ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第9章・EP016

基礎体力の違い

 ……均衡が、崩れた。
圧倒的に格上のフルミネスパーダMIEに対し、ボクたちデッドエンド・ボーイズは遂に、先制点を許してしまった。

「クッソ、先制されちまった!」
 紅華さんが、左のライン際で悔しがっている。

 レース場の順位盤のようなデザインの、電光掲示板の時計は27分を指していた。

「ここまで何とか無失点に、抑えて来たでありますが……」
「だ、だが、試合時間はまだまだあるぞ」
 トリプルボランチに入った、杜都さんと雪峰さんも落ち込んでいる。

 MIEの猛攻の前に、幾度となくピンチを迎えたボクたちにとっては、もっと時間が経過しているように感じていた。

「か、監督、先制されちゃいましたね」
 ベンチで、新人マネージャーの沙鳴ちゃんが、不安に満ちた顔をメタボ監督に向ける。

「やはり、基礎体力の差が出始めたね」
「サッカー選手の体力って、そんなに違うモノなんですか?」
 セルディオス監督に言われ、千葉 沙鳴はフィールドを見渡した。

「当然よ。フルミネスパーダMIEは、色々なクラブで実績を積んだ選手を、金の力で掻き集めて創られたプロクラブよ。それに引きかえウチは、フィールドプレーヤー全員が高校1年ね」
「ホントだ。相手はまだまだ余裕そうだケド、ウチの選手はみんなハアハア言ってる!」

 体力の差は、少しずつ両チームの力の溝を広げる。

「し、しまった!?」
 試合再開と同時に、ドリブルを開始した紅華さんが、あっさりとボールを失った。

「へへェ、やっぱ動揺してんな」
 ボールを奪ったネロさんが、直ぐにスッラさんにボールを渡す。

「な、なにやってんだよ、ピンク頭ァ!」
 右サイドに展開しようとしていた黒浪さんが、慌てて自陣に戻った。

「中盤でのボールロストは、カウンターのピンチを招くのだよ。逆にボールを奪えれば、カウンターのチャンスとなる」
 けれどもロングボールが、スッラさんからトラヤさんに出されてしまう。

「ウチ、押されちゃってますね」
「みんな体力が奪われて来て、チョットずつプレイが雑になってるよ」
 ベンチで心配そうに見守る、沙鳴ちゃんとセルディオス監督。

「ナイスだ、スッラ。ここは、ウインガーに徹してやるぜ」
 ライン際をドリブルする、左サイドバックのトラヤさん。
デッドエンド・ボーイズの選手が、ボールにプレッシャーをかけるのが遅れた。

「マ、マズいぞ、龍丸。フリーで上げられちまった!」
「真ん中を厚くしたのが、裏目に出たな。野洲田(やすだ)、中で対処するしかあるまい」
 長身センターバックの2人が、ペナルティエリア内での競り合いの準備をする。

「チッ、しまった!」
 けれどもトラヤさんの上げたボールは、逆サイドへと抜けてしまった。
フォワードの頃はパスを供給される側だったからか、クロスの精度はイマイチに見える。

「た、助かったぜ」
 胸を撫で降ろす、正ゴールキーパーの海馬コーチ。

「まだですよ。ボールは、タッチラインを割ってません!」
 左のセンターバックの、亜紗梨(あさり)さんが注意を喚起(かんき)する。

 右のタッチライン際を転がったボールに、最初に追いついたのはバルガさんだった。
屈強なチュニジア人ストライカーは、背中にあるゴールに向かって反転する。

「やらせない!」
 亜紗梨(あさり)さんが、慌ててマークに着こうとした。

「マークの判断が、まだまだ遅いな」
 バルガ・ファン・ヴァールは、反転の勢いを利用したシュートを撃つ。

「ンなッ!?」
 タッチラインと亜紗梨(あさり)さんの間を抜けたシュートは、メタボキーパーの股間をも抜いて、逆サイドのサイドネットに突き刺さろうとしていた。

 ……ダ、ダメだ。
ここで失点したら、みんなの心が持たない!

 必死で自分たちのゴールに向かって走り、踵(かかと)でボールを掻き出すボク。
ボールは、何とかゴールラインを割ることなく、外へと流れて行った。

「ア、アレは、ボクがフットサルでやったプレイだ」
 柴芭さんが、驚いている。

 タブン、柴芭さんみたいな華麗で美しいクリアじゃ無かったと思うケド、得点を防げて良かった。
ボールの替わりに、ゴールネットに引っ掛かったボクは、少し安堵していた。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第46話

少子化の波

 トワイライト色の空をバックに、都会の高速道路を走る1台のバイク。
やがて空はスミレ色へと替わり、バイクは集団となって赤いテールランプを輝かせて、夜のハイウェイを疾走する。

 レッティーたちの歌う、『伝説のバイク乗りたち』はそんな曲だった。

「オヤジやお袋の頃の族ってのは、200台くらいのバイクが群がって、道交法ガン無視で公道を我がモノ顔で走ってたって話だ」
 レッティが、マイクスタンドからマイクを取り外して、観客席に近寄って行く。

「それが今となっては、少子化の影響で族も減っちまって、シケた数しか集まらなくなっちまった」
 レッティーは、少しの間を開けた。

「全盛期の暴走族なんて、目の前通し過ぎるのに1分以上かかってたぞ」
「ウチの近くも、たまにバイクが走ってうるさいケドさ。1瞬だモンな」
「ま、族なんて滅んでくれた方が、世のタメだケドよ」

「でもよ。少子化の影響が、暴走族にまで及んでんのか」
「そう言えば近所の少年野球団が、子供が集まらないから解散するって言ってたわ」
「学校まで無くなっちまったし、時代の流れってヤツかねェ」

 観客席では、様々な感想が飛び交う。

「だケドよ、数が全てってワケじゃねェ。数が少ないなりの、プライドってモンがあるんよ」
 レッティーのハスキーボイスが、ドーム会場を黙らせた。

「次、行くぜ。リトルガール・ドリーマー」
 アトラのドラムスティックがカウントを数え、レオナのサックスが鳴り響く。
シズクのベースがバックボーンとなり、レッティーの声が観客たちを魅了して行った。

 ミニスターⅢ(サード)コアの4人の少女たちは、様々なスタイルの楽曲をいくつも披露する。
1つ1つの曲は短いものの、ミカドが宣言した通り、楽曲の数は8曲に及んだ。

「アタシらが今、自信もってやれンのはこれくらいだ」
 4人の少女たちは、バンドセットから離れると、再びバイクに跨(またが)る。

「近いうちに、アルバム出す予定だからよ。気に入ったんなら、買ってくれや」
 派手なヘルメットを被り、図太いエンジン音を鳴らした。

 元暴走族らしく、爆音と共に夜空へと消えて行く4台のバイク。

「ロカビリーか、悪くないかもな」
「バイクって、やっぱカッコいいよな」
 会場の反応も、悪く無いように見えた。

「ヤレヤレ、なんとか2時間を、持ち堪(こた)えたな」
 ゲリラライブの主催者は、胸を撫で降ろす。

「まったく、ご自分の見積もりが甘かったと、謝罪すればイイだけではありませんか?」
 ミカドが、ピシャリと言った。

「謝罪だなんて、まっぴらゴメンさ。自分に非があろうが、謝罪する気なんてまったく無いよ」
 悪びれる様子も無い、久慈樹社長。

 雅楽とロカビリー、2つのミニスターコアの演奏が終わると、ボクの生徒たちも数学の学力テストを終える時間となっていた。
50:00から始まったカウントダウンの数字は、00:00となり止まっている。

「数学……か。ユミアがアイドル教師として教える科目であり、メリーも得意科目だ。だケド、レノンやアリス辺りが心配だな」
 ボクはもう、どんな結果であろうと受け入れる気で居た。

 50分のライブを終え、ドーム会場は再び10分間の休息時間となる。
ガラスの塔に、2科目のテストを終えた生徒たちの姿が、映し出された。

「一応……一応、念のために聞いて置きたいのだがね、ミカド。ミニスターコアは、流石にこれ以上は無いよな?」

「もう、あるに決まってるジャン!」
「ミニスターコアは、V(ファイブ)までありますね」
 久慈樹社長の問いかけに、ミカドの後ろから出て来たサトミとレインが答えた。

 ミカドと3人で形成する、プリンセス・オブ・ダークネス。
彼女たちがステージに立っていたのも、ずいぶん前のように感じる。

「そうか、助かるな。これであと、1時間は持つ」
「困った主催者ですわね」
 薄い紫の髪に、ドリル状のもみ上げをした少女は、呆れ顔を社長に向けた。

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一千年間引き篭もり男・第08章・53話

セマル・グルとメリュ・ジーヌ

 プリズナーのテスカトリポカ・バル・クォーダが、異次元の空に消えた後も、セノーテ下部の巨大空間での戦闘は継続されていた。

「こりゃ思ったより、かなりシンドいな」
「プリズナーが、前衛の主力って計算していたからね」
「宛てにしていた戦力が居なくなっちまうと、厳しいモノだわ」

 マレナ、マイテ、マノラの3姉妹が、ボヤきながらもセノーテ底に密集した敵の対応に当たっている。
黄色い肌にチョコレート色の瞳、黒髪を編み込んだ髪をクワトロテールにした少女たちは、親の世代の3姉妹のマクイの娘だった。

「ジャガー・グヘレーラーは、ただでさえ旧式の汎用機なんだよ」
「動力炉の出力が低すぎて、継続的にレーザー兵器すら使えないし」
「どうすんだよ、姉キたち。このままじゃ、防衛ラインを突破されちまうぞ」

 シエラ、シリカ、シーヤの3人も、敵の群れに対しアサルトライフルを放ち続ける。
けれども大量の敵に対しては焼け石に水で、親のチピリと同じ白い肌に、編み込んだ金髪をクワトロテールにした3姉妹の目前に、大挙して押し寄せていた。

「いよいよ、マズくなって来たよ」
「元々6機だけじゃあ、防衛ラインの構築なんてムチャだってのに」
「囲まれる前に、ココを放棄するしか無いね」

「放棄したって、アイツらがなだれ込んで来るだけだよ」
「も、もう、持ちこたえらンねェ!」
「う、うわぁ!?」

 6機のジャガー・グヘレーラーが、大グモや大ハチドリ、大サギや大ザルの大群に呑み込まれようとした瞬間、何かが2組の3姉妹の前に立ちはだかった。

「お待たせラビ。ラビリアが、援軍に来たラビ!」
「ココは、メイリン達に任せるリン!」
 立ちはだかった、2機のサブスタンサーのパイロットが言い放つ。

「だ、誰だい、アンタたちは?」
「見たコトも無い、変わった機体だケド……」
「味方ってコトで、イイのか?」

「味方でいいラビ。ラビリアたちは、ミネルヴァさまの妹ラビ」
「ミネルヴァさまは死んじゃったケド、メイリンたちが遺志を継ぐリン」
 ラビリアとメイリンのサブスタンサーが、敵の大群に向かって突進した。

「ラビリアのサブスタンサー、セマル・グルは、風を自在に操れるラビ。空中の敵は、ラビリアにおまかせラビィ!」

 セマル・グルは、犬のような頭に鳥の白い翼を生やした、4つ脚のサブスタンサーだった。
尾はクジャクのような華麗な羽になっていて、高速で移動しながら敵の間を駆け巡る。
クジャクの羽の目が分離して飛び、群がる敵に命中して行った。

「メイリンのメリュ・ジーヌだって、負けてないリン。頑張るリン!」

 メリュ・ジーヌは、魚のような下半身の先からヘビの尾が長く伸びている。
上半身は女性的なフォルムだったが、背中にコウモリの翼が生えていた。

「メリュ・ジーヌは、大気から水を抜き出し、その水を操れるリン!」
 メリュ・ジーヌは、右手に持った三又の矛を天に掲(かか)げる。
空中に舞い上がった無数の水滴が、高速で飛んで敵の装甲を切り裂く。

「まるで、水のメスみたいだね」
「敵が次々に、倒れて行ってるよ」
「アイツらのお陰で、アタイらは後衛に回れるね」

 シエラたち3姉妹は、バックアップに周り防衛ラインを復活させた。

「これでプリズナーの代わりは、なんとかなったね」
「だケド、敵は無数に空から降って来るよ」
「あの異次元の空を、何とかしたいところだケド……」

「それには、あのデカいコンドルを倒すしかねェんだろ?」
「でも、そんなコトしたらオヤジたちが、帰って来れなくなっちまう」
「このまま、消耗戦を続けるしか無いのかよ!」

 最低限の援軍を得た6人の少女たちだったが、状況が好転するホドでは無い。
そんな時、彼女たちの首に巻かれたコミュニケーションリングに、通信が入った。

「緊急の情報です。こちらは、ペル・セー……号。現在、地球の衛星軌道上に……」
 通信は、断片的に途切れていた。

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・61話

ダエィ・ダルス

 牢に繋がれた人物は、アメジスト色の剣の妖しい光に照らされ、その容姿が明らかになる。

「この男、髪はボサボサで伸びまくっているし、ヒゲもモジャモジャだ。一体、どれくらいの期間、この地下牢獄に繋がれていたんだ?」
 サタナトスが、後ろの少年に問いかけた。

「さあな。それより見ろよ、男の身体。ネズミや虫が、大量に群がっているぜ」
 ティ・ゼーウスに言われ、サタナトスも男の身体に目を向ける。

「こ、これは……!?」
 流石のサタナトスも、一瞬たじろいだ。

 両手首を鎖に繋がれた男の身体には、巨大なドブネズミや大ムカデが這(は)い回り、ゴキブリやウジ虫などが無数に蠢(うごめ)いている。

「……う……ああ……」
 男は、苦痛の言葉をあげるのすらも、苦痛が伴っていた。

「コイツ、身体中をネズミや虫どもに喰われてるぞ。こんな状態で、よく今まで生きてられたな」
 魔晶剣プート・サタナティスを松明(たいまつ)灯替わりに、男の身体をあちこち観察しながら感心する、金髪の少年。

「この男、オレと同じ……神の……」
「ン、なにか言ったか?」
 ティ・ゼーウスのささやくような呟(つぶや)きを、聞き取れなかったサタナトスが問う。

「イヤ……それよりコイツは、まだ生きている。なにか、聞き出せるかも知れないぜ」
「こんな瀕死(ひんし)状態の、男にか?」

「フッ、忘れたか」
 ティ・ゼーウスは、真っ赤な剣を男に向けた。

「オレのハートブレイカーは、いわば臓物の剣だ。コイツの喰われた臓物を、回復させる」

「待てよ。そんなコトをしたら、帰り道すら判らなくなるだろう?」
 慌てる、サタナトス。
ハートブレイカーの血管の糸によって、2人は迷宮からの帰路を確保していた。

「帰路など、必要は無いだろ。オレの目的は、王の暗殺だからな」
「イヤ、あるだろ。まったく、お前ってヤツは……」
 肩を竦(すく)める、サタナトス。

 それでもティ・ゼーウスは、迷宮に張り巡らされた血管を全て回収してしまう。
回収した臓物を使って、男の腹ワタを回復させた。

「無くなった臓物すら回復させるとは、便利な剣だな」
「余計なお世話かも、知れんがな」
「どう言うコトだ?」

「恐らくこの男の臓物は、放って置いても勝手に回復する」
 男に群がったネズミや虫を祓(はら)いながら、答えるティ・ゼーウス。

「ますます意味が、解らないんだが?」
 サタナトスは疑問を顔に浮かべつつも、男を拘束している鎖をアメジスト色の剣で断ち斬る。

 冷たい石の床に転がった男の身体は回復を遂げ、話せる状態になっていた。

「さあ、答えて貰おうか。お前は、誰だ?」
 金髪の少年が、問いかける。

「……フフ。わたしは、ダエィ・ダルス。わたしが答えずとも、もう1人の少年は、わたしの正体に気付いていた様だがな」
 牢に繋がれていた、男が言った。

「そうらしいな」
 サタナトスが後ろを向くと、アッシュブロンドの長髪の少年は視線を逸らす。

「まあいいさ。それにしてもお前が、この次元迷宮(ラビ・リンス)を創った、張本人だったとはね」
 サタナトスは、目の前の男が迷宮を創った天才建築家にして偉大なる発明家、ダエィ・ダルスであるコトに気付いた。

「ネズミ捕りを作った本人が、ネズミ捕りにかかってしまった。いかにも、間の抜けた話だな」
 自嘲(じちょう)する、ダエィ・ダルス。

「どうして迷宮を創ったお前が、自分の創った迷宮の牢に捕らわれていた? 」
「ミノ・リス王の、怒りを買ったからだ。王は猜疑心(さいぎしん)の強いお方でな。この迷宮を創らせた後、秘密を知るわたしを迷宮に幽閉したのだ」

「この迷宮の制作にたずさわった大工や石工も、すでにこの世には居ないってところか?」
「イヤ。この迷宮は、わたし1人で創ったモノだよ」

「な、なんだってェ!」
 驚きを隠せない、サタナトス。

 空間が複雑に連なる次元迷宮(ラビ・リンス)は、ダエィ・ダルス1人の手によって創られていた。

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キング・オブ・サッカー・第9章・EP015

もう1人の指揮者(コンダクター)

「オフサイドだって、一体どのプレイがだよ!」
 審判に立てつく、紅華さん。

「キミにボールが出た時点で、キミはオフサイドポジションだった。これ以上の抗議は、カードの対象と成り得る」
 紅華さんに釘を刺す、審判の人。

 そう……ボクが紅華さんに出したボールが、オフサイドだったんだ。

「アレが、樹莉 海斬(じゅり カイザ)か」
 雪峰キャプテンが、相手バックラインの中央に立つ男を見ている。

「前線に上がっていたと、思ったのですがね。あのワンプレイの間に戻ってバックラインを統率し、紅華くんをオフサイドトラップにかけるとは、大したモノです」
 柴芭さんも、カイザさんのプレイを高く評価していた。

「カイザ……MIEの守備を統率する、リベロね。5枚のバックラインを自在に動かし、相手をオフサイドトラップに陥(おとしい)れるよ」
 ベンチで控え選手に向けて、サッカー解説を繰り広げるセルディオス監督。

 監督の言う通り、上がっていた左サイドバックのトラヤさんを除いた4枚のバックラインが、キレイに横1列に並んでいた。

「へへッ。お前もなかなかの読みだったが、まだまだ甘い甘い。ボールの出所に圧力(プレス)をかけるのは、オレの役目。上手いコト、オフサイドにかかってくれたな」

 起き上がったボクに話しかけて来た、ネロさん。
どうやらボクは、ネロさんにボールを出させられたらしい。
MIEとしても、あらかじめデザインされた守備のようだった。

「テメー、あえてオレに抜かれたのかよ?」
 左サイドを帰陣する紅華さんが、相手の右サイドバックに問いかける。

「当然だ。あの程度のドリブルで、早々オレを抜けると思うなよ」
 鉄壁の守備を誇るハリアさんは、堂々と言い放った。

 試合は、MIEのゴールキーパー、アルマさんのキックで再開する。
甘いマスクのキーパーがボールをカイザさんに入れると、観客席からは黄色い声援が飛んだ。

「キャー、アルマー!」
「カイザァ、もうカッコ良過ぎだよォ」
「2人ともに、抱かれたい……」

「ケッ! なんだってんだ。サッカーに関係ない応援、すんなっての!」
 気を悪くした黒浪さんが、右サイドから俊足を飛ばし、カイザさんにプレスをかける。

「このオレから、ボールを奪えるとでも?」
 カイザさんは、そのままドリブルを開始した。

「あのヤロウ、クロのプレスに焦ってボールを前線に蹴り出すかと思ったが、ドリブルだとォ?」
 逆サイドの紅華さんが、驚いている。

「オォ~イ、どこ行くんだよォ!」
 慌てて方向を変え、弧を描くように走ってカイザさんに追いつく、黒浪さん。

「なるホド、大したスピードだ。サッカーに置いても、脚の速さは武器にはなる。だが、それは個性の1つに過ぎん」
 キャプテンマークを巻いたリベロは、黒浪さんのプレスを受けつつも、ボールを前へと運んだ。

「クッ、なんだコイツ。人がプレスかけてんのに、余裕のドリブルかましやがって!」
 向きになって、カイザさんの前に出ようとする黒浪さん。
その時、カイザさんはドリブルを止めた。

「なッ……しま!?」
 黒浪さんとカイザさんの間に、必然的に大きく間(スペース)が開く。
カイザさんは、その瞬間を見逃さなかった。

「今度こそ決めろ、バルガ」
 ライナー性の鋭いボールを、ペナルティエリアに入れるカイザさん。

 屈強な身体のチュニジア人ストライカーが、高く宙を飛ぶ。

「やらせは、しません!」
「ココは、なんとしても……」

 バックラインに入っていた柴芭さんと、左のセンターバックの亜紗梨(あさり)さんも、バルガさんに身体をぶつけるように跳んだ。
けれどもバルガさんは空中でもビクともせず、凄まじい威力のヘディングを放つ。

「……アラ?」
 当然、海馬コーチは1歩も動くコトが出来ず、ボールはゴールネットを激しく揺さぶった。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第45話

伝説のバイク乗りたち

 ひと口に洋楽と言っても、ジャズ、ロック、クラッシックなど、幅広いジャンルがある。
ロックだけ手に取っても、ハードロック、グランジ、グラムロック、プログレッシブロック、メタルロックなど、細分化されたジャンルが存在していた。

「ロカビリーと言うヤツは、短くて困るな。もう1曲が、終わってしまったじゃないか」
 久慈樹社長が、舞台裏で嘆いている。

「仕方ありませんわ。ロカビリーは、ロックの中でもかなり古い時代の音楽形体。当時の曲は、ラジオで流されるコトを見込んで、1分前後に収まる曲が多いですから」
 冥府のアイドル(ベルセ・ポリナー)のリーダー的存在である、ミカドが答えた。

「オイオイ。それでは、大した時間稼ぎにならないじゃないか」
「わたし達の歌を、時間稼ぎとは失礼ですね。ですが、心配には及びません。レッティーたちの曲の多さは、冥府のアイドルでも指折りですから」

「そうかい。ならば、イイんだが」
 ガラスの塔に浮かんだカウントダウンの時間経過を 心配そうに見守る久慈樹社長。

「そんじゃ、次はカントリーだ。曲名は、『ホットドッグとアメリカン・クラッシックカー』」
 レッティーが合図をすると、アトラがドラムスティックをクロスさせてリズムを取った。

 レオナのハーモニカのメロディから、軽快に流れ始めるカントリー・ミュージック。
1970年代にはポピュラーだった音楽は、現在でも観客の心を和(なご)ませる。

「なんだか、今度のはノリのイイ曲だな」
「アメリカのひたすら1本道の道路を走る、オープンカーの話らしいぜ」
「道路沿いのバーガーショップに寄って、ホットドッグやハンバーガー食べながらの旅か」

 歌詞が判ると、お腹が空いて来る曲だった。
けれども曲は、2分足らずで終了してしまう。

「次の曲は、『スキャンダラス・パパラッチ』」
 レッティーのハスキーボイスが、曲間も開けずにステージを推し進めた。

 レオナのサックスが、今度は低い音を響かせる。
シズクのベースメロディが、際立つ曲だった。
アトラもドラムセットを、ゆっくりとしたペースで叩いている。

「見た目はヤンキー娘なのに、器用に色んな曲をこなすな」
「ああ。サックスのコ、けっこうなテクニックだぜ」
「ドラムのチビッ子も、実はかなり複雑な演奏してんだよ」

 アイドルのライブ会場の中にも、音楽に造詣(ぞうけい)の深い観客も混じっていた。
彼らの肥えた耳をも、レッティーたちは満足させている。

「かつての恋人がアイドルとなり、そのアイドルを追いかけまわすパパラッチの男視点のストーリーか。よく出来た、話じゃないか」
 ステージ裏で、感心している久慈樹社長。

「この曲、アイツの……」
 ボクには、共に就職浪人時代を戦った、音楽好きの友人がいる。
ソイツが提供した曲の1つに、メロディラインが似ていた。

「ンじゃま、ここらでアタシらの過去の紹介と行こうかね」
 今度は片手でマイクを握る、レッティー。

「最初にも言ったが、アタシらは元はと言えばレディースの暴走族だった。中学ン頃からバイク乗り回して、ピンクの特攻服来て走ってたよ。警察にも、よくお世話になったね」
 そう遠くない過去の、カミングアウトをするリーゼントの少女。

「ウチは、親も両方ともが族でね。オヤジは、先陣切って車止める役やってたし、お袋もレディースの幹部だったのさ。でもアタシが出来て、結婚するコトになって……ま、出来ちゃった婚ってヤツだ」

 ボクとは、かけ離れたプロフィールを持つレッティー。
けれどもこの日本にも、様々な生い立ちを持った子供たちが存在する。
それを実感せずには、居られなかった。

「アタシを産んだ頃のお袋は、まだ16でね。仕方なくオヤジも族から足洗って、バイク屋を始めたんだ。今日乗って来たバイクも、ウチの商品だったモンだよ」
 ステージセットの後ろで、メタリックに光る4台のオートバイ。

「次の曲……『伝説のバイク乗りたち』」
 レッティーが合図をすると、再びアトラのドラムスティックが鳴った。

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一千年間引き篭もり男・第08章・52話

真っ黒な煙

 セノーテの最下層には巨大な貯水槽があって、その下には巨大な地下空間が広がっている。
新造するセノーテ予定地にも繋がったその場所に、多くのサブスタンサーが集い、進入した時の魔女の手先と戦いを繰り広げていた。

「ヤレヤレだわ。ザコが次々に、湧いて来やがる」
「デカいコンドルも、グルグル飛び回ってるしよ」
「このままじゃ、大事なセノーテが壊されちまう」

 ジャガー・グヘレーラーに乗ったマレナ、マイテ、マノラの3姉妹。
大ザルや大サギのアーキテクターを、アサルトライフルで斉射しながら文句を言っている。

「厄介だよな、とくにあのコンドルの爆撃が!」
「ザコ敵も、空から大量投下されて来やがるしな」
「コンドルを先に潰さねェと、ラチが開かないよ」

 上空を飛び周る、巨大な黒いコンドルに向け、アサルトライフルを放つシエラ、シリカ、シーヤ。
けれども弾は届かず、巨大コンドルはセノーテの地下空間を我が物顔で旋回し続けた。

「ムダ弾を撃つな。お前らの装備じゃ、届きゃしねェだろ」
 髑髏(どくろ)の頭のサブスタンサーを駆る、プリズナーが怒鳴る。

「セノーテの防衛用アサルトライフルじゃ、届かないのはわかるんだケドさ」
「なんで天井が、あんなに高くなってんだよ」
「敵もボタボタ、落ちて来やがるし」

「知るか。時の魔女お得意の、空間転移(ワープ)ってヤツだろ。あのコンドルが、天井全体を転移空間に変えてやがるんだ」
 プリズナーは、いつにも増して苛立っていた。

「そう言えば、アタシらが引きずり込まれたセノーテの中も、異常に深かったよな」
「あの水の中に潜んでいたヤツが、空間を作り替えていたのかも知れないね」
「待って。確かオヤジたちのサブスタンサーも、セノーテの底に引き込まれたんだよな?」

 かつての3姉妹の真ん中であるマクイと、群雲 宇宙斗の娘シエラ、シリカ、シーヤ。
母親譲りの冷静さが、ある可能性を見出す。

「それってもしかして、あの異空間の空の向こうに……」
「オヤジたちが、居るかも知れないってコトか!」
「デカいコンドルが生み出した空が、オヤジたちのところの繋がってる?」

 直情型だった末妹、チピリの娘であるシエラ、シリカ、シーヤ。
彼女たちも直観的に、父親の居場所を推理した。

「なるホドな。だったら話は早いぜ。このオレが、直々に行って連れ戻して来てやる」

 巨大な鎌を持った、テスカトリポカ・バル・クォーダ。
全身に煙を纏(まと)い、敵が群がるセノーテの中心部目掛けて突進して行った。

「悔しいケド、アタシらのサブスタンサーは、飛べないからね」
「アイツに任せるしか、無いよ」
「ここは全力で、援護だ!」

 マレナ、マイテ、マノラのジャガー・グヘレーラーが、テスカトリポカ・バル・クォーダに群がる敵を、アサルトライフルで破壊する。

「どうやらアイツは、真下から異空間に侵入するみたいだ」
「アタイらも、姉キたちに負けてらんないよ」
「アイツを異空間に、入れてやるぜ」

 シエラ、シリカ、シーヤもありったけの弾を、セノーテ底の巨大空間に群がった敵へと向けた。

「コンドルが異空間を生み出してんなら、お前を倒すと異空間は消えちまうってコトだよな」
 セノーテ中央の、巨大コンドルの真下に辿り着いたプリズナーが呟く。

 真っ黒な煙が、テスカトリポカ・バル・クォーダから、竜巻の如く舞い上がった。

「な、なんだ!」
「なにが起こっている?」
「プリズナーは、無事なのか?」

 黒い煙の竜巻は、ジャガー・グヘレーラーの視界をも塞いでしまう。

 しばらくして煙が晴れると、コンドルの下に群がっていた大ザルや大グモ、大キジなどのサブスタンサーが、ほぼ壊滅していた。

「や、やったぜ。アイツのサブスタンサー、スゲェ能力を持ってやがる!」
「だケド、プリズナーはどこ行きやがったんだ?」
「あ、見ろよ。コンドルの、背中の上!」

 シエラ、シリカ、シーヤの3機のサブスタンサーが、巨大コンドルの背中にテスカトリポカ・バル・クォーダが乗っているのを確認する。

「まったく、世話の焼ける艦長サマだ。待ってな。お前らのオヤジを、連れ戻して来てやっからよ」
 再び黒い煙を纏う、髑髏の顔のサブスタンサー。

 黒い煙の竜巻は、セノーテの地下空間に発生した、異空間の空へと消えて行った。

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