ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第11章・第30話

マドルの思惑(おもわく)

「吾輩は、孤児院を訪れていた」
 神於繰 魔恕瘤(かみおくり マドル)は、言った。

「2人目の被害者である、渡邉 佐清禍(わたなべ サキカ)さんの暮らしていた孤児院だ」
 1人語りを始める、マドル。

 彼女たちの舞台の演者(ロール)は、マドル、トアカ、サキカ、ハリカの4人の少女たちだけであり、内2人はすでに殺され退場していた。

「サキカちゃんって、上海で自殺した伊鵞 武瑠(いが たける)の隠し子だよな?」
「第2の遺言状で存在が明かされて、重蔵氏の遺産を受け継ぐ権利を得たんでしょ」
「でもサキカちゃん、館の風呂場で殺されちまったんだよな。可哀そうに……」

 観客たちも、数多くいる登場人物の相関図を、互いに確認し合っている。
墓場セットの背景は、夕暮れ刻となっていた。

「マドルさん。こんな時刻まで、どちらに行ってらしたんですの?」
 舞台に立つハリカが、心配そうに声をかける。

「調査を終え、館に戻った吾輩を出迎えのは、宿屋に残して来たハズの嗅俱螺 墓鈴架(かぐら ハリカ)さんだった」
 状況説明をしながらため息を吐く、マドル。

「第2の殺人の被害者である、サキカさんの暮らしていた孤児院ですよ」
「まあ。わたくしも、お供したかったのに。どうして1人で、行ってしまわれたのです!?」
 残念そうな顔をする、ハリカ。

「貴女の好奇心にも、困ったモノだ。吾輩は、貴女の身を案じて宿屋に残して来たのですよ。この館では、2人の少女が無残な殺され方で亡くなってます。遺産の相続権をお持ちの貴女にも、危険が及ぶ可能性が高い」

「では、マドルさんが護って下さいませ」
「吾輩には、マスターデュラハン事件を解決しないと、首が飛ぶ人が居ましてね。貴女の護衛を、しているヒマは無いのです」

「わたくしも、事件解決のお手伝いをさせてはいただけませんか?」
「残念ですが、宿に戻って下さい」

「……解りました」
 表情を曇らせる、ハリカ。

「ハリカさん。貴女には十分、事件の解決にご協力いただきました。感謝しております」
「マドルさんに、そう言っていただけると光栄ですわ。どうか事件を解決し、2人の少女の無念を晴らしてあげて下さい」

 何も言わず、小さく頭を下げるマドル。
ハリカは、舞台を退出した。

「良かったのか、マドル。彼女は、わざわざ旅行並みの衣装まで持って、館に押し掛けて来たんだぞ」
 久しぶりに流れる、警部の声。

「彼女には、申しワケ無いと思っている。だが、彼女も容疑者から外せない現状、ああせざるを得なかったのだよ」
「ハリカさんまで、疑っているのか!?」

「現時点で、重蔵氏の遺産が転がり込むのは、彼女だからね」
「ならば、どうして最初は同行させたんだ?」

「彼女の、人となりを探るためさ。もしハリカさんがマスターデュラハンなら、何らかのボロを出す可能性があったからね。だが、彼女は真っすぐな女性だった」

「だからこの館には、置けないってコトか。ところで昨日今日と、何処ほっつき歩いてたんだ?」
「ま、色々とね」
「成果のあった、顔だな」

 警部の伯父と、警部補に扮した姪の会話。
年齢も性別も違うが、気心の知れた者同士、解かり合ってるのだろう。

「それより、重蔵氏の遺産についてなんだが……」
「ああ。竹崎弁護士の話じゃ、相当な額に昇るって話だな」

「金額の話じゃないさ。重蔵氏は巨額の遺産を、本当はどうしたかったのだろう……と、思ってね」

「さあてな。オレの給料じゃ、巨額の遺産なんて夢のまた夢だからよ。金持ちの考えなんざ、まったく解らん!」
 警部の声が、自信満々に豪語した。

「吾輩は、汗を洗い流して休むとするよ」
「オウ、風呂か。何なら、久しぶりに一緒に入……ジョ、冗談だよ!」

「解れば、イイんだよ。伯父さん」
 マドルが、ニコリとほほ笑む。
ギィッと、ドアの閉まる音がした。

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