セマル・グルとメリュ・ジーヌ
プリズナーのテスカトリポカ・バル・クォーダが、異次元の空に消えた後も、セノーテ下部の巨大空間での戦闘は継続されていた。
「こりゃ思ったより、かなりシンドいな」
「プリズナーが、前衛の主力って計算していたからね」
「宛てにしていた戦力が居なくなっちまうと、厳しいモノだわ」
マレナ、マイテ、マノラの3姉妹が、ボヤきながらもセノーテ底に密集した敵の対応に当たっている。
黄色い肌にチョコレート色の瞳、黒髪を編み込んだ髪をクワトロテールにした少女たちは、親の世代の3姉妹のマクイの娘だった。
「ジャガー・グヘレーラーは、ただでさえ旧式の汎用機なんだよ」
「動力炉の出力が低すぎて、継続的にレーザー兵器すら使えないし」
「どうすんだよ、姉キたち。このままじゃ、防衛ラインを突破されちまうぞ」
シエラ、シリカ、シーヤの3人も、敵の群れに対しアサルトライフルを放ち続ける。
けれども大量の敵に対しては焼け石に水で、親のチピリと同じ白い肌に、編み込んだ金髪をクワトロテールにした3姉妹の目前に、大挙して押し寄せていた。
「いよいよ、マズくなって来たよ」
「元々6機だけじゃあ、防衛ラインの構築なんてムチャだってのに」
「囲まれる前に、ココを放棄するしか無いね」
「放棄したって、アイツらがなだれ込んで来るだけだよ」
「も、もう、持ちこたえらンねェ!」
「う、うわぁ!?」
6機のジャガー・グヘレーラーが、大グモや大ハチドリ、大サギや大ザルの大群に呑み込まれようとした瞬間、何かが2組の3姉妹の前に立ちはだかった。
「お待たせラビ。ラビリアが、援軍に来たラビ!」
「ココは、メイリン達に任せるリン!」
立ちはだかった、2機のサブスタンサーのパイロットが言い放つ。
「だ、誰だい、アンタたちは?」
「見たコトも無い、変わった機体だケド……」
「味方ってコトで、イイのか?」
「味方でいいラビ。ラビリアたちは、ミネルヴァさまの妹ラビ」
「ミネルヴァさまは死んじゃったケド、メイリンたちが遺志を継ぐリン」
ラビリアとメイリンのサブスタンサーが、敵の大群に向かって突進した。
「ラビリアのサブスタンサー、セマル・グルは、風を自在に操れるラビ。空中の敵は、ラビリアにおまかせラビィ!」
セマル・グルは、犬のような頭に鳥の白い翼を生やした、4つ脚のサブスタンサーだった。
尾はクジャクのような華麗な羽になっていて、高速で移動しながら敵の間を駆け巡る。
クジャクの羽の目が分離して飛び、群がる敵に命中して行った。
「メイリンのメリュ・ジーヌだって、負けてないリン。頑張るリン!」
メリュ・ジーヌは、魚のような下半身の先からヘビの尾が長く伸びている。
上半身は女性的なフォルムだったが、背中にコウモリの翼が生えていた。
「メリュ・ジーヌは、大気から水を抜き出し、その水を操れるリン!」
メリュ・ジーヌは、右手に持った三又の矛を天に掲(かか)げる。
空中に舞い上がった無数の水滴が、高速で飛んで敵の装甲を切り裂く。
「まるで、水のメスみたいだね」
「敵が次々に、倒れて行ってるよ」
「アイツらのお陰で、アタイらは後衛に回れるね」
シエラたち3姉妹は、バックアップに周り防衛ラインを復活させた。
「これでプリズナーの代わりは、なんとかなったね」
「だケド、敵は無数に空から降って来るよ」
「あの異次元の空を、何とかしたいところだケド……」
「それには、あのデカいコンドルを倒すしかねェんだろ?」
「でも、そんなコトしたらオヤジたちが、帰って来れなくなっちまう」
「このまま、消耗戦を続けるしか無いのかよ!」
最低限の援軍を得た6人の少女たちだったが、状況が好転するホドでは無い。
そんな時、彼女たちの首に巻かれたコミュニケーションリングに、通信が入った。
「緊急の情報です。こちらは、ペル・セー……号。現在、地球の衛星軌道上に……」
通信は、断片的に途切れていた。
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