ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第10章・EP001

あるメタボキーパーの日常

「あ~あ、やっちまったなァ!」
 湿った布団に寝転がった、ブタかアザラシのような男が言った。

「やっぱ、ここいらが潮時かもな。アイツらの頑張りを、オレ1人で無駄にしちまったんだからよ」
 布団の横にはテーブルがあって、銀色の缶や白地にレモンやオレンジが描かれた缶が、大量に散らばって置かれている。

 男が真上を見上げると、薄い板の天井に雨漏りの跡が滲(にじ)んでいた。

「サッカーって競技で、14失点……地域リーグの2部とは言え、過去ワースト記録か。マンガですら、レアリティ無さ過ぎて見ない数字だぜ」

 男は上半身を起こそうとするも、肥満体のため起き上がれない。
仕方なくうつ伏せになり、4つん這いになってから身体を起こした。

「セルディオス監督も、怒ってんだろうな。何も言われなかったのが、逆にキツイぜ」
 男はボリボリと腹を掻いたあと、台所へと向かう。
台所シンクの洗い桶からコップを取って軽く洗い、水を注いで飲んだ。

「高校時代のオレが聞いたら、どう反応すんだろうな……」
 男は、今どき見ない若草色の冷蔵庫の上を見る。
そこには古びた写真立てがあって、大勢のサッカー選手が笑顔で写っていた。

「思えばこの頃が、オレのサッカー人生……イヤ、人生そのものの絶頂期だったのかもな」
 選手の中で、1人だけ違ったユニホームを着た青年。
キーパーであるその選手は、スリムで顔も整っており、自信が顔から溢れていた。

「ずいぶんと、生意気そうな顔してんじゃ無ェか。いずれその鼻っ柱を、ヘシ折られるとも知らずによ」
 過去の自分を嘲(あざけ)りながら、台所を出る男。

「アイツら、みんなどうしてやがるのかな。プロになれたのは、オレと江坂だけだったが、プロとして成功したのは江坂1人で、アイツも今やチームを追われる身か……」

 男は何気なく、布団の敷いてある部屋の入り口にあった、薄汚れた鏡を覗き込む。

「ケッ。セルディオス監督みてェに、ブクブクした顔だな。これでも昔は、美形で女どもからキャーキャー言われてたのによ」
 脂ぎった自分の顔を、太い指でペタペタと触りまくった。

「ここまで変わると、詐偽だよな。アイツも、そりゃ愛想を尽かすってモンだぜ」
 男は、せんべいみたいに平たくなった布団に、腰を降ろした。

「何か、やって無ェかな?」
 テレビのリモコンに、手を伸ばす男。
その向こうに置いてあった、写真立てに目が行く。

 写真立てには、仲睦まじい3人の家族の写真が入っていた。

「やっぱ、このままじゃ終われ無ェよな」

 男は台所からゴミ袋を持って来ると、部屋に散乱していたアルミ缶を入れ始める。
4リッターサイズの袋は直ぐに満タンとなり、次の袋にも詰め始めた。

「一生懸命に頑張っている、紅華たちにも申し訳が立た無ェ!」
 男は台所に戻ると、ゴミ袋に集めたスチール缶を、1つ1つ丁寧に洗う。

 それから3Lサイズのジャージに着替え、タオルを首にかけ、両手にゴミ袋を抱えてアパートを出た。

「もう意思の弱かったオレとは、おさらばだ。オレは、変わるぜ」
 共同のゴミ置き場にゴミ袋を置くと、男はランニングを始める。

 タップンタップンと、揺れるお腹。
重量のかかる膝が、直ぐに悲鳴を上げた。

「ヤレヤレ、古傷が痛むぜ。やっぱ徐々に、馴らして行か無ェとな」
 男は5メートル走っては、50メートル歩くを繰り返す。

「ハアッ、ハアッ、ヒィ!?」
 それでも全身汗まみれになり、息も上がっていた。

「こ、こりゃ、シンドいな。ン……そろそろ昼か?」
 真上に達しようとしていた、太陽を見上げる男。

「今日は、スーパーで総菜が安かったな。買って帰るか」
 男はランニングを切りあげ、白い袋を抱えてアパートに帰宅する。

「フゥ、ヤレヤレだぜ。夏もまだだってのに、暑ィ~!」
 部屋に入るなりジャージやシャツを脱ぎ捨て、大きなトランクス1枚になる男。

 そのまま台所に行って、グラスに大量の氷を注ぎ、布団の敷いてある部屋へと戻って来る。

「……ま、明日からってコトで」
 男は白い袋から、レモンが描かれた白いアルミ缶を取り出すと、氷の入ったグラスに注いで、グビグビと飲み始めた。

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