2人の愛弟子
海底図書館の周辺区画の設計も決まり、カル・タギアは復興へと本格的に動き出した。
「ダーリン、居るゥ。バルガ王が、お呼びだってさ」
緑色のショートヘアの少女が、舞人の家の玄関から声を響かせる。
「なんじゃ、スプラか。ご主人サマなら、リュオーネの研究所じゃぞ」
対応したのは、ルーシェリアだった。
「やっぱ、そっちだったか。もしかして、パテラも一緒なの?」
「とうぜんじゃろう。あの娘は、大魔導士の研究材料なのじゃからな」
「その言い方、ヒドくない?」
「ヒドいもなにも、事実なのじゃから仕方あるまい。文句なら、リュオーネに言うのじゃな」
「ヤホーネスからの大使サマに、言えるワケないジャン。仕方ない、研究所に行ってくるよ」
踵(きびす)を返し、1人で研究所へ向おうとする、スプラ。
「まあ待つのじゃ。妾も、付き合ってやろうではないか」
「別にイイよ。1人で、行けるし」
「本音を言えば、ヒマでの。悪いが、強引に付いて行くのじゃ」
スプラとルーシェリアは、再建途中の建物を左右に眺めながら、研究所区画に向かっていた。
「アレからずいぶん経つし、街の再建も順調に進んでおるの」
「そうだよ。ルーシェリアは、外へは出ないの?」
「イヤ。市場や港には、ちょくちょく顔を出しておる。この辺には、来てないだけじゃ」
「市場や港に、なんの用?」
「船の船倉で、伸びてた元魔王の8人娘がおったじゃろう。アヤツらの、監視じゃよ」
「監視って、なにか悪いコトでもしたの?」
「違うのじゃ。アヤツらには、街の再建を手伝わせておる。ああ見えても元は、力の魔王とも呼ばれておったのじゃ。並みの人間よりは、役に立つのでな」
2人が話に花を咲かせていると、うねった坂の上に海底図書館の巨大な巻貝が見えて来た。
「リュオーネの研究所は、ほぼ完成しておるのじゃな」
「普通の家に、本棚をたくさん置いただけだからね」
2人は、巻貝の図書館の傍らに建つ、素朴な家へと入って行く。
「お邪魔すま~す。ここに、ダーリン来てませんか?」
小さなドアを開けると、中は研究所になっていた。
いくつも並べられた高い本棚から、今にも本が雪崩れて来そうになっている。
「おお。スプラ・トゥリーに、ルーシェリア・アルバ・サタナーティアでは無いか。久しいな」
安楽椅子に座った、魔女が言った。
「リュオーネさまの研究所に上がるのって始めてですケド、いっぱい本がありますね」
「少々、欲張り過ぎたかね。それで用向きについてなんだが、蒼き髪の勇者はすでにバルガ王の元へ向かわせたよ」
「そ、そうなんですか」
「行き違いに、なってしまったのじゃ」
「パテラも、ダーリンと一緒だったりします?」
「イヤ、奥の部屋に居るよ。会って行くかい?」
大魔導士は、安楽椅子から立ち上がって、奥の扉を開ける。
「ココもまた、かなり本が詰まっておるの」
「足元にも、金属やらヘンな部品やらが、たくさん転がってる」
注意しながら、部屋の中へと入る2人。
「アレ、パテラが2人居るよ!」
「ホントじゃ……じゃが2人目は明らかに、機械っぽいがの」
2人の知っている、ココア色の肌に真っ白な髪をしたパテラの前に、そっくりではあるが剥き出しの金属パーツや、きめ細かくない茶色の肌の少女が立っていた。
「残念ながら、わたしの知り得る素材(マテリアル)じゃ、今はこれが限界なんだよ。海底図書館から借りて来た本に、なにか素材の情報が載っていないか、弟子たちと血眼になって探してるところさ」
「弟子……お主、弟子を取ったのか?」
「言ってなかったかね。航路の拠点となる村で見つけた、可愛らしい弟子さ」
散らかった部屋の扉が開き、2人の少女が現れる。
「ルスピナと申します。お、お見知り置きを」
コバルトブルーのお下げを左右に垂らした、コーラルグリーンの瞳の少女が、お辞儀をした。
「ウティカと申します。リュオーネさまにお仕えして、魔術を学ばせて貰っております」
ウティカは、ハンターグリーンの髪を背中で纏め、青っぽい肌にターコイズブルーの瞳をしている。
2人が部屋の掃除を始めると、異形のパーツが散乱した部屋は瞬く間にキレイになった。
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