ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第45話

伝説のバイク乗りたち

 ひと口に洋楽と言っても、ジャズ、ロック、クラッシックなど、幅広いジャンルがある。
ロックだけ手に取っても、ハードロック、グランジ、グラムロック、プログレッシブロック、メタルロックなど、細分化されたジャンルが存在していた。

「ロカビリーと言うヤツは、短くて困るな。もう1曲が、終わってしまったじゃないか」
 久慈樹社長が、舞台裏で嘆いている。

「仕方ありませんわ。ロカビリーは、ロックの中でもかなり古い時代の音楽形体。当時の曲は、ラジオで流されるコトを見込んで、1分前後に収まる曲が多いですから」
 冥府のアイドル(ベルセ・ポリナー)のリーダー的存在である、ミカドが答えた。

「オイオイ。それでは、大した時間稼ぎにならないじゃないか」
「わたし達の歌を、時間稼ぎとは失礼ですね。ですが、心配には及びません。レッティーたちの曲の多さは、冥府のアイドルでも指折りですから」

「そうかい。ならば、イイんだが」
 ガラスの塔に浮かんだカウントダウンの時間経過を 心配そうに見守る久慈樹社長。

「そんじゃ、次はカントリーだ。曲名は、『ホットドッグとアメリカン・クラッシックカー』」
 レッティーが合図をすると、アトラがドラムスティックをクロスさせてリズムを取った。

 レオナのハーモニカのメロディから、軽快に流れ始めるカントリー・ミュージック。
1970年代にはポピュラーだった音楽は、現在でも観客の心を和(なご)ませる。

「なんだか、今度のはノリのイイ曲だな」
「アメリカのひたすら1本道の道路を走る、オープンカーの話らしいぜ」
「道路沿いのバーガーショップに寄って、ホットドッグやハンバーガー食べながらの旅か」

 歌詞が判ると、お腹が空いて来る曲だった。
けれども曲は、2分足らずで終了してしまう。

「次の曲は、『スキャンダラス・パパラッチ』」
 レッティーのハスキーボイスが、曲間も開けずにステージを推し進めた。

 レオナのサックスが、今度は低い音を響かせる。
シズクのベースメロディが、際立つ曲だった。
アトラもドラムセットを、ゆっくりとしたペースで叩いている。

「見た目はヤンキー娘なのに、器用に色んな曲をこなすな」
「ああ。サックスのコ、けっこうなテクニックだぜ」
「ドラムのチビッ子も、実はかなり複雑な演奏してんだよ」

 アイドルのライブ会場の中にも、音楽に造詣(ぞうけい)の深い観客も混じっていた。
彼らの肥えた耳をも、レッティーたちは満足させている。

「かつての恋人がアイドルとなり、そのアイドルを追いかけまわすパパラッチの男視点のストーリーか。よく出来た、話じゃないか」
 ステージ裏で、感心している久慈樹社長。

「この曲、アイツの……」
 ボクには、共に就職浪人時代を戦った、音楽好きの友人がいる。
ソイツが提供した曲の1つに、メロディラインが似ていた。

「ンじゃま、ここらでアタシらの過去の紹介と行こうかね」
 今度は片手でマイクを握る、レッティー。

「最初にも言ったが、アタシらは元はと言えばレディースの暴走族だった。中学ン頃からバイク乗り回して、ピンクの特攻服来て走ってたよ。警察にも、よくお世話になったね」
 そう遠くない過去の、カミングアウトをするリーゼントの少女。

「ウチは、親も両方ともが族でね。オヤジは、先陣切って車止める役やってたし、お袋もレディースの幹部だったのさ。でもアタシが出来て、結婚するコトになって……ま、出来ちゃった婚ってヤツだ」

 ボクとは、かけ離れたプロフィールを持つレッティー。
けれどもこの日本にも、様々な生い立ちを持った子供たちが存在する。
それを実感せずには、居られなかった。

「アタシを産んだ頃のお袋は、まだ16でね。仕方なくオヤジも族から足洗って、バイク屋を始めたんだ。今日乗って来たバイクも、ウチの商品だったモンだよ」
 ステージセットの後ろで、メタリックに光る4台のオートバイ。

「次の曲……『伝説のバイク乗りたち』」
 レッティーが合図をすると、再びアトラのドラムスティックが鳴った。

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