ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・26話

研究所区画

「これはウワサに違(たが)わぬ、蔵書の数だね。重機構天使(メタリエル)の研究もしたいところだケド、遍(あまね)く知識を前に難しい選択を迫られるよ」

 海底図書館の背の高い本棚に囲まれた、リュオーネが言った。

「気に入ってもらえて何よりだ、リュオーネ。本を持ち出されちゃあ困るが、アンタの頭脳に入れる分には、構わないって話だぜ」
 オレンジ色の長髪に、日に焼けた筋肉質の男が、豪快な笑い声をあげる。

「感謝するよ、バルガ王。ところでこの辺りには、図書館以外はあまり建物が無いね」
「自慢じゃないがカル・タギアの民は、6割りくらいが漁師で2~3割りが商売人だ。学門だの未知の知識だのは、あんま興味無ェからな」

「だったら、研究施設を建てる許可を、貰えないだろうかね。これだけ膨大な蔵書があるのに、宝の持ち腐れはもったいないよ」

「それは妙案にございます、リュオーネ様」
 細身の身体にヒスイ色の着物を纏った男が、大魔導士の提案を称賛した。

「いつに無く乗り気じゃねェか、シドン。眼をキラキラ、輝やかせやがって」
「こ、これは心外な。わたしも常々、先人たちが遺された高度な知識を、どうにか活かせないモノかと考えていたのです」

「だがカル・タギアは、今は復興途中だぜ。新たな航路の開設もしなきゃなんねェし、研究所を建てる人材を回せるかどうか……」

「わたしも賛成ですね、兄上」
 ウェーブのかかったダークグリーンの髪の毛に、灰色の肌の男が言った。

「ギスコーネ、お前も来ていたのか」
「仕事は、一段落しましたからね。兄上のように、丸投げではありませんよ」
「オ、オレだって、大使殿の接待をだなあ……」

「それより研究所を設けるというのは、良き案です。カル・タギアに新たな産業が生まれれば、外貨獲得のチャンスですからね」
「お前はまた、そう言う……」

「復興にも航路の開設にも、莫大な資金が必要なのですよ、兄上。国庫を預かる身としては、キレイごとばかりを並べてもいられません」

「それに研究所が出来れば、このカル・タギアに賢人たちが集うモノと思われます。海皇様と七海将軍の大半が敵となり、多くの人命が失われた今、優秀な人材はなにより必要なのです」
 ギスコーネとシドンの頭脳(ブレーン)2人が、結託して決断を迫る。

「ま、オレらフェニ・キュア人の海洋国家群は、かつてはその高度な知識とやらのお陰で、栄華を誇っていたって言うからな。悪くない話かも知れん」

 海底都市の王は、提案を承認した。

「研究所と言ってもね、バルガ王。ただの家に、背の高い本棚でも並べてくれればそれで済むのさ」
「いえ、リュオーネ様。1人の研究者であれば、それで構わないと思われますが、多くの研究者たちが集うとなれば、それなりの建物が必要となるでしょう」

「なるホドな、シドン。お前、昔から計画は持っていたんだろ。考えは、あるのか?」
「ええ、バルガ王。廊下を中心に個室を8つホド連ねた棟を、研究分野ごとに何棟か建設するのです」

「確かに、歴史の研究者と魔導の研究者が、同居してんのもおかしなモノだからな」

「ねえねえ、バルガ王。だったら本を読める落ち着いたカフェとかも、作ってよ」
「コ、コラ、いきなりなに言い出すんだよ、スプラ」
 緑色の髪の少女の無茶ぶりを、慌てて止める舞人。

「残念だケドよ、スプラ。そんな余裕は……」
「いえ、兄上。良き提案ではありませんか。庶民にも気軽に本に触れ合える場所を設ければ、彼らの能力も向上するでしょう」

「それに研究者としたって、くつろげる場所は欲しいところだからね」
 大魔導士も、抜け目なく口添えする。

「こりゃあ、思わぬ出費になるぜ、シドン」
「いいえ。未来への投資ですよ、バルガ王」
 王の昔からの友人であり、知恵袋でもあった男は、美しいアイスブルーの瞳に王を映しほほ笑んだ。

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