少子化の波
トワイライト色の空をバックに、都会の高速道路を走る1台のバイク。
やがて空はスミレ色へと替わり、バイクは集団となって赤いテールランプを輝かせて、夜のハイウェイを疾走する。
レッティーたちの歌う、『伝説のバイク乗りたち』はそんな曲だった。
「オヤジやお袋の頃の族ってのは、200台くらいのバイクが群がって、道交法ガン無視で公道を我がモノ顔で走ってたって話だ」
レッティが、マイクスタンドからマイクを取り外して、観客席に近寄って行く。
「それが今となっては、少子化の影響で族も減っちまって、シケた数しか集まらなくなっちまった」
レッティーは、少しの間を開けた。
「全盛期の暴走族なんて、目の前通し過ぎるのに1分以上かかってたぞ」
「ウチの近くも、たまにバイクが走ってうるさいケドさ。1瞬だモンな」
「ま、族なんて滅んでくれた方が、世のタメだケドよ」
「でもよ。少子化の影響が、暴走族にまで及んでんのか」
「そう言えば近所の少年野球団が、子供が集まらないから解散するって言ってたわ」
「学校まで無くなっちまったし、時代の流れってヤツかねェ」
観客席では、様々な感想が飛び交う。
「だケドよ、数が全てってワケじゃねェ。数が少ないなりの、プライドってモンがあるんよ」
レッティーのハスキーボイスが、ドーム会場を黙らせた。
「次、行くぜ。リトルガール・ドリーマー」
アトラのドラムスティックがカウントを数え、レオナのサックスが鳴り響く。
シズクのベースがバックボーンとなり、レッティーの声が観客たちを魅了して行った。
ミニスターⅢ(サード)コアの4人の少女たちは、様々なスタイルの楽曲をいくつも披露する。
1つ1つの曲は短いものの、ミカドが宣言した通り、楽曲の数は8曲に及んだ。
「アタシらが今、自信もってやれンのはこれくらいだ」
4人の少女たちは、バンドセットから離れると、再びバイクに跨(またが)る。
「近いうちに、アルバム出す予定だからよ。気に入ったんなら、買ってくれや」
派手なヘルメットを被り、図太いエンジン音を鳴らした。
元暴走族らしく、爆音と共に夜空へと消えて行く4台のバイク。
「ロカビリーか、悪くないかもな」
「バイクって、やっぱカッコいいよな」
会場の反応も、悪く無いように見えた。
「ヤレヤレ、なんとか2時間を、持ち堪(こた)えたな」
ゲリラライブの主催者は、胸を撫で降ろす。
「まったく、ご自分の見積もりが甘かったと、謝罪すればイイだけではありませんか?」
ミカドが、ピシャリと言った。
「謝罪だなんて、まっぴらゴメンさ。自分に非があろうが、謝罪する気なんてまったく無いよ」
悪びれる様子も無い、久慈樹社長。
雅楽とロカビリー、2つのミニスターコアの演奏が終わると、ボクの生徒たちも数学の学力テストを終える時間となっていた。
50:00から始まったカウントダウンの数字は、00:00となり止まっている。
「数学……か。ユミアがアイドル教師として教える科目であり、メリーも得意科目だ。だケド、レノンやアリス辺りが心配だな」
ボクはもう、どんな結果であろうと受け入れる気で居た。
50分のライブを終え、ドーム会場は再び10分間の休息時間となる。
ガラスの塔に、2科目のテストを終えた生徒たちの姿が、映し出された。
「一応……一応、念のために聞いて置きたいのだがね、ミカド。ミニスターコアは、流石にこれ以上は無いよな?」
「もう、あるに決まってるジャン!」
「ミニスターコアは、V(ファイブ)までありますね」
久慈樹社長の問いかけに、ミカドの後ろから出て来たサトミとレインが答えた。
ミカドと3人で形成する、プリンセス・オブ・ダークネス。
彼女たちがステージに立っていたのも、ずいぶん前のように感じる。
「そうか、助かるな。これであと、1時間は持つ」
「困った主催者ですわね」
薄い紫の髪に、ドリル状のもみ上げをした少女は、呆れ顔を社長に向けた。
前へ | 目次 | 次へ |