ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・61話

ダエィ・ダルス

 牢に繋がれた人物は、アメジスト色の剣の妖しい光に照らされ、その容姿が明らかになる。

「この男、髪はボサボサで伸びまくっているし、ヒゲもモジャモジャだ。一体、どれくらいの期間、この地下牢獄に繋がれていたんだ?」
 サタナトスが、後ろの少年に問いかけた。

「さあな。それより見ろよ、男の身体。ネズミや虫が、大量に群がっているぜ」
 ティ・ゼーウスに言われ、サタナトスも男の身体に目を向ける。

「こ、これは……!?」
 流石のサタナトスも、一瞬たじろいだ。

 両手首を鎖に繋がれた男の身体には、巨大なドブネズミや大ムカデが這(は)い回り、ゴキブリやウジ虫などが無数に蠢(うごめ)いている。

「……う……ああ……」
 男は、苦痛の言葉をあげるのすらも、苦痛が伴っていた。

「コイツ、身体中をネズミや虫どもに喰われてるぞ。こんな状態で、よく今まで生きてられたな」
 魔晶剣プート・サタナティスを松明(たいまつ)灯替わりに、男の身体をあちこち観察しながら感心する、金髪の少年。

「この男、オレと同じ……神の……」
「ン、なにか言ったか?」
 ティ・ゼーウスのささやくような呟(つぶや)きを、聞き取れなかったサタナトスが問う。

「イヤ……それよりコイツは、まだ生きている。なにか、聞き出せるかも知れないぜ」
「こんな瀕死(ひんし)状態の、男にか?」

「フッ、忘れたか」
 ティ・ゼーウスは、真っ赤な剣を男に向けた。

「オレのハートブレイカーは、いわば臓物の剣だ。コイツの喰われた臓物を、回復させる」

「待てよ。そんなコトをしたら、帰り道すら判らなくなるだろう?」
 慌てる、サタナトス。
ハートブレイカーの血管の糸によって、2人は迷宮からの帰路を確保していた。

「帰路など、必要は無いだろ。オレの目的は、王の暗殺だからな」
「イヤ、あるだろ。まったく、お前ってヤツは……」
 肩を竦(すく)める、サタナトス。

 それでもティ・ゼーウスは、迷宮に張り巡らされた血管を全て回収してしまう。
回収した臓物を使って、男の腹ワタを回復させた。

「無くなった臓物すら回復させるとは、便利な剣だな」
「余計なお世話かも、知れんがな」
「どう言うコトだ?」

「恐らくこの男の臓物は、放って置いても勝手に回復する」
 男に群がったネズミや虫を祓(はら)いながら、答えるティ・ゼーウス。

「ますます意味が、解らないんだが?」
 サタナトスは疑問を顔に浮かべつつも、男を拘束している鎖をアメジスト色の剣で断ち斬る。

 冷たい石の床に転がった男の身体は回復を遂げ、話せる状態になっていた。

「さあ、答えて貰おうか。お前は、誰だ?」
 金髪の少年が、問いかける。

「……フフ。わたしは、ダエィ・ダルス。わたしが答えずとも、もう1人の少年は、わたしの正体に気付いていた様だがな」
 牢に繋がれていた、男が言った。

「そうらしいな」
 サタナトスが後ろを向くと、アッシュブロンドの長髪の少年は視線を逸らす。

「まあいいさ。それにしてもお前が、この次元迷宮(ラビ・リンス)を創った、張本人だったとはね」
 サタナトスは、目の前の男が迷宮を創った天才建築家にして偉大なる発明家、ダエィ・ダルスであるコトに気付いた。

「ネズミ捕りを作った本人が、ネズミ捕りにかかってしまった。いかにも、間の抜けた話だな」
 自嘲(じちょう)する、ダエィ・ダルス。

「どうして迷宮を創ったお前が、自分の創った迷宮の牢に捕らわれていた? 」
「ミノ・リス王の、怒りを買ったからだ。王は猜疑心(さいぎしん)の強いお方でな。この迷宮を創らせた後、秘密を知るわたしを迷宮に幽閉したのだ」

「この迷宮の制作にたずさわった大工や石工も、すでにこの世には居ないってところか?」
「イヤ。この迷宮は、わたし1人で創ったモノだよ」

「な、なんだってェ!」
 驚きを隠せない、サタナトス。

 空間が複雑に連なる次元迷宮(ラビ・リンス)は、ダエィ・ダルス1人の手によって創られていた。

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