ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第11章・第29話

無縁仏(むえんぼとけ)

 墓場の舞台のマドルとハリカが、歩き始めた。
竹崎弁護士の事務所から、2人で別の場所へと向っているのだろう。

「あの……マドルさん。次は、何処へ行かれるのですか?」
 ハリカが、遠慮がちに聞いた。

「貴女の、祖母に会うのですよ。少し、気になっているコトがありましてね」
「まあ、そうでしたの。それで、気になっているコトとは何でしょうか?」
「それは、追々。街の、宿屋に向かいましょう」

 墓場の舞台の背景が、宿屋のある街の風景へと切り替わる。

「なんだ、またお前さんか。今日は、あの役立たずな警部は、一緒じゃないのかい」
 ぶっきら棒な口調の、年老いた女性の声。
嗅俱螺 墓鈴架(かぐら ハリカ)の祖母である、嗅俱螺 蛇彌架(タミカ)のモノだった。

「お婆さま、体のお加減はよろしいのですか?」
「ああ、多少は落ち着いたよ。それで、この子まで連れて何の用だい?」

「実は先日、警察が掘り返した墓について伺いたいのです」
「掘り返したのは、そっちじゃ無いか。2人の娘の首が、出たんだろう?」

「はい。伊鵞(いが)の館で殺された、2人の少女の物と思われる頭部です。首桶に収められていた首は、伊鵞 兎愛香(いが トアカ)さんと判明しました」

「そりゃ、気の毒にねェ。あの館は、呪われているんだ。ハリカ、お前も気を付けるんだよ」
「は、はい。お婆さま」
 孫娘の身を案じる、祖母の声。

「墓から出土した首については、警察の鑑識が調べております。吾輩が聞きたいのは、埋められていた首では無く、墓についてなのですよ」

「墓は、無縁仏だと言ったじゃないか。その証拠に、骨壺すら埋まって無かっただろ?」
「残念ながら、あの日は大雨となってしまい、詳しい調査は出来ませんでした」
 マドルは、言った。

「お婆さま。どうして、骨壺が埋まって無いと言えるのですか?」
「そ、そりゃ、寺の管理を任されてるんだからね。知ってて、当然さ」
 慌てた様子の、老婆の声。

「吾輩もあの墓に、墓の主の骨壺は埋まっていないと思っていました」
「ど、どうして、そう思われたのです!?」

「亡くなった墓の主の遺骨が、日本に帰れなかったからでしょうね」
「遺骨が帰れなかったって、どう言う……あッ!」
 何かに気付いたハリカに、マドルは哀しい眼を向けた。

「……そうさ……あの墓はね。アタシの許嫁だった、伊鵞 架瑠(かける)のモンさ」

 観念したように言葉を紡(つむ)ぎ始める、嗅俱螺 タミカ。

「結婚の約束を交わしたあの人は、戦争に駆り出された挙げ句、異国の地で死んじまってね。だからあの墓の下には、誰も眠っていないハズだった……」

「それなのに、2人の少女の首が埋まっていのです」
「ああ、そうさ。まったく、マスターなんとかってのは、何を考えてんだか……ゴホッ、ゴホッ!」

「だ、大丈夫ですか、お婆さま!?」
 慌てて老婆の背中を摩る仕草をする、ハリカ。

 舞台は、暗転した。
よって、観客たちの推理タイムが始まる。

「無縁仏だって言われた墓が、まさか戦死した伊鵞の長男の墓だったとはな」
「タミカさんは、カケルさんのお墓を無縁仏と偽って、ひっそりお参りしてたのかもね」
「ハア、なんでそんなコトする必要があんだ?」

「だってタミカさんは、他の人と結婚したのよ」
「カケル氏との子だって、嗅俱螺家の子として育てられたんだから、当然だろ?」
「ああ、そうか。でも、どうしてマスターデュラハンは、カケル氏の墓に首を埋めたんだ?」

 最後の観客の質問に、答える者は居なかった。

「吾輩はその日、ハリカさんに館には帰らず宿に泊まる提案をする。祖母の身体を案じたハリカさんも承諾し、吾輩もその日は宿屋にて過ごした」

 墓場セットの背景が、白み始める。
早朝の、演出だろう。

「吾輩は、日の登る前に宿を出た。ハリカさんを、残して……」
 マドルは、1人で舞台を歩き始めた。

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