ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第11話

時間

 時間とは、なんだろうと考える。
科学的に言えば、物質が遷(うつ)ろう無限のさまを、人間が区切った尺度なのだろう。

「お前たちの先生で居られるのも、あと僅かな時間……か」

 抽象的に言うのであれば、時間とは過去から未来へと流れる一方通行の河であり、誰も時間を遡(さかのぼ)った者など居ない。

「ボクが足掻(あが)ける時間も、これで最後と言うワケだ……」
 かつての教え子たちが、アリスをイジメていたと知ったボクは、落ち込まずには居られなかった。

「そんなコトいうなよ、先生。まだテストがダメだなんて、決まったワケじゃないジャン」
 かつては勉強が苦手で嫌いだった、レノンが言った。

「わたし達、頑張るんだからね。みんな、先生がクビになんて、なって欲しくないんだから」
 エレベーターのゴンドラの、透明ガラスにもたれ掛かった栗毛の少女が、ボクを見つめている。

「ああ。そうだな、ユミア」
 テストを受ける生徒たちを励ます立場のボクが、逆に励まされてどうする。
もっと、しっかりしないと。

「教師であるボクに残された最後の手段は、キミたちを信じるコトだけだ」
 ボクは自分の両頬を、激しく叩いた。

 日本の技術者たちが開発した高速エレベーターは、ボクたちを瞬時に下界まで運んでくれる。
この巨大高層建築を作ったのだって、日本の技術者や建築会社なんだ。
それらの会社に、優秀な人材を提供して来たのは、かつての義務教育や学校だった。

「なにも、落ち込む必要なんて無いさ。どんなシステムにだって、利点もあれば欠点もある」
 ボクは必死に自分の信念を補完し、前向きになろうとする。

 エレベーターのドアが開き、馴染みの地下駐車場の光景が広がった。

「思えばボクは、最上階と最下階の2つのスペースしか、使って来なかったな」
「なに、しんみりしてんのよ。これからだって、まだまだここに来るんだからね」

 ボクの雇い主は、強気な顔を見せる。
けれどもそれは、ユミアなりの精一杯の強がりなのだろう。

「だけどまさか、ライブ会場でテストを受けるハメになるなんてな」
「思っても、みなかったのです」
 先を行く、レノンとアリスが言った。

「アイツの悪趣味には、ホントあきれる他ないわね」
 久慈樹社長の悪口をまき散らしながら、控室へと入って行くユミア。
他の生徒たちも、後に続く。

「申しワケございません。こちらの控室は、男性はご遠慮願います」
 簡易の机に居た女性スタッフが、ボクにアタマを下げた。

「そ、そうですか。わかり……」
「なんで、男性は入れないのよ。ただの控室でしょ?」
 納得したボクの脇から、ユミアが飛び出して来る。

「ライブ用の衣装に、着替えていただく必要があるからです」
「ハア。衣装って、制服じゃないワケ?」
「はい。アイドル用の衣装に着替えていただきます」

「意味がわかんないんだケド。なんでアイドルじゃないわたし達まで、アイドルの衣装を着なきゃ行けないのよ!」

「久慈樹社長の、ご指示です」
 事務的なコトしか言わない、女性スタッフ。

「アイツの指示に、従ってやる必要なんて無いわ。みんな、このままテストを受けましょ」

「ソイツは、困るな。スタッフの指示には、従ってくれないと」
 そこには、高価そうなスーツを当然のごとく着こなした、久慈樹社長が立っていた。

「出たわね、久慈樹 瑞葉。一体、どう言うつもりよ」
 普段通りの、スパイスの利いた対応を取るユミア。

「天空教室の仲間はみんな、アイドルをやっているんだ。キミたち4人だけ除け者にするのは、可哀そうじゃないか」

「ア、アタシたちも、アイドルになれってコト!」
「そ、それはチョット……」
 いきなりの発言に驚く、レノンとアリス。

「アイドルになるかどうかは、個人の意思だったのではなくて?」
「それは昨日までの話だよ、クララ」
 久慈樹社長は、天使のように笑った。

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キング・オブ・サッカー・第8章・EP020

白と青のビブス

 ボクたちは、ピッチに移っていた。
真新しい芝が生えそろったグランドに散る、白と青のビブスの選手たち。

「試合は、30分ハーフの60分。無論、1点でも多く取ったチームの勝利だ。同点の場合は、10分ハーフの延長戦となる」
 シャルオーナーが、試合のレギュレーションを説明する。

「D’accord(了解ですよ)、壬帝オーナー。我々が、負けるハズが無いね」
 白の背番号5を付けたヴィラールさんが、フランス語で言った。
白のビブスはシャルオーナー側のチームで、エトワールアンフィニ―の主力級が名を連ねる。

「とうぜんだ、ヴィラール。フルミネスパーダ戦のような無様な戦いは、2度と許さん」
「D’accord(ダッコー)」
 同じ返事を繰り返す、ヴィラールさん、べリックさん、ヴァンドームさん、ヴォーバンさん。

 少し前までフランスのトップリーグに所属していた彼らも、全員白いビブスを着ていた。

「こちらも了解ですよ、壬帝オーナー。ロラン、問題ないだろ?」
「ああ、問題ないさ。一馬、準備は出来てるか?」
 青いビブスを纏(まと)ったロランさんの問いかけに、ボクはコクリと頷(うなず)く。

「イヴァンさん、アナタも問題はありませんか?」
「レギュレーションに問題はないんだがよ、オリビ。なんでオレが、フォワードじゃなく中盤なんだ。説明して貰おうじゃないか」

 屈強な身体を誇るイヴァンさんが、オリビさんに苦言を呈した。
するとオリビさんでは無く、壬帝オーナーの口が動く。

「理由など、明白だろうに。オフサイドラインを気にしないお前をそのままフォワードで使えば、どれだけオフサイドを取られるコトか。だからあえて中盤に下げて、前線に飛び出させる戦術なのだろうが……所詮は、付け焼刃に過ぎん」

「お見通しですか。ま、狙いはそれだけじゃ、無いんですケドね」
「なにィ?」
 睨み合う、ロランさんと壬帝オーナー。

「ま、納得したワケじゃねェが、了解だぜ。中盤だろうが、ポジションなんて関係ねェ。壬帝オーナー、アンタんトコの貧弱なフォワードよりは、多くの点を決めてやるさ」
 イヴァンさんはオーナーに言ってのけると、自陣へと消えて行った。

「ランス、ヤツはお前を貧弱と言っているぞ」
 壬帝オーナーは、後ろに立つ白いビブスの男に告げる。

「野生児らしい、セリフですね。ですが身体能力だけで点が取れるホド、現代サッカーは甘くないと言うところを、見せてやりますよ」

「ランス。ストライカーに求められるのは、雄弁でもなければ詭弁(きべん)でも無い。結果だ」
「わ、わかってます、オーナー。この試合で、必ず結果を出して見せます」
 去年はシーズンの大半をケガで棒に振ったストライカーが、得点を宣言した。

 この試合、ロランさんと壬帝オーナーの戦術論の戦いだけじゃなく、イヴァンさんとランスさんの、ストライカーとしてのプライドをかけた戦いでもあるんだ。

「一馬、今まで色々と迷惑をかけた。本当に、すまないと思っている」
 ボクの隣で、センターサークルに立つロランさんが言った。

「迷惑ついでにこの試合、最後まで付き合ってもらうぞ」
「は、はい……」
 小さな声で、返事をする。

 ボクは、ロランさんやオリビさん、イヴァンさんと同じ青いビヴスを身に付けている。
ボクはこのチームのメンバーではないけれど、やっぱ足を引っ張らないようにしないと……。

「では、さっさと試合を始めるぞ。公平を期するために、審判と線審はスタッフから用意した。オレは自分のチームの指揮は執るが……構わんな?」

「モチロンですよ。ご自由に、どうぞ」
 自信に満ちた、詩咲 露欄(しざき ロラン)さん。
青いビブスの背中には、10番の背番号が刻まれていた。

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・27話

2人の愛弟子

 海底図書館の周辺区画の設計も決まり、カル・タギアは復興へと本格的に動き出した。

「ダーリン、居るゥ。バルガ王が、お呼びだってさ」
 緑色のショートヘアの少女が、舞人の家の玄関から声を響かせる。

「なんじゃ、スプラか。ご主人サマなら、リュオーネの研究所じゃぞ」
 対応したのは、ルーシェリアだった。

「やっぱ、そっちだったか。もしかして、パテラも一緒なの?」
「とうぜんじゃろう。あの娘は、大魔導士の研究材料なのじゃからな」
「その言い方、ヒドくない?」

「ヒドいもなにも、事実なのじゃから仕方あるまい。文句なら、リュオーネに言うのじゃな」
「ヤホーネスからの大使サマに、言えるワケないジャン。仕方ない、研究所に行ってくるよ」
 踵(きびす)を返し、1人で研究所へ向おうとする、スプラ。

「まあ待つのじゃ。妾も、付き合ってやろうではないか」
「別にイイよ。1人で、行けるし」
「本音を言えば、ヒマでの。悪いが、強引に付いて行くのじゃ」

 スプラとルーシェリアは、再建途中の建物を左右に眺めながら、研究所区画に向かっていた。

「アレからずいぶん経つし、街の再建も順調に進んでおるの」
「そうだよ。ルーシェリアは、外へは出ないの?」
「イヤ。市場や港には、ちょくちょく顔を出しておる。この辺には、来てないだけじゃ」

「市場や港に、なんの用?」
「船の船倉で、伸びてた元魔王の8人娘がおったじゃろう。アヤツらの、監視じゃよ」
「監視って、なにか悪いコトでもしたの?」

「違うのじゃ。アヤツらには、街の再建を手伝わせておる。ああ見えても元は、力の魔王とも呼ばれておったのじゃ。並みの人間よりは、役に立つのでな」

 2人が話に花を咲かせていると、うねった坂の上に海底図書館の巨大な巻貝が見えて来た。

「リュオーネの研究所は、ほぼ完成しておるのじゃな」
「普通の家に、本棚をたくさん置いただけだからね」
 2人は、巻貝の図書館の傍らに建つ、素朴な家へと入って行く。

「お邪魔すま~す。ここに、ダーリン来てませんか?」
 小さなドアを開けると、中は研究所になっていた。
いくつも並べられた高い本棚から、今にも本が雪崩れて来そうになっている。

「おお。スプラ・トゥリーに、ルーシェリア・アルバ・サタナーティアでは無いか。久しいな」
 安楽椅子に座った、魔女が言った。

「リュオーネさまの研究所に上がるのって始めてですケド、いっぱい本がありますね」
「少々、欲張り過ぎたかね。それで用向きについてなんだが、蒼き髪の勇者はすでにバルガ王の元へ向かわせたよ」

「そ、そうなんですか」
「行き違いに、なってしまったのじゃ」
「パテラも、ダーリンと一緒だったりします?」

「イヤ、奥の部屋に居るよ。会って行くかい?」
 大魔導士は、安楽椅子から立ち上がって、奥の扉を開ける。

「ココもまた、かなり本が詰まっておるの」
「足元にも、金属やらヘンな部品やらが、たくさん転がってる」
 注意しながら、部屋の中へと入る2人。

「アレ、パテラが2人居るよ!」
「ホントじゃ……じゃが2人目は明らかに、機械っぽいがの」

 2人の知っている、ココア色の肌に真っ白な髪をしたパテラの前に、そっくりではあるが剥き出しの金属パーツや、きめ細かくない茶色の肌の少女が立っていた。

「残念ながら、わたしの知り得る素材(マテリアル)じゃ、今はこれが限界なんだよ。海底図書館から借りて来た本に、なにか素材の情報が載っていないか、弟子たちと血眼になって探してるところさ」

「弟子……お主、弟子を取ったのか?」
「言ってなかったかね。航路の拠点となる村で見つけた、可愛らしい弟子さ」
 散らかった部屋の扉が開き、2人の少女が現れる。

「ルスピナと申します。お、お見知り置きを」
 コバルトブルーのお下げを左右に垂らした、コーラルグリーンの瞳の少女が、お辞儀をした。

「ウティカと申します。リュオーネさまにお仕えして、魔術を学ばせて貰っております」
 ウティカは、ハンターグリーンの髪を背中で纏め、青っぽい肌にターコイズブルーの瞳をしている。

 2人が部屋の掃除を始めると、異形のパーツが散乱した部屋は瞬く間にキレイになった。

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一千年間引き篭もり男・第08章・18話

シュガール

 深淵の闇へと続くセノーテ予定地の天井に、輝く蜘蛛のような複眼。
やがてそれは複数現れ、徐々に巨大になり、ボクたちの前に降り注いだ。

「うわ、なんだ!」
「新たな敵か?」
「まだ他に、潜んでやがったのか」

 セシル、セレネ、セリス・ムラクモの3姉妹の、驚いた声が聞こえる。

「プリズナー、この敵……」
「ああ、規格外な機体のデザイン。時の魔女が、絡んでいそうだな」

 ブレードの付いた巨大な掘削機の上に落下したそれは、カメのような巨大な甲羅から、長くて脚をたくさん持った大百足(ムカデ)が何匹も、ヒトデのように飛び出している姿をしていた。

「まるで、バスク神話に出て来るシュガールだね」
「嵐と雷(かみなり)の神だっけか」
「どんな攻撃を、仕掛けて来やがる」

 マレナ、マイテ、マノラ・ムラクモのジャガーグヘレーラーが、マイナーな神の名を告げる。
シュガールの本体から飛び出した、無数のムカデの頭部には真っ赤な複眼があり、無数の脚を使って回転しながら蠢(うごめ)いていた。

「シュガールってヤツ、攻撃体勢に入ったよ」
「キャア、なんだコイツ」
「天井から、雷が降って来やがった」

 シエラ、シリカ、シーヤの駆る3機が、異形の神が放った雷(いかずち)による攻撃を受ける。

「ウーのような、天候を操る能力があるのか」
「……らしいな、艦長。あのムカデ野郎は、帯電しそうな構造をしてやがる。身体に貯め込んだ電気を、雷の要領で放電してんだ」

 長い胴体の左右に生え並ぶ、キャタピラのような無数の小さな脚。
モゾモゾと波打つたびに電光が走り、バチバチとスパーク音を轟かせながら本体を移動させていた。

「だけどオヤジ。雷自体には、大した破壊力は無いみたいだよ」
「離れてても、ある程度は喰らっちまうケド……」
「一瞬の硬直が、あるくらいだ」

 実際に雷による攻撃を体験した、シエラ、シリカ、シーヤが報告を上げる。

「一瞬の硬直……そこを、狙って来るってコトか?」
「なんにしろ、相手の出方が解らねェ。距離を取って、性能を見極めるぞ」
「了解だ、プリズナー」

 ボクは偵察用に飛ばしたままだった、ケツァルを向わせて相手の出方を伺う。
ケツァルが口から火炎砲を放つと、大ムカデたちも口から火焔を吐いて相殺した。

「不気味なヤツだな。掘削機の上に貼り着いたままグルグルと回転してるだけで、積極的に攻撃を仕掛けても来ねェぞ」
「イヤ、プリズナー。すでに、攻撃は開始されている……」

 ゼーレシオンの触角が感知する、微弱な気流の流れ。
掘削機がこじ開けた縦穴の中に、風が周り始めていた。

「なんだってんだい。風が、起きてるよ」
「アイツが、やってんのか」
「風の流れが、段々速くなってやがる」

「セシル、セレネ、セリス、他のみんなも中央に寄れ。もはや穴の壁面は、もの凄い勢いの風が吹き荒れているハズだ」
 部下となった娘たちを、掘削機のある穴の中心部へと寄せる。

 その間にボクは、倒した鎧兵型アーキテクターの、ライフル銃をかき集めていた。

「オイオイ、こりゃぁ飛んでもない風じゃないか」
「まるで、竜巻の中に居るみたいだ」
「ど、どうすんだよ、オヤジ」

「落ち着け、マレナ、マイテ、マノラ。方法は、1つしか無い」
「艦長、アンタの考えは読めてるぜ。シュガールってバケモンを、退治するつもりだろ?」

「それしか無いからな。お前たち、コイツを受け取れ。敵の鎧兵が携行していた、ライフルだ。お前たちのサブスタンサーでも、扱えるだろう?」
 ゼーレシオンが集めた銃を、ジャガーグヘレーラーへと渡す。

「これでアタシらに、援護をさせようって腹積もり?」
「だけどヨーロッパのヤツらの武器を使うなんて、気に入らないね」
「槍じゃ届かないってのも、わかるんだケドさ」

「シエラ、シリカ、シーヤ、わかってるなら頼んだぞ。ボクとプリズナーで、アイツに接近を試みる」

「しゃーねェな」
「オヤジを死なすワケにも、行かないからね」
「任せな」

 娘たちに援護を任せ、ケツァルコアトル・ゼーレシオンと、テスカトリポカ・バル・クォーダは、暴風の中心に居座るシュガールに向けて跳んだ。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第10話

正論

「卯月さんも、花月さんも、由利さんも、ボクの最初の教え子だった。教育実習での、たった3週間の期間ではあるんだがな」

 ボクはやはり、教え子たちがイジメを行うとは信じたくなかった。

「で、ですよね。3人ともキレイで、明るくて、リーダーシップがあって、スゴい人たちなのです。悪いのは、ぜんぶわたしだったんです」
 その結果が、アリスを傷付けてしまう。

「どうしてそんなに、自分を悪く言うんだ。悪いのは、イジメをしたヤツらに決まってるじゃないか」
 レノンが、叫んだ。

「なにを聞いていたのかしらね、貴女は。アメリカの刑務所で行われた実験でも、イジメは人の心に潜在的に潜むモノだと証明されているのよ」
「そんなの信じられるかよ、クララ。イジメが、人間に備わった本能だなんて」

「人間にと言うのは、語弊(ごへい)があったかしら。他の生物だって、似たようなことは行われているわ。例えばある種のサメは、親の腹の中で兄弟を殺し、生き残ったモノだけがこの世に生きるコトを許されるのよ」

「で、でも人間は、知恵によってそれを克服したのよ」
「克服できてるなら、イジメ問題なんて過去の遺物になっているハズでしょう。貴女だって、イジメられるハズが無いじゃない」

「それは……そうだケド」
 クララに、一方的に責められるユミア。

「ユミア、貴女が1番解っているハズだわ。マスコミはね、正論を盾に弱者をいたぶるのよ。世論が、それを望んでいる限りね」
 マスコミを志すクララは、辛らつだった。

「ユミアちゃんは、世間からイジメられてたんですか?」
「ど、どうかしらね。でも確かに好き勝手書かれて、頭に来てたのは事実よ」

 2人の少女は、しっかりと抱き合って平静を保とうとしている。

「クララの言う通り、イジメってのは正論を盾にして起こるコトも多いんだろうな」
「せ、先生……」
 不安な顔を見せる、ユミア。

「正論ってのは、ある種の免罪符になるからな。相手が悪いコトをしたのであれば、自分は相手になにをしたって構わないと思ってしまう」

「そ、そうよね。な、なんかSNS界隈じゃ、そんなの横行してるケド」
「つまり貴女も、加害者になってるのね」
「ど、どど、どうかしら。そこまで酷いコトは、言ってないつもりよ……タブン」

「ユミア……ネットでやり合うのも、程々にしておけよ」
「はァい、先生」
 上目遣いでボクを見る、子供っぽい顔のユミア。

「人間ってのは、誰しもがイジメの加害者になりうるんだな……」
 天空教室の大きな窓に歩みを進めながら、ため息を吐くボク。
眼下の雲間からは、地上を歩く人たちの小さな姿が見えた。

 人間ってのは、1人1人に自分の正義がある。
ときに異なる正義がぶつかってしまい、ときにそれがイジメへとエスカレートする。

 正論と言う権力を得た人間は、それを盾に悪を断罪する。
自分が正義であると信じ、相手が悪であると思い込んでしまうのだ。

「イジメって、なくならないのかしら」
「人類が生きている限り、恐らくは無理でしょうね」

「で、でもさ。アタシらは、仲良くしようぜ。アリスもユミアも、イジメられたらアタシに言え。どんなヤツだろうと、ぶっ飛ばしてやっかんな」

「止めてくれ。お前が、補導されてしまうぞ」
 ボクは、狂暴なライオン娘を制止する。

「だけど、みんなで仲良くってのは、レオンにしちゃ良いアイデアだわ」
「ユミア、おま……アタシにしちゃって、どう言う意味だよ」
 2人のじゃれ合いに、アリスもほほ笑んでいた。

「貴女たち、忘れてないかしら?」
「な、なにがだよ、クララ」

「……わたし達が、仲良くできるタイムリミットも、あと僅かなのよ」
 少女の赤いポニーテールが、ユラユラと揺れていた。

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キング・オブ・サッカー・第8章・EP019

戦術論

「お前の情報が正しいのであれば、ウチがお前の姉の事件について、多少なりとも関わっていると言うのは事実なようだな」
 エトワールアンフィニーSHIZUOKAのオーナーは、また新たな難題を抱え込んだ。

「アンジェの揺すられた原因が、エトワールアンフィニーがウチを買収しようとしたからなんです。大いに関わっていますよ」

「だからと言って、ウチが責任を負う問題では無いハズだ。買収も、合法的に行われている」
「オ、オーナー。アナタはまだ……」
 オリビさんも、冷静では居られない。

「真に責任を負うべきは、お前の姉を脅迫した賀野と言う男だろう」
「もちろんヤツには、責任を負わせますよ。その為に、弁護士と契約したんです」
 ガラステーブルを挟んで、睨み合うロランさんとシャルオーナー。

「ですが、人を揺するようなヤツが主導した買収劇です。本当に、合法的に行われたと言えますか?」
「そ、それは……まさか お前は、ウチを訴える気か?」

「選択肢としては、考えてます」
「今はチームが始動する、大事な時期なんだぞ」

「だからこそ、今なんです。姉は、オレたちの自由なサッカーを護ろうとしてくれた」
 ロランさんは、まっすぐにシャルオーナーを見ていた。

「残念だが、自由なサッカーは現代では通用しない。とくに、上に上がれば上がるホドにな」
 オーナーも、1歩も引かずにオーナーを直視する。

「個人技を主体としたあのブラジルですら、今の時代は戦術を軽視できなくなっている。もっともブラジルは、昔から高度な戦術を持ってたのだがな」

「4-4-3の、スリートップのどちらかに人を置かない、ブラジルスタイルと呼ばれるシステムのコトですね。それにまずは個人をベースに考えるから、左右非対称のフォーメーションとなる」
 ボランチとしての能力をスッラさんに認められた、アルマさんが言った。

「ロラン。おまえはあくまで、自由なサッカーをしたいのだな?」

「はい、壬帝オーナー。これは、オレの我がままです。もし……」
「受け入れられなかったら、ウチを離れる……と?」
「アンジェには申しワケないですが、そうなります」

 エトワールアンフィニーSHIZUOKAのオーナーと、チームのエースとのサッカー観の違い。
2人の意見は、平行線で交わらないように見える。

「ならば試合をしよう。お前とオレ、どちらのサッカーが優れているか、もっとも解かりやすい方法だ」
「そうですね。もちろん、受けて立ちますよ」
 即断する、ロランさん。

「ですが、オーナー。チーム分けはどうするんです?」
「オレのチームには、アルマ……お前がキャプテンとして率いてもらう」
「ボクが……ですか」

「ですが、オリビはウチに貰いますよ。元チームに居たメンバーは、もはやオレとオリビだけなんです」
「構わんさ。だがランスとべリック、それにオレがフランスから連れてきたヤツらは、ウチのメンバーとさせてもらう」

「そ、それでは、あまりにも一方的な戦力じゃないですか」
「仕方ないさ、オリビ。それくらいの覚悟は、できていた」
「ロラン、お前……」

「ですが、彼を貰っても構いませんか?」
 ロランさんの瞳が、ボクを見た。

 ……へッ?
な、なんか、また帰るのが伸びそう。

「お前の影武者のコトか。別に、構わんが」
 ボクの参加は、あっさりと了承される。

「ならよ、オレもロランのチームに、参加させてもらうぜ」
 いきなり事務所の扉が開き、大柄な男が入ってきた。

「イヴァンか。てっきり荷物をまとめて、出て行ったと思ったのだがな」
「そのつもりだったんだがよ。メンド臭ェ手続きやらが残ってたんで、戻ってきたんだが……アンタら、面白い話をしてるじゃねェか」

「盗み聞きか。なるホド、お前らしいな」
「入りたくたって、入れる雰囲気じゃ無かったんだよ!」
 確かに、それもそうだ。

「どうだ、オレの参戦は認めてくれんのか?」
「構わんさ。戦術をもっとも理解しないお前が入ったところで、チームが弱くなるのが目に見えているからな」

 シャルオーナーはイヴァンさんに、サッカー選手にとってもっとも侮蔑的な言葉を贈った。

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・26話

研究所区画

「これはウワサに違(たが)わぬ、蔵書の数だね。重機構天使(メタリエル)の研究もしたいところだケド、遍(あまね)く知識を前に難しい選択を迫られるよ」

 海底図書館の背の高い本棚に囲まれた、リュオーネが言った。

「気に入ってもらえて何よりだ、リュオーネ。本を持ち出されちゃあ困るが、アンタの頭脳に入れる分には、構わないって話だぜ」
 オレンジ色の長髪に、日に焼けた筋肉質の男が、豪快な笑い声をあげる。

「感謝するよ、バルガ王。ところでこの辺りには、図書館以外はあまり建物が無いね」
「自慢じゃないがカル・タギアの民は、6割りくらいが漁師で2~3割りが商売人だ。学門だの未知の知識だのは、あんま興味無ェからな」

「だったら、研究施設を建てる許可を、貰えないだろうかね。これだけ膨大な蔵書があるのに、宝の持ち腐れはもったいないよ」

「それは妙案にございます、リュオーネ様」
 細身の身体にヒスイ色の着物を纏った男が、大魔導士の提案を称賛した。

「いつに無く乗り気じゃねェか、シドン。眼をキラキラ、輝やかせやがって」
「こ、これは心外な。わたしも常々、先人たちが遺された高度な知識を、どうにか活かせないモノかと考えていたのです」

「だがカル・タギアは、今は復興途中だぜ。新たな航路の開設もしなきゃなんねェし、研究所を建てる人材を回せるかどうか……」

「わたしも賛成ですね、兄上」
 ウェーブのかかったダークグリーンの髪の毛に、灰色の肌の男が言った。

「ギスコーネ、お前も来ていたのか」
「仕事は、一段落しましたからね。兄上のように、丸投げではありませんよ」
「オ、オレだって、大使殿の接待をだなあ……」

「それより研究所を設けるというのは、良き案です。カル・タギアに新たな産業が生まれれば、外貨獲得のチャンスですからね」
「お前はまた、そう言う……」

「復興にも航路の開設にも、莫大な資金が必要なのですよ、兄上。国庫を預かる身としては、キレイごとばかりを並べてもいられません」

「それに研究所が出来れば、このカル・タギアに賢人たちが集うモノと思われます。海皇様と七海将軍の大半が敵となり、多くの人命が失われた今、優秀な人材はなにより必要なのです」
 ギスコーネとシドンの頭脳(ブレーン)2人が、結託して決断を迫る。

「ま、オレらフェニ・キュア人の海洋国家群は、かつてはその高度な知識とやらのお陰で、栄華を誇っていたって言うからな。悪くない話かも知れん」

 海底都市の王は、提案を承認した。

「研究所と言ってもね、バルガ王。ただの家に、背の高い本棚でも並べてくれればそれで済むのさ」
「いえ、リュオーネ様。1人の研究者であれば、それで構わないと思われますが、多くの研究者たちが集うとなれば、それなりの建物が必要となるでしょう」

「なるホドな、シドン。お前、昔から計画は持っていたんだろ。考えは、あるのか?」
「ええ、バルガ王。廊下を中心に個室を8つホド連ねた棟を、研究分野ごとに何棟か建設するのです」

「確かに、歴史の研究者と魔導の研究者が、同居してんのもおかしなモノだからな」

「ねえねえ、バルガ王。だったら本を読める落ち着いたカフェとかも、作ってよ」
「コ、コラ、いきなりなに言い出すんだよ、スプラ」
 緑色の髪の少女の無茶ぶりを、慌てて止める舞人。

「残念だケドよ、スプラ。そんな余裕は……」
「いえ、兄上。良き提案ではありませんか。庶民にも気軽に本に触れ合える場所を設ければ、彼らの能力も向上するでしょう」

「それに研究者としたって、くつろげる場所は欲しいところだからね」
 大魔導士も、抜け目なく口添えする。

「こりゃあ、思わぬ出費になるぜ、シドン」
「いいえ。未来への投資ですよ、バルガ王」
 王の昔からの友人であり、知恵袋でもあった男は、美しいアイスブルーの瞳に王を映しほほ笑んだ。

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