないと思っている」
ボクの隣で、センターサークルに立つロランさんが言った。
「迷惑ついでにこの試合、最後まで付き合ってもらうぞ」
「は、はい……」
小さな声で、返事をする。
ボクは、ロランさんやオリビさん、イヴァンさんと同じ青いビヴスを身に付けている。
ボクはこのチームのメンバーではないけれど、やっぱ足を引っ張らないようにしないと……。
「では、さっさと試合を始めるぞ。公平を期するために、審判と線審はスタッフから用意した。オレは自分のチームの指揮は執るが……構わんな?」
「モチロンですよ。ご自由に、どうぞ」
自信に満ちた、詩咲 露欄(しざき ロラン)さん。
青いビブスの背中には、10番の背番号が刻まれていた。
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