ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第44話

ロカビリー

 ゲリラライブに集った観客席に向かって、レノンが試験を受けているかを聞くアトラ。

「そんなモン、知らんやろ」
 返事は返って来ず、替わりにレッティーが答えた。
観客としては、そんなの知ったコトではないと言う意味なのだろう。

「うっさいギャ。レッティーには、聞いとらんわ」
 アトラは、ヤイ歯のある口を大きく開けて怒っていた。

「レノンはな。ウチの永遠のライバルなんや!」
「へェ、そうなのか」
 どうでも良さそうに、相槌(あいずち)を打つレッティー。

「そうや、ガキん頃からの知り合いだがや。小学生の頃まで、ウチとようツルんどったわ。レノンが男のガキに泣かされとんのを、ウチが助けとったんやで」
「で、ツルまなくなった理由は?」

「アイツが他のヤツと、ツルむようになったからや。確か、タリアっちゅう名前やったわ」
「ああ。確かそんな名前のヤツも、天空教室に居たな」

「その通りだがや。タリアとツルむようになってから、レノンのヤツはケンカの腕を上げてな。タリアからボクシングっちゅうのを教わってから、ケンカもウチより強くなってもうた」
 金ピカに輝くドラムセットを、激しく打ち鳴らすアトラ。

 そう言えばタリアから、レノンのボクシングの才能について聞かされていた。
少しボクシングを教えたら、自分と同じくらいの強さになった……と。

「そりゃ素人のケンカと、ちゃんとした指導を受けたボクシングじゃな」
「アイツは、ウチを裏切りおった。自分だけボクシング覚えて、ウチを置いてけぼりにしたぎゃ」

「そりゃ、オメーの思い込みだろ?」
「そんなコト無いがや。ウチはアイツの師匠のボクシングジムの、門を叩いたぎゃ。でも、身長も体重も足りんとか抜かしおって。アイツと同じ階級には、なれなんだわ!」

「そりゃ、置いてけぼりにされたんじゃなくて、オメーの成長が止まっただけ……」
「ウッサイぎゃ!!」
 激しくドラムを打ち鳴らす、アトラ。

 女性としては、大柄なレノンやタリアに比べて、ユミアやアリスよりも小柄なアトラ。
ブカブカの大きな虎柄のコートを羽織っていはいるが、とても2人と同じ階級にエントリーできるとも思えない。

「レノンは、ウチと同じバカのクセに、ボクシング覚えたお陰で周りから一目置かれるようになったがや。タリアとツルんで、周りの不良どもにブイブイ言わせとったわ」

「なんとなくウワサだけは、聞いたコトあるな」
「ウチかて身長さえ伸びとったら、こんなコトにはなっとらん!」
「そうかあ?」

「そ・う・や!」
 スネアドラムとフロアタムを、ドラムスティックで同じ拍子で叩くアトラ。

「今日は、アイツの苦手な勉強のテスト。アイツの化けの皮が、剥がれるっちゅうモンだがね」
「ア? お前も確か、赤点……」

「ウッサイぎゃ!」
 レッティーの反論を、ドラムでかき消すアトラ。
彼女たちも事前に、今日のテストと同じ内容のモノを受けていたらしい。

「今日はアイツが公衆の面前で、赤っ恥をかくのが拝めるがや」
「テスト結果が、直ぐに発表されるかはわからんぞ?」

「……つ、次の曲、いくで!」
 ドラムスティックを打ち鳴らす、アトラ。

「オイ、勝手に始めんじゃねェ……曲名は、『レッドタイガー刑務所(プリズン)』」
 慌てて曲名をコールする、レッティー。

 アトラの腹立ちまぎれのドラムが、鳴り響いた。
シズクのベースが重低音のリズムを刻み、レオナのサックスが心地よい音色を奏でる。

「アイツら、ステージじゃかみ合ってんのかって感じだけど、音楽はスゲェよな」
「ああ。ロカビリーって、オヤジらの世代の音楽って気がして、そこまで馴染みも無かったケドよ」
「意外に悪くないかもな」

「レッティーのハスキーボイスは、往年のロックボーカリストのそれを彷彿とさせるね」
 観客席を確認しながら、久慈樹社長が言った。

「社長も、洋楽を聞かれるんですか?」
「まあ、嗜(たしな)む程度にはね。キミは、どうなんだい?」

「ボ、ボクですか。ボクは、その……」
 まさか反撃されるとは思って無かったボクは、言葉に詰まる。

「ヤレヤレ、キミもアイツと同じか。興味のないコトには、とことん興味を示さない」
 久慈樹社長は、虹色に輝くスポットライトを見上げていた。

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