偉大なる大魔導士の高弟
城と呼ばれるような建築物を持たない、海底都市カル・タギア。
替わりに御殿のような建物で、国の執務が取り行われている。
「……と言うコトだ、舞人。お前に、クエストを依頼したい」
玉座と呼ぶには質素過ぎる赤い木の椅子に座った、オレンジ色の長髪に日に焼けた肌の王が言った。
「わ、わかりました、バルガ王」
幼き日より赤毛の英雄に憧れていた少年は、2つ返事で了承する。
「ボクやルーシェリアは、一般人のフリをしてクノ・ススに潜り込めば良いんですね?」
舞人は、円卓を挟んで向こう側の席に座った王に、クエスト内容を確認した。
「ああ、そうだ。危険を伴う任務だが、ミノ・リス王やラビ・リンス帝国の王族には、オレやコイツらの顔は割れちまってるんでな」
バルガ王の左右には、シドンとギスコーネが座っている。
「ヤツらとは、大した付き合いでもないんだが、一応ボクもカル・タギアの王族なんでね。軽々しく赴くワケには、行かないんだ」
「わかっています、ギスコーネさん。それで、ラビ・リンス帝国が戦争を始めるかも知れないってのは、本当なんですか?」
「まだ兆候が、見え始めていると言ったところだがな。ミノ・リス王は、武器や食料を大量に買い漁っている。恐らくは、どこかの国と戦争をするつもりだろう」
バルガ王の知恵袋である、シドンが告げた。
「サタナトスが、人間の脅威として各地で暴れ回って、大変なコトになってるっつうのに、人間同士が戦争なんか始めてる場合か」
「そうは言われましても、兄上。ミノ・リス王は元々、領土を拡大するのに野心的な王です。ヤホーネスの王都が壊滅的な打撃を受けて先王が亡くなり、我らがカル・タギアも父上を始め7海将軍の多くが、かの者の軍門に降ってしまわれました」
「陸と海の大国が危機的状況にある今こそ、領土拡大の絶好のチャンスってコトか」
実の弟の見解に、ため息を吐き天井を仰ぐバルガ王。
「なんじゃ、バルガ王。呼び出されたから来てみれば、きな臭い話をしておるでは無いか」
御殿の会議室の扉が開き、2人の少女が入って来た。
「仕方ねェだろ。実際にきな臭い情報が、飛び込んで来たんだからよ」
「その情報の発信源は、どこなのさ?」
スプラが、バルガ王に率直に聞く。
「ベリュトスの漁師仲間や、港で商売をしている商人たちだ」
「そっか。まあまあホントっぽいね」
「もちろん、敵が偽の情報を流している可能性も無くはないが、ラビ・リンス帝国が戦争の下準備を始めているという、偽情報を流す必要性も無いのでな」
シドンが、可能性から現状を示唆(しさ)した。
「それでご主人サマと妾に、敵情を探って来いと言うのじゃな?」
「ラビ・リンス王国では、お2人の顔を知る者は居ないでしょうからね」
「チョッ……お2人って、ボクは入ってないの!」
「貴女は仮にも、七海将軍の1人でしょう。ラビ・リンス王国の誰かが顔を知っていても、おかしくはありません」
「ボクは、ラビ・ランス帝国のヤツらなんて、誰も知らないんだケド」
「貴女が知って居なくとも、向こうが貴女を知っている可能性があります」
「シドンさんの言う通りだよ、スプラ。それに七海将軍として、兵士たちを訓練する仕事もあるだろ?」
「ヒドいよ、ダーリン。そりゃないよォ」
ヘタヘタと座り込む、スプラトゥリー。
「残念じゃったな。お主は大人しく、カル・タギアの防衛でもしておれ」
「キイィィッ!」
「それじゃあボクとルーシェリアの2人で、クノ・ススに潜り込むのか」
「残念じゃが、付き添いがおっての。ホレ、入って参れ」
ルーシェリアが、自分たちが入って来た扉に向け叫んだ。
「し、失礼いたします」
「お。お邪魔します」
扉が開き入って来たのは、ウティカとルスピナだった。
「ルーシェリア、このコたち……誰?」
バルガ王以外の、皆の頭の中に在った疑問を、舞人が代表して質問する。
「偉大なる大魔導士の、高弟さ」
ルーシェリアは、ニヤッと笑った。
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