ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第01章・第06話

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タクシー

「当時は、政治家を選ぶハズの選挙が、『教民法に賛成かどうか』にすげ替えられた。どんな高潔な理想も、選挙の争点にしてしまうんだよ。政治家なんて、そんなモンさ」

 ボク達は、大通りに面した居酒屋の前を通った。
赤提灯が夜の闇に浮かび、中からはオジサン達の笑い声や、愚痴やら、がなり声が聞こえて来る。

「もし自分がリストラされる立場だったら……どう思うんですかね……」
 瀬堂 癒魅亜が、ポツリとつぶやく。
言い始めと、終わりでは明らかにトーンがダウンしていた。

「そうだね。自分がその立場だったら、憤りを感じるだろうね」「です……よね」
 隣を歩く女子高生は自身も、時代を変え多くの教職員を路頭に迷わせた、ユークリッドの教師だと言う現実を、思い出した様子だった。

「でも、時代が変われば価値観は変化する。それは仕方の無いコトなのかも知れない。時代の変化によって失われて行ったモノは、他にもきっと沢山あるよ」

「……誰にだって……変わって欲しくないモノはあります」
 瀬堂 癒魅亜は、突然立ち止まって言った。

「一度失われてしまったら……もう二度と元に戻せないモノもあるんですよ」
 振り向いたボクの瞳に、再び涙を溢れさせた少女が映っていた。

「ど、どうしたんだ? 気に障ったなら謝るよ。ボクもキミより少し長く生きてるってだけで、見てきたかの様に偉そなコトを言った」
「違うんです……謝らないで下さい。それに生きているってだけで、価値は有るんです」

 彼女は寂しそうに後ろを向くと、夜空を見上げて聞き取れない小声で言った。
(……だって、お兄様は……もう)

 都会の夜空はそれなりの美しさを保っていたが、彼女が見上げるほど価値があるとも思えなかった。
「偉そうなのは、わたしの方です。気にしないで下さい」
少女は無理やりな笑顔ではにかむものの、その頬にはわずかに涙の跡があった。

 瀬堂 癒魅亜は再び歩き始めたが、一言も喋らなくなった。
ボクもしばらく、口から何の言葉も出なくなる。
気まずい時間を五分程歩き続けただろうか? 大きな通りへと出た。

「こ、ここならタクシーも捉まりそうだ。タクシーで帰る予定だったんだろ?」
 大通りは車の通行量も多く、天井にランプを灯した車も何台か目に入った。
「え? ……ええ。そ、そそ、そうですね」

 彼女はようやく口を開いたが、ナゼか慌てている様に見えた。
「アレ、違った? ひょっとして家がこの近所とか?」「い、いえ。結構遠いです」
 ボクは彼女が慌てている理由を読めず、次の可能性を探った。

「ああ、もしかして手持ちが無いとか? タクシー代くらい貸すよ?」
「そ、そうじゃ無くて……」普段の動画の彼女に比べて、著しく歯切れが悪い。
「ん? だとすると……」ボクは、冗談でも言ってみたくなる。

「もしかして、タクシーに一人で乗ったコトが無い……とか?」
「タクシーくらい、一人で乗れるモン!!」彼女は少女の様な大きな声で叫んだ。
 『ハッ』と我に返る瀬堂 癒魅亜の顔が、トマトが熟すかの様に見る見る赤く染まる。

「……ち、ちち……違います……違うんですッ!?」
 何が違うのか、ボクには理解出来なかった。
「普段は家の車で送り迎えして貰っていて……その……だからって甘やかされてなんか!?」

 彼女は混乱して、言葉を会話として上手く組み立てられないでいた。
ボクは彼女のプライドを尊重し、深く追求せずに手を挙げタクシーを停める。

「それで家はどこ?」「家は都心のマンションで……」「うわ。やっぱ、セレブなとこ住んでるな」
「どこに住んでるかなんて……意味無いです」そう言うと、彼女はタクシーに乗り込んだ。

「運転手さん。彼女を家までお願いします。場所は……」
 ボクは初老の運転手に運賃を手渡し、行き先を告げる。
自動で閉まりかけたドアの向こうで彼女は、再び聞こえない声で呟いた。

「あ、あなたが……少しお兄様っぽくて……油断したって言うか……」
 ドアが閉まり、彼女を乗せたタクシーはテールランプの赤い波間に消える。

 しばらく見送っていたボクは、コンビニでコーヒーとカップ麺を買ったあと、帰りの電車に乗った。

 

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萌え茶道部の文貴くん。第五章・第七話

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 キワモノ部の部長たちは、長机の自分の席に座り、本来の目的である対策会議を開始する。

 生徒会長と副会長は出入り口側の端に座り、渡辺も自分の席に付くと、絹絵が現れた。
「みなさ~ん、お茶が入ったッスよォ~♪ 今日はご主人サマに教えて貰って、アチシが抹茶を点ててみたッス!」

 楓卯歌と穂埜歌の双子姉妹も、茶請けのお菓子の配膳に回る。
「……お、これはこれは、意外といけるのォ?」
「うん、おいしいかも」「旨いガオ♪」

「うッ……やっぱ、ご主人サマよりは落ちる感じッスかねえ。仕方ないッスけど……」
 皆の反応の薄さに、悔しそうな絹絵。

「初めてにしては、上手く点てられてると思うよ。ちゃんと気持ちが籠もってる!」
「ありがとッス、ご主人サマ! これからも精進するッス♪」
 ホワっとした笑みを浮かべ、ご機嫌になる絹絵。

「……ところで渡辺、これからどうすんだ? 事前に情報が判ってもよ。どう対処するかが肝心だろ?」
「ああ、そうだな」渡辺は、橋元の意見に賛同する。

「それにはまず、副会長の協力が必要になります」「……え? わたしの?」
 醍醐寺 沙耶歌は、一瞬だけ戸惑いの表情を見せた。

「はい、今回の会議の交渉相手は、茶道の名家でもあり、巨大企業グループでもある『醍醐寺』なんです。出来れば、もっと情報が欲しい」

「確かに……相手の内情がわかれば、交渉も有利に進められるでしょう」
 『メイド流剣道部』の御子神 涼香が、渡辺の提案をフォローした。

「ええ……わたしの知ってるコトであれば、何でも話します」 
「楓卯歌ちゃんと穂埜歌ちゃんにも、醍醐寺にいた頃、気になったことがあれば話して欲しい」
「うん、いいよ」「姉さまとみんなの為だもの!」三従姉妹の承諾は取れた。

「有難う。実はオレが気になってるのは、二年くらい前に醍醐寺に入ったと言う、『経営コンサルタントの女性』のことなんです。そこら辺を中心に、話してもらえませんか?」

「それって昨日、わたし達が話した……」「『千乃 玉忌』って女のコト?」
「そうだよ。その女性が入ってから、醍醐寺がおかしくなった……ってのが気になってね」

 副会長も気になる節があったのか、言葉を発する。
「……確かに言われてみれば、わたしもあの女性については、不審に思ってました」
「何だか気味が悪いの」「ちょっと怖い感じだった」

「……なあ渡辺。千乃って……まさか?」「ああ」渡辺は、橋元の疑問を察していた。
「もしかすると『千乃 美夜美』先輩と、何か関わりがある人なのかも知れない」

「ご、ごめんなさい。わたしも、経営コンサルタントという以外に、詳しいことは判らないわ」
「でも、妖怪染みてるって言うか……」「人間じゃ無いみたいな、感じがした」
「そ、そうね」双子の現実離れした意見にも、副会長は異を唱えなかった。

「流石に、妖怪は無いと思うけど……」渡辺の言葉に、キワモノ部の部長たちもうなずく。
 すると、うしろにいた絹絵が、渡辺の元に寄って来る。
「あ……あの、ご主人サマ。さっきから、少し変った匂いがしないッスか?」

「え? 別にしないと思うけど……絹絵ちゃん……?」
 けれども絹絵は、『低くてぺっちゃんこな鼻』をヒクヒクさせ始めた。
「やっぱ、何か匂うッス! 副会長さんのスカートの辺りからッス!!」

「沙耶歌ぁ? お前……まさか!?」「……んなッ!!?」
 台詞が終らないうちに橋元の顔には、三つの赤い手形がクッキリと刻まれる。
「……そ、そんなワケ無いでしょ、蒔雄!」「やっぱ、サイテー」「姉さま、別れたら?」

「シルキーッ!!?」橋元は、騒ぎの元凶である絹絵を睨んだ。
「あ、あっれ、おかしいッスねえ? ポケットに何か入ってないッスか?」

「別に何も……あっ、コレ……!?」
 醍醐寺 沙耶歌は、自分のスカートのポケットに、『何か』が入っていることに気付く。
「そうだわ……あの時の!」副会長は、ポケットからハンカチを取り出した。

「これは……銀色の毛?」
 副会長の取り出したハンカチに包まれていたのは、フワっとした毛だった。

「犬か何かの毛みたいだな? シルキー、よく入ってるのがわかったな?」
「エッヘンっす!」絹絵は、平らな胸を張った。
「でもなあ。そんな毛、今は何の役にも立たないぜ?」

「……いえ、蒔雄。この毛は昨日、家で偶然『千乃 玉忌』と出会って、彼女が去った後に落ちていたモノなの。そのときは雨に濡れていたせいか、黒い人の髪の毛に見えたけど……」
(まさか、本物の妖怪……!?)部長たち一同は、一斉に副会長を見た。

「多分、犬でも飼っているのでしょうけど……ね?」
 副会長の冷静な分析に、中二病患者が殆どのオワコン棟の住人たちは、一様に顔を赤らめた。
「……ま、そりゃそうだよね」「ボ、ボクとしたことが、愚かな発想をしてしまった!」

「あの……その毛なんスけど、アチシに預からせて貰えないッスか?」
「どうしたんだシルキー? 別に妖怪の毛じゃあ無いんだぞ?」
「わかってるッスよ! チョット気になるだけッス!」

「いいわよ」副会長は、直ぐに了承する。
「では、お預かりするッス」絹絵はそれを、シマシマポシェットにしまった。

 渡辺を含め、その毛が重要な手掛かりだとも思えなかったので、話は別の話題に移った。
「……出来れば『もう一つ二つ』手を打って置きたいんだ。工藤さん、工事についてのアドバイスをいただけますか?」「オーケー。『アスファルト研究部』の、研究成果を見せるときだぜ」

「それと香住さんにも、大事なお願いがあって……」
「『ナース服・学生服化推進委員会』に出来ることなら、何なりとお申し付けくださいな」
 白衣に身を包んだ少女は、妖艶さの足りない脚を組んで答えた。

「わたしも出来る限り、千乃 玉忌の身辺を探ってみます」
「そうして貰えると助かります。副会長」

 一同は、それぞれの目的の為に動き出した。

 

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一千年間引き篭もり男・第03章・02話

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思い出の幻影

「ち、地球とは、なんと恐ろしい生物の生息する場所なのでしょう!?」
 目を覚ましたクーリアが、震えながら言った。

「ゴメンね、クーリア。セミも、未来だと可愛いものなのかと……」
「そんなおかしな感覚は、セノンさんだけです!」「一緒にしないで下さい!」
 クーヴァルヴァリアの、取り巻きの女の子たちがボクを非難する。

 ヘルメットを外した彼女たちも、様々な髪の色に、多様な瞳の色をしていた。
「地球って、面白い生き物がいるんだな、宇宙斗爺さん」ボクを爺さんと呼ぶ真央。
「失礼ですよ、マケマケ。ちゃんと、おじいちゃんって言わないと」

「変らんだろ……オメーも十分失礼だ」「あうー」軽くチョップをされる、セノン。
「ですが宇宙斗様。ここは本当に、宇宙斗さまの育った街なのですか?」
 クーリアの疑問も最もだと思ったボクは、改めて街並みを観察する。

「宇宙船の中の街……日本のよくある地方都市の、ボクが生まれ育った街にそっくりだ……」
 しかし、振り返ればSFチックなドアが存在し、街の周囲には金属の壁も見える。
街並みや建物の再現度は高かったが、街の一区画を再現した巨大なジオラマのようにも感じた。

「なんだ、この古ぼけた街は。お前の育った二十一世紀は、こんなだったのか?」
「そうだ。ここがコンビニで、曲がったところが閉店した元居酒屋。右側に児童公園があって……」
 街並みは確かに再現されている。

 けれども、そこに人の姿は無かった。
地方のコンビニにも、そこそこお客さんがいたし、児童公園では近所の子供がうるさく遊んでいたのだが、今は誰の姿も無い。

「……無人なんだ、この街は……」
 故郷に戻って来たときの安心感が急激に薄れ、虚無感がボクの心に広がった。
「なあ、爺さん。ヴァルナとハウメアの治療をしたいんだが」真央がボクを呼んだ。

「あ、ああ。そこを左に曲がったところが、町医者なんだ。ベットくらいはあるだろう」
 小さな地方のクリニックに入ると、消毒液の匂いまでちゃんと再現されている。
セノンと真央は、二人の友人のヘルメットを外して、ベットに寝かせる。

「化膿止め、解熱剤、鎮痛剤……それなりに、薬は揃っているようですね」クーリアが言った。
「それで、何とかなりそう?」「残念ながら、彼女たちの負ったケガを治療できるレベルでは……」
 それは医学知識の無いボクにも、なんとなく解っていた。

「とりあえず、容態は落ち着いていますから、化膿止めと鎮痛剤を飲ませて様子を見ましょう」
「え? クヴァヴァさま、薬を飲むの?」驚くセノン。
「この時代の薬は、水と共に口から飲むのが一般的ですのよ」

 クーヴァルヴァリアは、医学の知識も豊富だった。
最も未来の知識とは、チップなどの中に納められ、それを装着するだけで得られるものだったが。

「となりの家に押し入って、水を拝借してきたよ」物騒な言い回しをする真央。
 セノンと真央が残って、ケガ人を観るコトになり、ボクたちは再び街を散策する。

「だが、なんなんだ、この街は。何の為にヤツらは、お前の時代の街なんか作った!?」
 プリズナーが、怒りをトゥランにぶつける。
「ウィッチ・レイダーや、その主である『時の魔女』にでも聞かないコトには、解りませんね」

「だがヤツらは、お前が目的だと言ったんだぜ、原始人。なんか心当たりはねェのかよ?」
「大がかりな街まで用意されてますしね。何らかの意味はあると思いますが?」
「そうは言われても、ボクだって何がなんだか解らないコトだらけだよ」

 すると、クーヴァルヴァリアが提案を口にする。
「もしこの街が、宇宙斗様の住んでいた街を再現しているのであれば、宇宙斗様のご自宅もあるハズですよね? そこに行ってみるのはどうでしょう?」


「それもそうか。よし、行ってみよう。ここを右に回って、それから……」
 ボクはふと、千年前の自宅の状況を考えた。
引き籠りの部屋に存在する、アイテムの数々……。

 敷きっ放しの布団の周りに置かれた、ゲーム機やアニメの光学メディア。
スチールラックに飾られた大量のフィギュアや、本棚に並ぶ漫画や同人誌。
もしそれらまで、完全に再現されていたとしたら……!?

(マズイ!? このまま、クーリアたちを自宅に向かわせるのは、何としても阻止しなければ!!)
 そう思って角を曲がった瞬間、プリズナーとクーリアが叫んだ。
「オイ、誰かいやがるぞ!?」「お、女の人?」

 そこに立っていたのは、クワトロテールの少女だった。

 

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ラノベブログ・タイトル画像・        この世界から先生は要らなくなりました。003(完成)

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この世界から先生は要らなくなりました。(完成)

 『この世界から先生は要らなくなりました。』の、ラノベブログ用トップイラスト、完成です。

 めっちゃ時間かかりました。
もっと複雑な構図を、簡単(?)に描ける先生方はスゴイな。
とりあえず、今連載中のラノベブログ、三本のトップイラストが完成しました。

『この世界から先生は要らなくなりました。』は、人々が教育動画を見て教育を受けるようになった時代に、熱血教師を目指す主人公のお話です。

 教育動画でシェアを拡大したユークリッドの、女子高校生教師・瀬道 癒魅亜との出会いが、彼の運命を変える。

この世界から先生は要らなくなる?

 教育系動画が再生数を伸ばしてる昨今、いずれは教育系ストリーミング動画で小学生から高校・大学の授業すべてを、カバーできてしまう時代がやってくるかも知れません。

この作品は、そうなってしまった未来を描いてます。

 先生は人間ですから、指導力にむらがあり、一人の生徒が解らないのを待ってはくれません。
もし動画で、指導力の高い先生たちが、学校で教わる全ての授業をやってくれたなら?

 それを実現する組織、ユークリッドを立ち上げたのが、倉崎 世判です。
彼の理念は、『教育とは貧しくて塾に行けない子供でも、動画さえ見られれば十分な教育が受けられる』と言うものです。

 実際、何をいってるかわからないような先生に当たってしまったら、その後の授業に付いていくのはかなり厳しくなります。
だからと言って、先生は本当に必要ないのか?

 ……果たして、先生が要らなくなる未来は、やって来るのでしょうか?

萌え茶道部の文貴くん。第五章・第六話

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悲劇のヒロイン

「……それは……」
 綺麗な顔を、うつむかせる醍醐寺 副会長。

「大丈夫ですか、姉さま?」「でも、もう強がらなくていいんです」
 そんな彼女を、浅間 楓卯歌と穂埜歌の双子姉妹が支える。

「貴女が、ここにいるみんなの不満を一手に引き受け、悪役を演じたとしても、それは何の解決にもならない。橋元だって同じことです」
 渡辺が、一歩前にでて副会長に語りかけた。

 茶道部部長のうしろで、ヘッドロックから開放された橋本が、頭をポリポリ掻いている。
「みんなで考えましょう! 誰かのせいになんかにせず、みんなで考え、みんなで話し合い、みんなで行動する……どんな結果になろうと、それが一番だと思ってます」

 渡辺は、堂々と胸を張る。
副会長が部室を見渡すと、皆が納得した顔をしていた。

「……でも、今さら計画を中止するなんて無理なのよ。今日ここに来た理由だって、お父様に何とかあなた達の主張を、聞いて貰える機会を無理やり作ったってコトを、伝えに……」
「えッ……今なんて言いました!?」渡辺を含む全員が、驚きの声を上げた。

「き、期待させたなら、ごめんなさい。かなり悪い条件なのよ。聞くだけ聞いて、あなた達の非を付いて、逆にあなた達キワモノ部を、会議の場で糾弾するように……わたしが……提案したの……」
 醍醐寺 沙耶歌は、その場で泣き崩れた。

「さっすが、沙耶歌だぜ! オレのフィアンセちょわ~ん♪」橋元は両手を挙げて喜んだ。
「凄いですよ、副会長! もう、そんな約束を取り付けて来るなんて!」渡辺も賛同する。
「ま、待って、ホントに厳しい条件で……」副会長は、父親との経緯を説明した。

「元々、条件が厳しいのはわかってました」「で、でも、わたしはみんなを売ったのよ……!?」
「副会長のした交渉は、実はボクも考えていて……こちらの弱みを見せて、大人たちを会議の場に引っ張り出す作戦でしたが……まさか、既に副会長が実行してくれてるなんて凄いです!」

「まずは、大人共を交渉の場に引っ張りだすトコから、始めなきゃな~って思ってたからな、沙耶歌ちょわ~ん。その手間が、完全に省けたぜ」
「……蒔雄、わたし……わたし、みんなに酷いコト……」副会長は、目を真っ赤に腫らして泣いた。

「悪の醍醐寺に捕らわれし、悲劇のお姫様……」
 橋元は彼女の前で片膝を付いて、醍醐寺 沙耶歌の手を取る。

「お前も、悲劇のヒロインを演じるんなら、最後まで演じ切れよ。そんでもって、オレに救われるんだ。悲劇のヒロインってのは、最後にゃハッピーエンドが待ってるもんだぜ?」

「相変わらず、よくもまあそんな臭い台詞が吐けるもんじゃのぉ?」
「しかも皆が見てる前で、堂々と……ある意味、女たらしのプロだな」

 橋元は、『電気ウナギ発電・エコの会』の鯰尾 阿曇と、『アスファルト研究部』の工藤 梢に感心され、同時に呆れられた。

「オレはいつもクールに決めるぜェ!」「もう、蒔雄のバカ!」
 副会長は、橋元の腕の中で顔を真っ赤にしたなる。

「しっかし、これからどうすっよォ~渡辺。オレたちの本当の敵は、学園長じゃなくどうやら『醍醐寺グループ』みて~だぞ? それに奴ら、会議の場でオレたちを潰す気だ!」
「……いや、むしろそれが事前にわかったのは幸運だよ。対策を立てる余地が生まれた」

「……だってさ 沙耶歌」「あんたのお陰だよ」「あ……ありがとう、柚葉……礼於奈」
 二年で沙耶歌と同じ学年の愛澤 柚葉と、部長の天原 礼於奈は、既に打ち解けて話していた。
未知との遭遇部と、巫女・美娘ダンシング部の部長になぐさめられていると、さらに声がかかる。

 同じく二年の香住 癒音と、栗林 伊吹だった。
「これからはわたし達、お友達ですわ」「友だちの悩みは、ボク達みんなの悩みだ!」
ナース服・学生服化推進委員会と、水鉄砲サバゲ部の部長も、輪に加わる。

「サヤ姉さま、酷いです」「わたし達を追い出すなんて!」
「ごめんなさいね、フウ、ホノ。でも、あんな家に居たら、あなた達にも悪い影響が……」
「もっと、わたし達を信頼して下さい!」「もっと、ご自分のコトを考えて!」

 義妹たちに説教され、申し訳無さそうにしている醍醐寺 沙耶歌。
渡辺や橋元ら全員が、この従姉妹の対等に近い関係に驚いた。

 

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一千年間引き篭もり男・第03章・01話

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宇宙船の中の街

 ボクは、『時の魔女』の宇宙船に入るまでの間、束の間の宇宙遊泳を体験した。

 火星の衛星であるフォボスは、当然ながら火星の軌道上を周回している。
火星からの重力は遠心力と釣り合って、ほぼゼロのハズだが、火星からの重力を感じた。
「火星の重力……むしろ、威圧感なのか?」

 ボクは、プリズナーや大勢の少女たちと共に、宇宙船の小さな扉へと吸い込まれる。
ウィッチ・レイダーたちは、アーキテクター形態から元の戦闘機形態に変形し、他の専用ハッチから艦へと帰還するのが見えた。

「なあ、今なら逃げ出せるんじゃないの?」真央が言った。
「アホか、敵の艦の真っただ中だぞ。逃げ出せたところで、一瞬で追撃されて蒸発させられちまうぜ」
「今のところ、我々に危害を加えるつもりは、無いようです。刺激するのは、どうかと……」

「わ、わかったよ」真央もプリズナーたちの意見を入れ、素直に艦の中へと入る。
 通路でもあるのかと予想していたが、そこは球体の部屋だった。
「この先が、重力ブロックか? かなりデカい重力区画を持ってやがるな」

「この時代じゃ人類は、重力を生み出せるようになっているんだ?」
「ゼロから生み出すのは、ムリですね、宇宙斗様」クーリアが言った。
「ですが、ある程度の質量を持つ物体の重力を、変化させることは可能となりました」

 クーリアの言葉を証明するように、外部からの進入口は閉鎖され、球体の部屋は完全に密閉される。
「か……身体が……段々重くなる?」「おじいちゃん、女の子がいっぱいいるのに失礼ですよ!」
「失礼なのは理解するが、肩に担いだ女の子が……重くなって……」

 ボクは、ケガ人の女の子を支えきれず、床に降ろしてしまった。
「まったく、重力ってのは厄介だぜ。人を縛り付ける感じがよォ」重力を嫌う、プリズナー。
 重力の感じ方は人それぞれだったが、ボクは久方ぶりにそれを味わった。

 一連の処理が完了したのか、球体の部屋の入って来たのとは反対の扉が開く。
ボクは、自分の身体すら支えられなくなり、床に倒れ込んだ。
「もう、なにやってるんですか、おじいちゃん?」

「だ、だって、重力のほぼ無い場所から重力のある場所に来たら、誰だって……」
 けれども、床に寝転がっていたのはボクだけだった。
「モウロクしちゃって。ホラ、起きれますよ」セノンは、ボクの宇宙服の胸のスイッチを押す。

「ア、アリガト」ボクは、簡単に立ち上がるコトができた。
「宇宙服が、弱った筋力の補助をしているのか。こんな技術、二十一世紀にもあったな」
「元は介護用や作業用の、筋力補助スーツの技術ですからね」

 クーリアの言葉に、未来の優れた技術も、二十一世紀からの積み重ねなのだと理解する。
すると、彼女がヘルメットを外した。

 真珠色の長い髪が溢れ出し、そこから前後にドリル状のピンク色の髪が垂れている。
「クーリア……キミのその髪って、ウィックなの?」
それはボクにとって、あまりにアニメチックな色だった。

「いいえ、自分の髪ですよ」ボクを見つめるクーリアの瞳。
「ヘルメットのバイザー越しじゃわからなかったケド、瞳も桜色をしてるんだ」
「は、はい……」「なに、当たり前のコト言ってんだよ。こんなの普通だろ?」

 ヘルメットを外した真央も、サファイアブルーの短髪にターコイズブルーの瞳をしていた。
「ボクの時代じゃ、ピンクや青い色の髪は、染めてるかウィックだったよ……」
「そうなんですか?」「セノンみたいな栗色は、そこそこいたケドね」「わたしは平凡!?」

「オラ、チンタラしてないで、さっさと行くぞ!」
 しびれを切らしたプリズナーが、床に足を付け歩き出す。

 球体の部屋はボクらを追い出すと、その扉は開かなくなった。
「まるで、強制スクロールのゲームみたいだな」引き籠りらしい例え方をするボク。
「だが、通路はすぐ終わっているぜ。あの先が、時の魔女が案内したい場所なのか?」

「いきなり拘束とかされんじゃない?」「だったら、とっくにやってそうなモンだろうが」
 折り合いの悪い、真央とプリズナーだったが、どちらにせよ進むより他に、選択肢は無かった。
「なんか、ヘンな音が聞こえませんか?」「ああ、セミの鳴き声みたいなのが聞こえるな」

 不思議に思いながらも進むと、通路の突き当りの扉が開く。
「オ、オイ、何だ、こりゃあ!?」「ま、街がありますよ、おじいちゃん!?」
ボクの目に飛び込んできたのは、見覚えのある街の光景だった。

「ホログラムか何かじゃないのか!? これって、ボクの生まれ育った街の光景だぞ!?」
「残念だが木も水も実体があるぜ。どうなってんだ、まったく」
「セミも本物のアブラゼミだ。ちゃんと生きてる」ボクはセミを捕まえて、セノンに見せた。

「これがセミですか。わたし地球に降りたコト無いんで、始めて見ますが可愛いですね」
 ボクは、セノンの感覚がイマイチ信じられなくて、セミをクーリアの顔の前に持って行く。

「ひやああッ!!?」
 短い悲鳴と共に、クーヴァルヴァリアは気絶し白目をむいた。

 

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萌え茶道部の文貴くん。第五章・第五話

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悪役ヒロイン

 オワコン部の他のメンバーと別れた後、茶道部のメンバーだけで少し寄り道をした。

「相変わらずココは、神秘的で落ち着くッスねえ」絹絵が呟く。
「ほんと……大っきな木が三つ、天に向ってそびえてる!」
「樹の葉っぱから見える星が……プラネタリウムみたい」

 そこは、大須商店街の神秘スポットとして、渡辺が絹絵に紹介した場所だった。
「ここ、昔は古墳だったんスよね~」「そうだね。……誰かの『お墓』だったんだ」

 渡辺は、都会の灯りが落ちて、綺麗に浮かび上がった星空を見て思った。
 (そう言えば最近、美夜美先パイのことを思い出す機会が減ったよな……? 大須商店街のイベント参加申請や、動画の編集やらで忙しかったのもあるけど……)

「ご主人サマ……千乃先パイのコト、考えてるッスか?」
 六月と言っても夜はまだ冷えるからか、絹絵は渡辺の膝に乗っかかって来た。

「千乃先パイ?」「誰?」双子も、絹絵の左右にペトリと張り付く。
 渡辺は、両腕で三人の少女を包み込んだ。

「……オレの一つ上の先輩。去年の火事で、行方不明になったんだ……」
 渡辺は、『千乃 美夜美』先輩との経緯を、双子にも話した。

「千乃……アレ? どっかで聞いたことがある苗字じゃない、ホノ?」
「そうだ! 二年くらい前に伯父様のところに来た、『あの女』と同じだよ、フウ!」
「え? 誰のことを言って……先輩と同じ苗字って……詳しく聞かせてくれないか!?」

 双子は、渡辺の鬼気迫る眼差しに驚いたが、その『謎の女』について語ってくれた。
「名前は確か……千乃 玉忌(たまき)だっけ、ホノ?」
「うん。経営コンサルタントとか言ってたけど、なんだか妖しい気がする……」

「け~えいこんさ~と? なんスか、それ?」
「経営コンサルタント。企業の経営者に、経営についてのアドバイスをする人のこと……だよ」
 渡辺はそう口にしてみて、改めて何か繋がりの様なモノを感じた。

「考えたらさ……その女が現れた辺りから、伯父様もおかしくなった気がしない……フウ?」
「そうだね。それまでは、伯母様とも仲がよかったのに……」
 とは言ったものの、なんの確証も無い双子は顔を見合わせる。

(謎の女……経営コンサルタント……変ってしまった企業経営者……?)
 渡辺は、それらの点を結びつける『何か』を、見つけ出そうとしていた。
「どうしたの、渡辺先パイ?」「気になることでも?」「あるッスか?」

「まだ、なんとも言えないケド、糸口は見てた来た……」
 立ち上がって、星を見上げる渡辺。
「オワコン棟の解体や、キワモノ部の廃部の期限も差し迫ってる。今は『動く時』なのかも……な」

 次の日、『醍醐寺 沙耶歌』副会長は、キワモノ部の部員たちに呼び出され、廊下を歩いていた。

「何かしら……でも、なにがあっても、おかしくは無いわね」
 現在の学校の理事長兼・学園長は、彼女の母親だった。
オワコン棟の取り壊しと、キワモノ部の廃部を決定したのも、彼女の母親である。

「オワコン棟を壊して、高層マンションを建てる計画も、すでに知っているのでしょうね」
 彼女の父親が社長を務める、醍醐寺グループの筆頭企業であるゼネコン会社は、今回の旧部室棟の解体や、その後の高層マンション建築も請け負っている。

 つまり、彼女の両親が、キワモノ部の未来を閉ざそうとする張本人であった。

「……お父様から、大した譲歩も引き出せなかった……悪役ってのも楽じゃないわね、蒔雄」
 彼女は、肩で小さくため息を付いた後、覚悟を決めて茶道部の扉を開ける。
部室には、牢獄のように重苦しい空気が流れていた。

 長机に居並ぶ、オワコン部の部長たちの放つ視線は、全て醍醐寺 沙耶歌に向けられる。
部屋を見渡すと橋元や渡辺、義理の妹たちの姿もあった。

「……今日はこちらからも、あなた方にお伝えしたいことがございます……」
 そう切り出した途端、彼女の背後でピシャリと部室の扉が閉まる。 
「なっ……ッ! 貴方たち、一体何を!?」

 次の瞬間、浅間 楓卯歌と穂埜歌の双子姉妹が、副会長に飛びかかった。
「きゃああああぁぁぁぁーーーー!?」
 モンドリを打って倒れ込む、醍醐寺 沙耶歌とその義妹たち。

「ね、姉さまどうして……どうしてわたし達を遠ざけたのです!?」
「わたし達は、姉さまの義妹なのですよ! もっと頼って欲しいのです!」
 予想外の反応を見せる義妹たちに、沙耶歌は戸惑う。

「……あなた達!? で、ですが、今のわたしには……ああするより他に手が……」
 それは、彼女なりに必死に考えて出した決断だった。

「ごめんね……副会長。あたし達、あんたのコト勘違いしてた」
 頭に宇宙人カチューシャを付けた少女が、後ろから両腕で沙耶歌を優しく包み込む。

「わたしもゴメン。勝手に悪い奴だと決め付けて、勝手に敵だと思い込んでた」
 赤いレオタードに羽織姿の少女も、同じよう副会長に寄り添った。

「……こ、これは一体……どういうことですか!?」
 『悪役を演じる覚悟』で来たハズが、余りの予想外な展開に理解が及ばない副会長。

「悪ィ、沙耶歌。全部バラしちゃった♪」
 ヘラヘラした態度で、『スマン!』とばかりに手を合わせる橋元 蒔雄。
「バ、バラしちゃったって……あなたねえッ!?」副会長は苛立ちを隠せない。

「まあそう怒るなって~沙耶歌ぁ」「怒らせる様な言い方をしてるのは、お・ま・え・だ!」
『アスファルト研究部』の工藤 梢が、生徒会長を羽交い絞めにした。

「大丈夫だったガオ?」「ホラ、立てるアル?」
 小柄な二人の部長も、双子を引っぺがして副会長を助け起こす。

「醍醐寺副会長……」うしろからの声に振り向くと、そこには眼鏡の少年が立っていた。
「渡辺……文貴くん。これは一体何なの? どうして……」
 茶道部の部長は、副会長の顔を真っ直ぐに見て言った。

「誰かが悪役を演じて幕引きなんて、そんなのおかしいし、何の解決にもならないからです」

 

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