ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第08章・83話

錘(アンカー)

「クソッ……まるで見えない1点に向かって、引き寄せられている!?」

 重力をある程度は操れるゼーレシオンですら、木星クラスの質量を持つ、小さなサッカーボール程度のブラックホールの、強大な重力からは抜け出せないでいた。

「準惑星エリスにのみ、影響を及ぼすネメシス(謎のブラックホール)が、ゼーレシオンを引き寄せているってのか!」
 納得が行かないボクだったが、それでも目の前の現実は覆(くつがえ)らない。

「ど、どうする。このままブラックホールに飲まれでもしたら、どうなってしまうんだ!?」
 当然ながら、ブラックホールに吸い込まれたコトなど無いボク。

「重力によって圧し潰されるのか、それともスパゲッティのように長く伸ばされてしまうのか……」
 1000年前に得た科学の知識が、脳裏を過った。

「止まれ、止まれ、止まれ!」
 見えないブラックホールに、どれだけ接近しているのかも解らない。

「宇宙でどうやって、ブレーキを掛ければイイんだッ!?」
 タイヤも地面すらも存在しない、宇宙空間。
ゼーレシオンの、僅かばかりの重力制御すら利かない状況が、ボクを極限まで焦らせた。

「ブリューナク!!!」
 ボクの声に反応し、ゼーレシオンの左腕に装備されていた巨大な盾(シールド)が、展開する。

 ……もはや、それ以外の方法が思い浮かばなかった。

 開いた盾の先端から、バチバチとスパークしながら閃光が走り、その先に光の球が出現する。
ゼーレシオンからエネルギーを吸った真っ白な光球は、徐々に大きさを増して行く。

「行ってくれェ!」
 ゼーレシオンが、ブリューナグを放った。
かなりの大きさとなった光の球は、ゼーレシオンが引き寄せられている方向とは真逆の方角へと飛ぶ。

 ブリューナクはやがて、ゼーレシオンを突き飛ばしたツィツィ・ミーメ本体へと辿り着いた。

「よし、狙い通りだ」
 ブリューナクとゼーレシオンの盾は、光のスパークによって結ばれており、ボクはそれで光の球をある程度制御できる。

 ブリューナグの光のスパークが、ツィツィ・ミーメに巻き付き、ブラックホールへと加速するゼーレシオンのスピードを弱めた。

「悪いケド、ミネルヴァさん。貴女のサブスタンサーに、錘(アンカー)になってもらう!」

 ほぼ何も存在しない宇宙空間にあって、ゼーレシオンがブラックホールへと吸い込まれるのを止められるのは、ツィツィ・ミーメを置いて他に存在しなかった。
ボクはツィツィ・ミーメに碇(いかり)を巻き付けるようにして、ゼーレシオンの加速を止めたのだ。

「ブリューナクは、こうも使えるんだ!」
 ボクは、スパークする光の鎖を引く。
ツィツィ・ミーメに巻き付いたそれは、ゼーレシオンをブラックホールの重力から引き揚げて行った。

「これでネメシスに堕ちるコトも、無くなっ……ッ!?」
 けれども、ゼーレシオンを引く光の鎖が、急に緩む。

「な、なんで!」
 ボクは、光のスパークが伸びる先を確認した。

「ツィツィ・ミーメが、こっちに向って来る!?」
 不本意ながら、ゼーレシオンを支える役割りを背負わされていたツィツィ・ミーメが、ゼーレシオンに向け突進して来ている。

「ガハッ!!」
 やがてツィツィ・ミーメは、ゼーレシオンと激しく衝突した。

「……こ、このままゼーレシオンだけ、ブラックホールの中に堕とそうってコトか?」
 ボクは、ゼーレシオンが誇るもう1つの装備を展開する。

「フラガラッハ!」
 全てを斬り裂く剣を、突進して来たツィツィ・ミーメに突き刺す、ゼーレシオン。

「これで何とか、弾け飛ばされるのは防げたが……」
 けれども、2体のサブスタンサーはフラガラッハによって固定されたまま、ブラックホールへと引き寄せられていた。

「ミネルヴァさん、聞えるか。コースを、変えるんだ!」
 ゼーレシオンを通して、密着するツィツィ・ミーメに声を伝える。

「このままじゃ、2機とも潰されてしまうぞ!」
 けれどもツィツィ・ミーメは、何の反応も示さなかった。

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・90話

新たなる刺客

「かつてのミノ・アステ将軍の配下の活躍もあり、命を取り留められる者はほぼ救い終わりました。パルシィ・パエトリア王妃も、お体をお安め下さい」

 ミノ・テリオス将軍が、王妃に傅(かしず)きながら言った。

「いえ。わたくしなら、大丈夫です。この闘技場のみならず、周囲に被害が出ているかも知れません。被害状況の確認を、優先させて下さい」

「心得ました。ミノ・テロぺ将軍、任せて構わないか?」
 雷光の3将が筆頭は、同僚に確認を取る。

「もちろん、構いませんよ。王妃の護衛は、お願い致します」
 柔和な性格へと戻ったミノ・テロぺ将軍は、数名の部下と共に闘技場を出て行った。

「さて、新たなるミノ・アステ将軍。貴公の就任式のハズが、飛んだ災難となってしまったな」
 横たわった舞人の前に立つ、漆黒の髪の女将軍に視線を向ける、ミノ・テリオス将軍。

「戦いは、まだ終わってはおらんじゃろう。地下闘技場では、サタナトスとミノ・ダウルス大将軍との戦いの決着が、どうなったかも解らんのじゃからな」
 ミノ・アステ将軍を襲名した、ルーシェリアが言った。

「残念だが、わたしの鏡であっても、無限迷宮(ラビリンス)へと立ち入るコトは困難なのだ。地下闘技場に設置してあった鏡すら割れた今、様子を伺い知る術は無い」

「ラビ・リンス帝国の、名の由来ともなった迷宮なのです。ココは、あの子を信じて待ちましょう」
 パルシィ・パエトリア王妃は、柔和に微笑む。

 すると兵士が3人ほど、壊れた城門をくぐり抜けてやって来た。

「ミノ・テリオス将軍に、申し上げます!」
「ただ今、近隣の諸国より、貢物を持った使者がやって参りました」
「いかが、致しましょう?」

 軍事国家らしく、大声で必要最低限なコトだけ告げる兵士たち。
決定権は、彼らには存在しなかった。

「そう言えば今日は、近隣の諸国から貢物を持った使者が、やって来る日でもあったのじゃ。ラビ・リンス帝国の武威を示すハズのイベントが、このような闘技場を見せて良いモノかえ?」
 就任したてのミノ・アステ将軍が、皮肉を言う。

「フゥ、ヤレヤレだな……」
 流石に、ため息を吐くミノ・テリオス将軍。
彼の視界には、見るも無残な闘技場が映っていた。

「彼らとて、大魔王ダグ・ア・ウォンが島を襲った時には、すでに到着していたのでしょう。もはや、隠しようがありません」

「致し方ありません。通すがよい」
 ミノ・テリオス将軍が、命令を降す。
兵士たちは駆けて行き、しばらくして使者の集団を先導しながら戻って来た。

 周辺諸国から集められた使者たちは、それぞれの文化圏の様々な衣装を身に着けている。
ロバや牛に似た4脚歩行の生物に引かせた馬車には、大量の金貨や宝石が載っていた。

 頭から真っ白な外套(がいとう)を被った、奴隷であろう少年や少女たちも、馬車の左右に整然と並ばされている。

「我がラビ・リンス帝国が課した貢物、その量や品質が正しいかどうかを検(あらた)める。しばし、休むが良い」
 軍事国家の将軍らしく、高圧的な態度を取るミノ・テリオス将軍。

「フフ……オレたちに、休みなんて必要ないぜ」
「ええ。だってこれから、戦いが始まるんですもの」
 奴隷のハズの、少年や少女たちが言った。

「ア、アナタ達は、一体!?」
 驚きを隠せない、パルシィ・パエトリア王妃。
彼女の目の前で、先導していた兵士3人が斬り殺された。

「お前たち、これはなんのマネだ!」
 王妃の前に立つ、ミノ・テリオス将軍。

「へへ、さあね。答えてやる義理は、無いさ」
「それよりアンタ、ミノ・テリオス将軍だろ?」
「後ろに隠れてるのは、パルシィ・パエトリア王妃なワケだ」

 外套を脱ぎ捨てる、少年や少女たち。
その肌の色や髪の色は様々で、目の色も異なっていたが、手には武器や盾を装備していた。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第11章・第25話

2つの少女の首

「緑色の苔が生(む)す黒ずんだ墓は、誰がその下に眠っているのか、墓標に刻まれた文字すら読めない状態だった……」
 舞台のマドルが、現場の状況を観客たちに説明した。

「この墓の前は、確かに土が緩んでいるね。それによく見ると、他は薄っすらと雑草が生えているのに、ここだけ生えていない」
 マドルは屈(かが)んで、地面の様子を探る仕草をする。

「つまり最近、この墓の前を掘り返した不届きな輩(やから)が、居ると言うコトだな」
「恐らくは……埋まっているのが2人の少女の首であれば、これ以上は傷付けたく無いね」
 警部の部下たちに、注意を喚起(かんき)させるマドル。

「そう言うコトだ。お前ら、くれぐれも慎重に掘り返すんだ。解ったな!」
 高圧的な野太い声と共に、ドーム会場にシャベルで土を掘り返す音が響き始めた。

「けっこう掘れたね。そろそろ、なにかに当たってもおかしくは無い頃じゃないかな?」
「よォし。シャベルは止めて、スコップとハケで丁寧に土を掻き出すんだ」

 掘削音が、ザクザクと大雑把な音から、ガリガリと高い音へと切り替わる。

「……や、止めろ、お前たち! 勝手に人サマの墓を、暴きおって!」
 いきなり、年老いた女性の声が響いた。

「お、お婆様、どうしてここに!?」
 ハリカが、慌てて駆けて行く。
その様子からして、彼女の祖母である嗅俱螺 蛇彌架(かぐら タミカ)が、来たのだろう。

「お婆様、警察の方々です。伊鵞(いが)のお屋敷で起きた、殺人事件の調査なのですよ」
「警察だか知らないが、死者の眠りを妨げて良い道理があるモノか……ゴホッ、ゴホッ!?」

「だ、大丈夫ですか、お婆様!」
 しゃがんで、祖母の背中を摩(さす)る仕草をするハリカ。

 ……観客たちの注目が、本来の調査目的から逸れた時だった。

「け、警部、有りました。腐敗した、女性の顔が埋まってます!」
 警察官の叫ぶ声が、ドーム会場に木霊する。

「ホ、本当か!?」
「はい。土の中に直接埋まっていたため、腐敗が進んで白骨が見えてます」

「埋められたのが、2件目の殺人が起きた日の深夜だとすれば、かなりの日数が経過してしまっているからね。大雨で水をたくさん吸ってしまったのも、腐敗を早めた原因だろう」
 マドルは、口を覆い顔をしかめた。

 架空の物語ではあるが、物語の中の実際の現場は、かなり凄惨な状態だったに違いない。

「首は、1つだけか?」
「い、いえ。もう1つ、茶色い陶器らしき物が見えます」
「なにィ、陶器だとォ!?」

「どうやら、首桶のようだね」
 マドルが、地面の下を覗き込みながら言った。

「ク、首桶とは何だ、マドル?」
「首桶と、言うのはだね。戦国武将が、自分が討ち取った武将の首を入れるための桶さ。漆(うるし)塗りの木製の物が主流だケド、陶器の物も珍しくは無いさ」

「戦国武将が使った代物が、どうして墓の中に?」
「由緒正しい武家の家系なら、先祖の遺品として保管してあっても不思議じゃないよ」

「首桶ってくらいなら、中身は当然……」
「ああ。殺された2人の少女の内、どちらかの首だね」
 哀しそうに眼を伏せた、マドルが呟く。

「こ、これは、伊鵞 兎愛香(いが トアカ)さんで、間違いは無いだろうな」
 警部の太い声が、段々とか細くなって行った。
第1の殺人の犠牲者である彼女の身体は、館のシャンデリアの下敷きとなって潰されている。

「先ほどの首と違って、生前の綺麗なままの顔だと言うコトが、せめてもの慰(なぐさ)めだよ」
「そうだな、マドル。サキカちゃんの顔は、見るも無残に変わり果ててしまっていたからな」

「……」
 マドルは、言葉を返さなかった。

「クッソ、マスターデュラハンめ。酷いコトをしやがって!」
「警部。他にも犯人の手がかりに繋がる、遺留品が埋まっている可能性がある」
「ああ。お前たち、調査の続きを……」

 警部が部下たちに、命令をしようとした瞬間、ピシャッ!! ……と、雷鳴が轟(とどろ)く。
直ぐにドーム会場にも、激しい雨音のSE(効果音)が流された。

「調査は残念ながら、激しい雨によって中断を余儀なくされてしまう。翌日も警部が申請はしたが、許可は下りず、調査は強制的に終了となってしまった……」

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キング・オブ・サッカー・第10章・EP001

あるメタボキーパーの日常

「あ~あ、やっちまったなァ!」
 湿った布団に寝転がった、ブタかアザラシのような男が言った。

「やっぱ、ここいらが潮時かもな。アイツらの頑張りを、オレ1人で無駄にしちまったんだからよ」
 布団の横にはテーブルがあって、銀色の缶や白地にレモンやオレンジが描かれた缶が、大量に散らばって置かれている。

 男が真上を見上げると、薄い板の天井に雨漏りの跡が滲(にじ)んでいた。

「サッカーって競技で、14失点……地域リーグの2部とは言え、過去ワースト記録か。マンガですら、レアリティ無さ過ぎて見ない数字だぜ」

 男は上半身を起こそうとするも、肥満体のため起き上がれない。
仕方なくうつ伏せになり、4つん這いになってから身体を起こした。

「セルディオス監督も、怒ってんだろうな。何も言われなかったのが、逆にキツイぜ」
 男はボリボリと腹を掻いたあと、台所へと向かう。
台所シンクの洗い桶からコップを取って軽く洗い、水を注いで飲んだ。

「高校時代のオレが聞いたら、どう反応すんだろうな……」
 男は、今どき見ない若草色の冷蔵庫の上を見る。
そこには古びた写真立てがあって、大勢のサッカー選手が笑顔で写っていた。

「思えばこの頃が、オレのサッカー人生……イヤ、人生そのものの絶頂期だったのかもな」
 選手の中で、1人だけ違ったユニホームを着た青年。
キーパーであるその選手は、スリムで顔も整っており、自信が顔から溢れていた。

「ずいぶんと、生意気そうな顔してんじゃ無ェか。いずれその鼻っ柱を、ヘシ折られるとも知らずによ」
 過去の自分を嘲(あざけ)りながら、台所を出る男。

「アイツら、みんなどうしてやがるのかな。プロになれたのは、オレと江坂だけだったが、プロとして成功したのは江坂1人で、アイツも今やチームを追われる身か……」

 男は何気なく、布団の敷いてある部屋の入り口にあった、薄汚れた鏡を覗き込む。

「ケッ。セルディオス監督みてェに、ブクブクした顔だな。これでも昔は、美形で女どもからキャーキャー言われてたのによ」
 脂ぎった自分の顔を、太い指でペタペタと触りまくった。

「ここまで変わると、詐偽だよな。アイツも、そりゃ愛想を尽かすってモンだぜ」
 男は、せんべいみたいに平たくなった布団に、腰を降ろした。

「何か、やって無ェかな?」
 テレビのリモコンに、手を伸ばす男。
その向こうに置いてあった、写真立てに目が行く。

 写真立てには、仲睦まじい3人の家族の写真が入っていた。

「やっぱ、このままじゃ終われ無ェよな」

 男は台所からゴミ袋を持って来ると、部屋に散乱していたアルミ缶を入れ始める。
4リッターサイズの袋は直ぐに満タンとなり、次の袋にも詰め始めた。

「一生懸命に頑張っている、紅華たちにも申し訳が立た無ェ!」
 男は台所に戻ると、ゴミ袋に集めたスチール缶を、1つ1つ丁寧に洗う。

 それから3Lサイズのジャージに着替え、タオルを首にかけ、両手にゴミ袋を抱えてアパートを出た。

「もう意思の弱かったオレとは、おさらばだ。オレは、変わるぜ」
 共同のゴミ置き場にゴミ袋を置くと、男はランニングを始める。

 タップンタップンと、揺れるお腹。
重量のかかる膝が、直ぐに悲鳴を上げた。

「ヤレヤレ、古傷が痛むぜ。やっぱ徐々に、馴らして行か無ェとな」
 男は5メートル走っては、50メートル歩くを繰り返す。

「ハアッ、ハアッ、ヒィ!?」
 それでも全身汗まみれになり、息も上がっていた。

「こ、こりゃ、シンドいな。ン……そろそろ昼か?」
 真上に達しようとしていた、太陽を見上げる男。

「今日は、スーパーで総菜が安かったな。買って帰るか」
 男はランニングを切りあげ、白い袋を抱えてアパートに帰宅する。

「フゥ、ヤレヤレだぜ。夏もまだだってのに、暑ィ~!」
 部屋に入るなりジャージやシャツを脱ぎ捨て、大きなトランクス1枚になる男。

 そのまま台所に行って、グラスに大量の氷を注ぎ、布団の敷いてある部屋へと戻って来る。

「……ま、明日からってコトで」
 男は白い袋から、レモンが描かれた白いアルミ缶を取り出すと、氷の入ったグラスに注いで、グビグビと飲み始めた。

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一千年間引き篭もり男・第08章・82話

見えない重力

 かつてボクは、宇宙はアナログなのか、デジタルなのかと言う議論をしたコトがある。

 紀元前、4~5世紀にも遡(さかのぼ)るギリシャの哲学者、レウキッポスやデモクリトスによって提唱された、物質の最小の単位。

 例えばリンゴを2つに割り、割ったモノをさらに2つに割り、切って切ってを繰り返していく。
当然ながら繰り返すホドにリンゴは小さくなって行き、やがては原子1つに到達するだろう。

 原子は長らく、物質の最小の単位とも考えられていたが、21世紀の時点でもそれは間違いだったと証明されていた。
原子は原子核と電子で構成され、原子核はクォーツと呼ばれるモノに分けられる。

 ……さらにその先は、あるのだろうか?

 黄金比である16:9の長方形は、その中に納まるように黄金長方形を描き、さらにその中に黄金長方形を描くとする。
その辺を結んだ螺旋は、永遠に渦を巻き続けると言う。

 物質にクォーツよりも小さな単位が存在し、さらにその小さな単位を構成する小さな単位が存在し、どこまでも無限に小さくなれるのであれば、宇宙はアナログだ。

 でも……もしどこかで、限界があるのだとしたら、宇宙はデジタルと言うコトになる。

 宇宙がデジタルであるなら、ブラックホールの内部であっても、アインシュタインの一般相対性理論で、密度が数値が∞(無限大)を示すコトは無い。
物質が小さくなる、限界があるからだ。

 ビッグバン理論のように、宇宙がかつてピンポン球より小さな1点に集約していたと言うのも、成立しなくなる。
理由は同じく、物質が小さくなる限度が存在するからだ。

 宇宙が1点から始まったとするビッグバン宇宙論は、ウソだったというコトになる。
現在の宇宙が空間と共に膨張しているのは事実だが、それは人類の観測範囲に限界があったからなのかも知れない。

 宇宙はデジタルであるコトを示唆(しさ)するモノは、けっこう存在する。

 例えば原子は、原子核の大きさで原子の性質が変化する。
水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム……と、なめらかなアナログ的では無く、デジタル的にまるで階段のように変化を示すのだ。

 光の速度が1定なのも、現在の宇宙がデジタル的と言える証拠だろう。
真空中の光の移動速度は、約秒速30万キロメートルだ。

 光速度不変の法則とも呼ばれているが、光の移動速度がナゼか秒速30万キロメートルなだけだ。
どうしてそうなのかは、よく解っていない。

「本当にあそこに、ブラックホールが存在しているのか?」
 ゼーレシオンの巨大なカメラアイですら、認識できないネメシスと勝手に名付けたブラックホール。

「宇宙がデジタルなら……時の魔女はブラックホールをも複製して……」
 けれどもボクには、考察を続ける余裕を与えられなかった。

「グワッ!?」
 目が覚めるような衝撃が、ボクとゼーレシオンを襲う。
ツィツィ・ミーメが、その巨体を持って物理攻撃を仕掛けて来たからだ。

「気持ちよく寝ていたのに、布団を引っぺがされたみたいだ」
 1000年前のボクは、自宅の自分の部屋が視界の全てだった。
そんなボクを、ある少女が外の世界へと連れ出してくれた。

「クッ……ミネルヴァさん!」
 ボクはなんとか、ゼーレシオンの体勢を立て直そうとする。
けれども目に見えない何かが、それを阻止した。

「な、どうした、ゼーレシオン!? どうして、言うコトを聞かない?」
 ボクは原因を、突き止めようとする。

「この感じ……何かに引き寄せられている!?」
 ゼーレシオンの頭部が、飛ばされている方向を向いた。

「や、やはり、ネメシスだ。目に見えない、ブラックホールに吸い寄せられている!」

 木星クラスの大質量を持つ、サッカーボールくらいの大きさのブラックホール、ネメシス。
ゼーレシオンは、その巨大過ぎる重力に捉まってしまっていた。

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・89話

白いミルクの回復魔法

「残念だケド、わたしの魔法じゃこの人は助けられないよ。ごめんなさい!」
 わき腹から血をドクドクと流し横たわる男の前で、悲痛な顔をするウティカ。

 大魔王ダグ・ア・ウォンらによって破壊され、蹂躙(じゅうりん)し尽くされた闘技場には、他にも多くの重傷者が横たわっていた。

「ウティカ姉さま、この人は比較的軽症だぞ」
「姉さまの風の癒し魔法で、助けられるんじゃないか?」
 かつてはミノ・アステ将軍の近習として仕えていた、12人の少女の何人かが手を挙げる。

「わかったわ、イオ・セル、ハト・フィル。今行くよ」
 2人の指し示した男の元へと、駆けて行くウティカ。
風の魔法で、男の傷口を治療し始めた。

「スゴいな、ウティカ姉さまは」
「傷が、見る見る塞がって行く」
 治癒魔法を目の当たりにし、感心するイオ・セルとハト・フィル。

「高名なお師匠さまが、色々と教えてくれたからね。でも貴女たちにも、魔法の才能があるみたい」
 男を治療をしながら、ウティカが言った。

「本当か、姉さま?」
「わたし達も、風の魔法が使えるのか?」

「貴女たちの中に眠る精霊は、風じゃない。大地と……そうね。月の力を感じるわ」

「大地と、月の力か」
「それでは、回復魔法は使えそうに無いな」
 残念がる、イオ・セルとハト・フィル。

「ウティカ姉さま。こっちに来てくれ」
「この人たちも、助かりそうだぞ」
 イオ・シルやハト・フェルらが、大勢の怪我人の前で手を振っていた。

「みんな、一旦あっちに集まって、円陣を組んで。みんなの中に眠る、魔法の能力を引き出すわ」
 重症の男たちの周囲に、ウティカは12人の少女の半数を集める。
イオ・シル、イオ・セル、イオ・ソルと、ハト・ファル、ハト・フィル、ハト・フェルだった。

「じゃあ、横のコと手を繋いで。行くよ!」
 ウティカは目を閉じると、男たちを囲むように円陣を組んだ、両脇の少女の手を強く握る。

「どう、見えるでしょ? これが貴女たちの中に、眠っていた魔法の能力よ」

「……ホ、ホントだ」
「身体の中から、不思議な力が湧き上がって来る」
「白い……生命を感じる力だ」

 同様に目を閉じた、イオ・シル、イオ・セル、イオ・ソルが言った。
少女たちの両手から、白く暖かな光のオーラが地面へとこぼれ落ちる。

「スゴいよ、貴女たち。わたしの間接的な風の癒しよりも、強力な治癒力を持っているわ」
 思った以上の才能に、驚くウティカ。

「わたし達の手から出た、白いミルクのようなモヤが……」
「男どもの傷口を、塞いで行く」
「これが本当に、わたし達の能力なのか!?」

 ハト・ファル、ハト・フィル、ハト・フェルは、自分たちの回復魔法を信じ切れないでいた。

「イオ・シルたち、手を繋いで円陣など組んで……」
「なにをやっているのだ?」
「白いモヤみたいなのが出ているが、アレはなんなのだ?」

 ルスピナを護衛し共に行動していた、スラ・ビシャ、スラ・ビチャ、スラ・ビニャの3人が、疑問符を顔に浮かべる。

「アレは、回復魔法よ。みんな、回復魔法が使えたんだ」
 ウティカたちの円陣を見て、驚くルスピナ。

「え……イオ・シルたちは、魔法が使えたのか?」
「そんなの、初耳だぞ!」
「今まで、1度も使ったトコ見て無いし」

 ロウ・ミシャ、ロウ・ミチャ、ロウ・ミニャは、訝(いぶか)し気な眼差しを姉妹たちに向けた。

「ウティカが、みんなの中に眠る魔法の力を引き出したのよ」
 残りの6人の少女を、手招きで集めるルスピナ。

 スラ・ビシャ、スラ・ビチャ、スラ・ビニャと、ロウ・ミシャ、ロウ・ミチャ、ロウ・ミニャの6人が、他の男たちの周りに集って円陣を組んだ。

「も、もしかして……」
「わたし達も、魔法を使えたりするのか?」
「魔法なんて使ったコト無いぞ」

「タブン、出来ると思う。貴女たちの中に、大地と炎……それに月の力を感じるもの」
 ルスピナも、ウティカ同様に目を閉じ、6人の少女たちに眠る力を引き出す。

「うわッ、これって!」
「手から、白い光が出てるよ」
「光に当たった、男どもの傷が回復してるぞ」

「みんな、スゴイよ。これなら、かなりの人が助かるかも知れないわ」

 ウティカとルスピナによって、回復魔法の能力を得た12人の少女たちの活躍もあって、より多くの負傷者が命を取り留めた。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第11章・第24話

掘り返される墓

「伊鵞 武瑠(いが たける)氏の首吊り事件の、調査報告を受けた当日の夕方。伊鵞 絮瑠(わたる)氏の亡くなった山から、伊鵞 朱雀(いが すざく)さんが館へと帰って来た」

 墓暴きまでの4日間の、人の出入りの続きを説明するマドル。

「彼女は帰って来るなり、宛(あて)がわれた自分の部屋に引き籠ってしまってね。結局は墓暴き当日になっても、姿を現わさなかったんだ」

「事件報告と同日ってコトは、4日間のウチの3日目だよね?」
「こうなると、朱雀さんも怪しく感じるぜ」
「でも幼馴染みの夫が、亡くなったんだよ。そりゃ、落ち込むって」

 ドームに集った観客たちも、男女や年齢などの違いによって、様々な反応を示していた。

「タケル氏の妻である 椿姫(つばき)夫人は、吾輩たちがタケル氏の死を知らせた翌日に、上海に飛んでいた。2人の娘たちは館に残ったままだったが、心ここに在らずと言った感じで、当然墓暴きにも立ち会わなかったよ」

「そりゃ父親が借金を残したまま、首を吊ったんじゃな」
「会社の資金繰りが酷かったタケルが、妻や娘の財産まで使い込んだのよね」
「相続権はもう無いんだから、娘たちが犯人の可能性はやっぱ低いと思う」

 マドル自身の感想と同じく、観客たちも、タケル氏の遺族が犯人である可能性は低いと判断していた。

「そして、いよいよ墓暴きの日が訪れる。指揮は警部が執り、寺側の責任者として嗅俱螺 藤美(かぐら ふじみ)さんが立ってくれた」

 墓場の舞台の背景が、焼け落ちた寺へと切り替わる。

「墓暴きの現場に立ち会ってくれたのは、他にハリカさんだけだった。伊鵞家と嗅俱螺家、別々の歴史を歩んで来たのだから、当然と言えば当然なのだがね」

 マドルの言った通り、伊鵞家と嗅俱螺家の接点は、伊鵞 重蔵の長男である架瑠(かける)氏と、嗅俱螺 蛇彌架(かぐら タミカ)さんが婚約関係にあったコトくらいだった。

 それもカケル氏は戦争に駆り出されて亡くなり、タミカさんはお腹にカケル氏との子を身籠ったまま、他の男と結婚してしまっている。
その事実は、長年に渡って隠ぺいされ続けた。

「では、早速始めさせていただきますよ」
 警部の声が、言った。

「そうだね、警部。早くしないと、ひと雨来そうだ」
 舞台で、ドームの天井を見上げるマドル。
そこには、本当に薄っすらと黒い雲がかかっていた。

「では、お前たち。墓を暴く前に、地面の柔らかそうな場所を探すんだ」
「金属の棒が、ある程度の範囲で沈み込む場所を見つけて下さい」
 マドルが、警部の指示を捕捉する。

「オイ、マドル。本当に2人の少女の首が、出て来るんだろうな。もし何も出なかったら……」
「警部のクビが、飛ぶだろうね。マスターデュラハンの、面目躍如(やくじょ)ってヤツさ」
「人事だと思って、お前!」

「吾輩だって、探偵さ。なんの成果も得られなかったら、吾輩が雇ってあげるよ」
 マドルは、墓場のセットを歩き始める。

「墓暴きは、金属の長い棒を持った、10名ホドの警察官を動員して行なわれた。15分くらい経った頃、1人の警察官が声を上げたのだよ」

「警部、見つけました。この墓の前辺りが、広く地面が緩(ゆる)んでます」

「本当か。早速その場所を、掘り返すんだ!」
 現場責任者の警部が、声を荒げる。

「まあ、待ちたまえよ。ここは、墓地だと言うコトを忘れて無いかい?」
「そんなコトは、お前に言われずとも……ああッ!」

「誰かが死に、死者が埋められるのが墓地さ。まずはこの墓に、近く誰か亡くなって埋められて無いか、確認する必要があるね」

「はい、マドルさんの仰る通りです。ココは近くの檀家さんのお墓で、先月お婆さんが亡くなって弔われました。その時は、わたしも手伝いとして立ち会っております」
 舞台に立つ、ハリカが言った。

「ヤレヤレ、こりゃ先が思いやられるな……」
 ため息を付く、警部の声。

「気長に、行くしか無いね」
 肩を竦(すく)める、マドル。

「あ、有りました、警部。この墓の前が、掘り返されたようにぬかるんでおります!」
「キサマ、早とちりをするな!」

「イヤ、警部。あの墓は、墓石が黒ずみ苔(こけ)まで生えている。文字すら、かすれて読めない」
「そ、それじゃあ……」

「はい。あのお墓は、わたしが生まれた頃には無縁仏でした。掘り返すコトなど……」
 ハリカが、言った。

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