白いミルクの回復魔法
「残念だケド、わたしの魔法じゃこの人は助けられないよ。ごめんなさい!」
わき腹から血をドクドクと流し横たわる男の前で、悲痛な顔をするウティカ。
大魔王ダグ・ア・ウォンらによって破壊され、蹂躙(じゅうりん)し尽くされた闘技場には、他にも多くの重傷者が横たわっていた。
「ウティカ姉さま、この人は比較的軽症だぞ」
「姉さまの風の癒し魔法で、助けられるんじゃないか?」
かつてはミノ・アステ将軍の近習として仕えていた、12人の少女の何人かが手を挙げる。
「わかったわ、イオ・セル、ハト・フィル。今行くよ」
2人の指し示した男の元へと、駆けて行くウティカ。
風の魔法で、男の傷口を治療し始めた。
「スゴいな、ウティカ姉さまは」
「傷が、見る見る塞がって行く」
治癒魔法を目の当たりにし、感心するイオ・セルとハト・フィル。
「高名なお師匠さまが、色々と教えてくれたからね。でも貴女たちにも、魔法の才能があるみたい」
男を治療をしながら、ウティカが言った。
「本当か、姉さま?」
「わたし達も、風の魔法が使えるのか?」
「貴女たちの中に眠る精霊は、風じゃない。大地と……そうね。月の力を感じるわ」
「大地と、月の力か」
「それでは、回復魔法は使えそうに無いな」
残念がる、イオ・セルとハト・フィル。
「ウティカ姉さま。こっちに来てくれ」
「この人たちも、助かりそうだぞ」
イオ・シルやハト・フェルらが、大勢の怪我人の前で手を振っていた。
「みんな、一旦あっちに集まって、円陣を組んで。みんなの中に眠る、魔法の能力を引き出すわ」
重症の男たちの周囲に、ウティカは12人の少女の半数を集める。
イオ・シル、イオ・セル、イオ・ソルと、ハト・ファル、ハト・フィル、ハト・フェルだった。
「じゃあ、横のコと手を繋いで。行くよ!」
ウティカは目を閉じると、男たちを囲むように円陣を組んだ、両脇の少女の手を強く握る。
「どう、見えるでしょ? これが貴女たちの中に、眠っていた魔法の能力よ」
「……ホ、ホントだ」
「身体の中から、不思議な力が湧き上がって来る」
「白い……生命を感じる力だ」
同様に目を閉じた、イオ・シル、イオ・セル、イオ・ソルが言った。
少女たちの両手から、白く暖かな光のオーラが地面へとこぼれ落ちる。
「スゴいよ、貴女たち。わたしの間接的な風の癒しよりも、強力な治癒力を持っているわ」
思った以上の才能に、驚くウティカ。
「わたし達の手から出た、白いミルクのようなモヤが……」
「男どもの傷口を、塞いで行く」
「これが本当に、わたし達の能力なのか!?」
ハト・ファル、ハト・フィル、ハト・フェルは、自分たちの回復魔法を信じ切れないでいた。
「イオ・シルたち、手を繋いで円陣など組んで……」
「なにをやっているのだ?」
「白いモヤみたいなのが出ているが、アレはなんなのだ?」
ルスピナを護衛し共に行動していた、スラ・ビシャ、スラ・ビチャ、スラ・ビニャの3人が、疑問符を顔に浮かべる。
「アレは、回復魔法よ。みんな、回復魔法が使えたんだ」
ウティカたちの円陣を見て、驚くルスピナ。
「え……イオ・シルたちは、魔法が使えたのか?」
「そんなの、初耳だぞ!」
「今まで、1度も使ったトコ見て無いし」
ロウ・ミシャ、ロウ・ミチャ、ロウ・ミニャは、訝(いぶか)し気な眼差しを姉妹たちに向けた。
「ウティカが、みんなの中に眠る魔法の力を引き出したのよ」
残りの6人の少女を、手招きで集めるルスピナ。
スラ・ビシャ、スラ・ビチャ、スラ・ビニャと、ロウ・ミシャ、ロウ・ミチャ、ロウ・ミニャの6人が、他の男たちの周りに集って円陣を組んだ。
「も、もしかして……」
「わたし達も、魔法を使えたりするのか?」
「魔法なんて使ったコト無いぞ」
「タブン、出来ると思う。貴女たちの中に、大地と炎……それに月の力を感じるもの」
ルスピナも、ウティカ同様に目を閉じ、6人の少女たちに眠る力を引き出す。
「うわッ、これって!」
「手から、白い光が出てるよ」
「光に当たった、男どもの傷が回復してるぞ」
「みんな、スゴイよ。これなら、かなりの人が助かるかも知れないわ」
ウティカとルスピナによって、回復魔法の能力を得た12人の少女たちの活躍もあって、より多くの負傷者が命を取り留めた。
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