ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第10話

正論

「卯月さんも、花月さんも、由利さんも、ボクの最初の教え子だった。教育実習での、たった3週間の期間ではあるんだがな」

 ボクはやはり、教え子たちがイジメを行うとは信じたくなかった。

「で、ですよね。3人ともキレイで、明るくて、リーダーシップがあって、スゴい人たちなのです。悪いのは、ぜんぶわたしだったんです」
 その結果が、アリスを傷付けてしまう。

「どうしてそんなに、自分を悪く言うんだ。悪いのは、イジメをしたヤツらに決まってるじゃないか」
 レノンが、叫んだ。

「なにを聞いていたのかしらね、貴女は。アメリカの刑務所で行われた実験でも、イジメは人の心に潜在的に潜むモノだと証明されているのよ」
「そんなの信じられるかよ、クララ。イジメが、人間に備わった本能だなんて」

「人間にと言うのは、語弊(ごへい)があったかしら。他の生物だって、似たようなことは行われているわ。例えばある種のサメは、親の腹の中で兄弟を殺し、生き残ったモノだけがこの世に生きるコトを許されるのよ」

「で、でも人間は、知恵によってそれを克服したのよ」
「克服できてるなら、イジメ問題なんて過去の遺物になっているハズでしょう。貴女だって、イジメられるハズが無いじゃない」

「それは……そうだケド」
 クララに、一方的に責められるユミア。

「ユミア、貴女が1番解っているハズだわ。マスコミはね、正論を盾に弱者をいたぶるのよ。世論が、それを望んでいる限りね」
 マスコミを志すクララは、辛らつだった。

「ユミアちゃんは、世間からイジメられてたんですか?」
「ど、どうかしらね。でも確かに好き勝手書かれて、頭に来てたのは事実よ」

 2人の少女は、しっかりと抱き合って平静を保とうとしている。

「クララの言う通り、イジメってのは正論を盾にして起こるコトも多いんだろうな」
「せ、先生……」
 不安な顔を見せる、ユミア。

「正論ってのは、ある種の免罪符になるからな。相手が悪いコトをしたのであれば、自分は相手になにをしたって構わないと思ってしまう」

「そ、そうよね。な、なんかSNS界隈じゃ、そんなの横行してるケド」
「つまり貴女も、加害者になってるのね」
「ど、どど、どうかしら。そこまで酷いコトは、言ってないつもりよ……タブン」

「ユミア……ネットでやり合うのも、程々にしておけよ」
「はァい、先生」
 上目遣いでボクを見る、子供っぽい顔のユミア。

「人間ってのは、誰しもがイジメの加害者になりうるんだな……」
 天空教室の大きな窓に歩みを進めながら、ため息を吐くボク。
眼下の雲間からは、地上を歩く人たちの小さな姿が見えた。

 人間ってのは、1人1人に自分の正義がある。
ときに異なる正義がぶつかってしまい、ときにそれがイジメへとエスカレートする。

 正論と言う権力を得た人間は、それを盾に悪を断罪する。
自分が正義であると信じ、相手が悪であると思い込んでしまうのだ。

「イジメって、なくならないのかしら」
「人類が生きている限り、恐らくは無理でしょうね」

「で、でもさ。アタシらは、仲良くしようぜ。アリスもユミアも、イジメられたらアタシに言え。どんなヤツだろうと、ぶっ飛ばしてやっかんな」

「止めてくれ。お前が、補導されてしまうぞ」
 ボクは、狂暴なライオン娘を制止する。

「だけど、みんなで仲良くってのは、レオンにしちゃ良いアイデアだわ」
「ユミア、おま……アタシにしちゃって、どう言う意味だよ」
 2人のじゃれ合いに、アリスもほほ笑んでいた。

「貴女たち、忘れてないかしら?」
「な、なにがだよ、クララ」

「……わたし達が、仲良くできるタイムリミットも、あと僅かなのよ」
 少女の赤いポニーテールが、ユラユラと揺れていた。

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