思考する選手たち
「カズマも、バルガのマンマークの命令無視したの、気にしてたみたいね」
ボクたちのベンチで、セルディオス監督が新人マネージャーと話していた。
「それって、どう言うコトですか?」
「カズマはわたしの指示を無視して、自分の判断でバルガのマンマークを外し、ボールの出どころであるスッラのマークに切り替えたね」
「やっぱ監督の指示を無視しちゃうのって、いけないコトですよね……」
心配そうな顔の、沙鳴ちゃん。
「とうぜんよ。ウチみたいに選手層の薄いチームじゃ無かったら、そのまま使って貰えなくなるコトだってあるね。でもサッカーじゃ、選手が監督の命令を無視するの、よく有るコトよ」
「え……?」
「わたしも選手だった頃は、監督の命令よく無視したね。若かったってのもあるケド、監督の戦術があまりに酷かったり、単純に監督の性格が気に喰わなかったり」
「そ、そんなコトで、監督とケンカしちゃうんですか?」
「日本人の感覚だと、そうなるね。でも日本以外の国じゃ、互いに自分の主張を通そうとするの、当たり前の行為ね。よく中国人は我がままだど言う日本人居るケド、スタンダードはむしろ中国人。アメリカ人も、ブラジル人だって自己主張はするし、世界的に見れば日本人が異常に謙虚なだけよ」
日本人の血も引くブラジル人の、メタボ監督は言った。
「謙虚って、ダメなコトなんですか?」
「その通りね。アメリカなんかじゃ、自分の意見を持ってない子供だと思われるよ」
謙虚さを美徳と考えるのは、世界的に見ればごく少数だと言う事実。
そんな事実など知らないまま、ボクは監督の命令を無視し続けていた。
「御剣くんは、どうやらこのままスッラをマークし続けるみたいですね。バルガのマークは、ボクが引き継ぎましょう」
柴芭さんが、亜紗梨(あさり)さんに告げる。
「そうですね。この試合、キックオフから常に、スッラからボールが出てました。御剣くんは、いち早くそれに気付いて、ボールの出どころを抑えに行ったんでしょう」
「ですが、カイザの動きも気になりますね。スッラが展開できない場合、先ほどのように彼がオーバーラップして、ゲームメイクをする様です」
「ええ。ボールの出どころが2つになった場合、どう対処するか……」
亜紗梨さんが危惧したコトは、ボクが1番心配していた。
……ど、どうしよう。
ボールの出どころを抑えに、監督の指示を無視して、スッラさんのマークに着いたケド。
カイザさんがゲームメイクをしちゃったら、なんの意味も無いんだ。
デッドエンド・ボーイズのそれぞれの選手が、それぞれに思考を廻らせていた。
再びタッチラインを割ったボールを、トラヤさんが拾ってコーナーにセットする。
「さっきはクロス、失敗してもうたが、今度はセットプレイや。ヘタなボールは、蹴れん!」
トラヤさんのコーナーキックは、弧を描きペナルティエリアに落ちて来た。
「野洲田(やすだ)、頼んだぞ!」
「任せな、龍丸!」
長身センターバックの野洲田さんが、ヘディングで触ってボールをはじき返す。
「へへッ、もう1回(ワンモア)だ!」
相変わらずの読みで、ルーズボールに素早く反応するネロさん。
ボールを拾って、スッラさんに入れた。
……ここだ。
ボクもそのプレイを読み、パスをカットする。
「し、しまった!」
慌てる、ネロさん。
顔を上げる、ボク。
MIEのバックラインを見ると、カイザさんが自身を含めた4枚のバックラインを、見事に横1列に統率していた。
さ、流石だな、カイザさん。
攻撃の時も、守備の管理を怠(おこた)っていない。
「展開は、させん!」
「オラ、ボールをよこせ!」
前方からスッラさんが、背後からはネロさんが、ボクからボールを奪おうとプレスをかけて来た。
ここは、前に出るしかない。
ボクは、ボールを持ち上がる(ビルドアップ)選択をした。
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