ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第03章・02話

f:id:eitihinomoto:20190804105805p:plain

思い出の幻影

「ち、地球とは、なんと恐ろしい生物の生息する場所なのでしょう!?」
 目を覚ましたクーリアが、震えながら言った。

「ゴメンね、クーリア。セミも、未来だと可愛いものなのかと……」
「そんなおかしな感覚は、セノンさんだけです!」「一緒にしないで下さい!」
 クーヴァルヴァリアの、取り巻きの女の子たちがボクを非難する。

 ヘルメットを外した彼女たちも、様々な髪の色に、多様な瞳の色をしていた。
「地球って、面白い生き物がいるんだな、宇宙斗爺さん」ボクを爺さんと呼ぶ真央。
「失礼ですよ、マケマケ。ちゃんと、おじいちゃんって言わないと」

「変らんだろ……オメーも十分失礼だ」「あうー」軽くチョップをされる、セノン。
「ですが宇宙斗様。ここは本当に、宇宙斗さまの育った街なのですか?」
 クーリアの疑問も最もだと思ったボクは、改めて街並みを観察する。

「宇宙船の中の街……日本のよくある地方都市の、ボクが生まれ育った街にそっくりだ……」
 しかし、振り返ればSFチックなドアが存在し、街の周囲には金属の壁も見える。
街並みや建物の再現度は高かったが、街の一区画を再現した巨大なジオラマのようにも感じた。

「なんだ、この古ぼけた街は。お前の育った二十一世紀は、こんなだったのか?」
「そうだ。ここがコンビニで、曲がったところが閉店した元居酒屋。右側に児童公園があって……」
 街並みは確かに再現されている。

 けれども、そこに人の姿は無かった。
地方のコンビニにも、そこそこお客さんがいたし、児童公園では近所の子供がうるさく遊んでいたのだが、今は誰の姿も無い。

「……無人なんだ、この街は……」
 故郷に戻って来たときの安心感が急激に薄れ、虚無感がボクの心に広がった。
「なあ、爺さん。ヴァルナとハウメアの治療をしたいんだが」真央がボクを呼んだ。

「あ、ああ。そこを左に曲がったところが、町医者なんだ。ベットくらいはあるだろう」
 小さな地方のクリニックに入ると、消毒液の匂いまでちゃんと再現されている。
セノンと真央は、二人の友人のヘルメットを外して、ベットに寝かせる。

「化膿止め、解熱剤、鎮痛剤……それなりに、薬は揃っているようですね」クーリアが言った。
「それで、何とかなりそう?」「残念ながら、彼女たちの負ったケガを治療できるレベルでは……」
 それは医学知識の無いボクにも、なんとなく解っていた。

「とりあえず、容態は落ち着いていますから、化膿止めと鎮痛剤を飲ませて様子を見ましょう」
「え? クヴァヴァさま、薬を飲むの?」驚くセノン。
「この時代の薬は、水と共に口から飲むのが一般的ですのよ」

 クーヴァルヴァリアは、医学の知識も豊富だった。
最も未来の知識とは、チップなどの中に納められ、それを装着するだけで得られるものだったが。

「となりの家に押し入って、水を拝借してきたよ」物騒な言い回しをする真央。
 セノンと真央が残って、ケガ人を観るコトになり、ボクたちは再び街を散策する。

「だが、なんなんだ、この街は。何の為にヤツらは、お前の時代の街なんか作った!?」
 プリズナーが、怒りをトゥランにぶつける。
「ウィッチ・レイダーや、その主である『時の魔女』にでも聞かないコトには、解りませんね」

「だがヤツらは、お前が目的だと言ったんだぜ、原始人。なんか心当たりはねェのかよ?」
「大がかりな街まで用意されてますしね。何らかの意味はあると思いますが?」
「そうは言われても、ボクだって何がなんだか解らないコトだらけだよ」

 すると、クーヴァルヴァリアが提案を口にする。
「もしこの街が、宇宙斗様の住んでいた街を再現しているのであれば、宇宙斗様のご自宅もあるハズですよね? そこに行ってみるのはどうでしょう?」


「それもそうか。よし、行ってみよう。ここを右に回って、それから……」
 ボクはふと、千年前の自宅の状況を考えた。
引き籠りの部屋に存在する、アイテムの数々……。

 敷きっ放しの布団の周りに置かれた、ゲーム機やアニメの光学メディア。
スチールラックに飾られた大量のフィギュアや、本棚に並ぶ漫画や同人誌。
もしそれらまで、完全に再現されていたとしたら……!?

(マズイ!? このまま、クーリアたちを自宅に向かわせるのは、何としても阻止しなければ!!)
 そう思って角を曲がった瞬間、プリズナーとクーリアが叫んだ。
「オイ、誰かいやがるぞ!?」「お、女の人?」

 そこに立っていたのは、クワトロテールの少女だった。

 

 前へ   目次   次へ