2人の少女の首
「掘り返された、2人の少女の首。1つは首桶に入っていたため保存状態が良く、伊鵞 兎愛香(いが トアカ)さんであるコトが判明した。シャンデリアに潰された胴体の首とも、断面がほぼ一致したよ」
墓暴きで発見された2つの首について、観客席に向け語るマドル。
「2人の少女にとっては可哀そうだとは思うが、掘り出された2つの首は、マスターデュラハンに向けた重要な手がかりになるだろう。これでやっと、事件の捜査が進展しそうだぜ」
警部の声にも、少しだけ落ち着きがも出っていた。
「でもね、警部。もう1つの首は腐敗が進み過ぎて、10台の少女の頭部とは断定されたモノの、確実に渡邉 佐清禍(わたなべ サキカ)さんの頭部とは、判明しなかったのだろう?」
「だがサキカちゃんの頭で、ほぼ間違い無いだろうぜ。何せ2つの首は、同じ墓の下に埋まっていたんだからよ」
楽観論を呈(てい)する、警部。
「普通に考えれば、そうだろうね……」
マドルは、言った。
「吾輩の生きていた時代は、DNA鑑定などの高度な科学的鑑定方法は存在せず、鑑識のレベルも現代に比べれは稚拙なモノだった」
同時に、観客たちに時代的な前提条件を説明する。
「何か、気に喰わ無ェところでもあンのか?」
「まあね。2つの首の状態が……余りに違い過ぎると、思わなかった?」
「そりゃ、思ったがよ。2つの首は、別々の時に埋められたんじゃ無ェのか」
ゴホンと咳(せき)ばらいをし、自分の推理を説明し始める警部の声。
「例えば、最初の事件で殺された伊鵞 兎愛香(いが トアカ)さんの首は、首桶に収められるくらいの余裕があった。だが、第2の殺人である渡邉 佐清禍(わたなべ サキカ)ちゃんの時は、雨も降りまくって余裕がなく、仕方なく生首のまま埋めたって線だ」
「うん。その可能性は、けっこうあるよ。2つの首が、別々の日に埋められたのなら、その状態が極端に違っているのも説明が付く」
「そう言う割りにゃ、納得して無ェ顔だな。まだ他に、可能性があるってのか?」
「簡単な、話さ。犯人は、伊鵞 兎愛香(いが トアカ)さんの首を丁重に扱い、もう1つの首をぞんざいに扱った」
「どうして、2人の首の扱いに差を付ける必要が……」
言いかけて、言葉を詰まらせる警部の声。
「アン? なんで2人の首の扱いが、違ったんだ?」
「まだ解らないの。トアカさんのコトを、大切に思っている人ならそうなるでしょ!」
「トアカさんを大切に……って、まさか!?」
観客たちの推理も、核心を突き始めている。
「なる程な。お前が、言いたいコトが解ったぜ。オレとしては、疑いたくは無いが、私事と公事は分けにゃならんか。ヤレヤレだぜ……」
ギィっと、扉を引く音が鳴った。
「警部は、部屋を出て行った。警部も、そこまで頭が回らない人じゃない。恐らく向かったのは、伊鵞 昴瑠(いが すばる)さんの部屋だろう」
マドルは、舞台を歩き始める。
「マスターデュラハンが、スバルさんである可能性は高い。もし彼女が犯人であれば、彼女が愛した実の妹の娘であるトアカさんの首を、丁寧に扱ったのも説明が付く」
「そんなに単純な、モノかねェ?」
舞台のマドルの台詞に、舞台裏から反論する久慈樹社長。
「ですね。確かにトアカさんが犯人であれば、首を丁重に扱ったのは説明が出来ますが、そもそもトアカさんを殺す動機が見当たりません」
ボクも今回は、社長の意見に同調した。
「キミは、本当に探偵になれるぞ。今日のテストで結果が悪くとも、職に溢れる心配は無いな」
本気なのかどうなのか、嘯(うそぶ)く久慈樹社長。
「そうならないコトを、願いますよ」
ボクは、生徒たちがテストを受けているガラスの塔を見上げる。
塔にに刻まれたデジタル時計の数字は、マドルたちが舞台に立ってから2時間が経過していた。
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