新たなる刺客
「かつてのミノ・アステ将軍の配下の活躍もあり、命を取り留められる者はほぼ救い終わりました。パルシィ・パエトリア王妃も、お体をお安め下さい」
ミノ・テリオス将軍が、王妃に傅(かしず)きながら言った。
「いえ。わたくしなら、大丈夫です。この闘技場のみならず、周囲に被害が出ているかも知れません。被害状況の確認を、優先させて下さい」
「心得ました。ミノ・テロぺ将軍、任せて構わないか?」
雷光の3将が筆頭は、同僚に確認を取る。
「もちろん、構いませんよ。王妃の護衛は、お願い致します」
柔和な性格へと戻ったミノ・テロぺ将軍は、数名の部下と共に闘技場を出て行った。
「さて、新たなるミノ・アステ将軍。貴公の就任式のハズが、飛んだ災難となってしまったな」
横たわった舞人の前に立つ、漆黒の髪の女将軍に視線を向ける、ミノ・テリオス将軍。
「戦いは、まだ終わってはおらんじゃろう。地下闘技場では、サタナトスとミノ・ダウルス大将軍との戦いの決着が、どうなったかも解らんのじゃからな」
ミノ・アステ将軍を襲名した、ルーシェリアが言った。
「残念だが、わたしの鏡であっても、無限迷宮(ラビリンス)へと立ち入るコトは困難なのだ。地下闘技場に設置してあった鏡すら割れた今、様子を伺い知る術は無い」
「ラビ・リンス帝国の、名の由来ともなった迷宮なのです。ココは、あの子を信じて待ちましょう」
パルシィ・パエトリア王妃は、柔和に微笑む。
すると兵士が3人ほど、壊れた城門をくぐり抜けてやって来た。
「ミノ・テリオス将軍に、申し上げます!」
「ただ今、近隣の諸国より、貢物を持った使者がやって参りました」
「いかが、致しましょう?」
軍事国家らしく、大声で必要最低限なコトだけ告げる兵士たち。
決定権は、彼らには存在しなかった。
「そう言えば今日は、近隣の諸国から貢物を持った使者が、やって来る日でもあったのじゃ。ラビ・リンス帝国の武威を示すハズのイベントが、このような闘技場を見せて良いモノかえ?」
就任したてのミノ・アステ将軍が、皮肉を言う。
「フゥ、ヤレヤレだな……」
流石に、ため息を吐くミノ・テリオス将軍。
彼の視界には、見るも無残な闘技場が映っていた。
「彼らとて、大魔王ダグ・ア・ウォンが島を襲った時には、すでに到着していたのでしょう。もはや、隠しようがありません」
「致し方ありません。通すがよい」
ミノ・テリオス将軍が、命令を降す。
兵士たちは駆けて行き、しばらくして使者の集団を先導しながら戻って来た。
周辺諸国から集められた使者たちは、それぞれの文化圏の様々な衣装を身に着けている。
ロバや牛に似た4脚歩行の生物に引かせた馬車には、大量の金貨や宝石が載っていた。
頭から真っ白な外套(がいとう)を被った、奴隷であろう少年や少女たちも、馬車の左右に整然と並ばされている。
「我がラビ・リンス帝国が課した貢物、その量や品質が正しいかどうかを検(あらた)める。しばし、休むが良い」
軍事国家の将軍らしく、高圧的な態度を取るミノ・テリオス将軍。
「フフ……オレたちに、休みなんて必要ないぜ」
「ええ。だってこれから、戦いが始まるんですもの」
奴隷のハズの、少年や少女たちが言った。
「ア、アナタ達は、一体!?」
驚きを隠せない、パルシィ・パエトリア王妃。
彼女の目の前で、先導していた兵士3人が斬り殺された。
「お前たち、これはなんのマネだ!」
王妃の前に立つ、ミノ・テリオス将軍。
「へへ、さあね。答えてやる義理は、無いさ」
「それよりアンタ、ミノ・テリオス将軍だろ?」
「後ろに隠れてるのは、パルシィ・パエトリア王妃なワケだ」
外套を脱ぎ捨てる、少年や少女たち。
その肌の色や髪の色は様々で、目の色も異なっていたが、手には武器や盾を装備していた。
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