ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第10章・EP005

あるサッカー界の新星の迷い1

「倉崎。海馬にチームオーナーを任せるって言った、もう1つの理由は解ってる?」

 名古屋の有名な喫茶店の、駐車場から出発する軽自動車の後部座席で、メタボ監督が言った。

「オレの……海外移籍ですか」
 サッカー界の新星は、答えた。

「解ってるなら、イイね。倉崎の才能なら、出来る限り早く海外に挑戦しなきゃダメよ」

 信号が、赤に変わる。
軽自動車は、横断歩道の手前の停止線で止まった。

「ですがデッドエンド・ボーイズは、オレの我がままで立ち上げたチームです。まだリーグ戦が始まったばかりの段階で抜けてしまっては、アイツらに申しワケが……」

「サッカーチームのオーナーなんて、金だけ出してりゃイイのよ。チームの戦術や選手起用にまで、口出しされちゃ溜まったモンじゃないね」

「口出ししているつもりは、無いのですが?」
「だったらそんな仕事、海外に居たって出来るじゃない?」
 膨らんだ腹に、シートベルトをめり込ませながら語る、セルディオス監督。

「オーナーなんてのは、たまに顔出すくらいが丁度イイね。それより倉崎は、日本のサッカー界期待の新星でもあるんだから、もっと将来をちゃんと考えなきゃダメよ」

「はい……」
 年長者の諫言(かんげん)に頷(うなず)く、期待の新星。

 名古屋の車線の多い道路で、軽自動車の横を、たくさんの車が我先にと追い越して行く。
喫茶店で人の金で食べまくったメタボ監督は、やがて大きなイビキをかいて寝てしまった。

「あの、海馬コーチ」
「どうした、倉崎さん?」
「この辺りで、降ろしてもらえませんか?」

「ア? 駅までもう少しだぜ。そこまで、送って行くよ」
「いえ。実は、急用を思い出しまして」

「急用って……」
 軽自動車の運転席に、窮屈そうに座っている男は、チラリとバックミラーを見る。
そこには、真剣な眼差しの倉崎 世叛が映っていた。

「わかったよ。この辺で、イイんだな」
「はい。今日は、有難うございます」
 頭を下げる、デッドエンド・ボーイズの若きオーナー。

「オーナー代理の件だケドよ。少しだけ、考えさせてくれ。監督の手前OKしちまったが、やっぱ簡単には決めらんねェや」

「解りました。デッドエンド・ボーイズとしても、代理のキーパーも見つかってませんから」
「オレが言うのも何だが、早急に見つけた方がイイぜ。正直、オレがレッドでも貰って退場したら、控えのキーパーすら居ないんじゃよ」

「……はい」
「ンじゃ、またな。倉崎さん」
 軽自動車は、サッカー界の新星を置き去りにして、車の群れの中へと消えて行った。

「もう、地域リーグの戦いは、始まってしまっている。日高グループの3チームが参加した今、今年の昇格を狙うにはもっと戦力が必要だ」

 サッカー界の新星は、スマホを取り出し通話を終えると、近くの地下鉄の出入り口に駆け込む。
数駅だけ乗って、慌てて改札を通って地上へと出た。

「スマンな、一馬。急に、呼び出しちまって」
 公園のベンチの前で立っている少年に、駆け寄るサッカー界の新星。

「……あの……今日は1体?」
 か細い声で、少年が口を開いた。

「実はな、一馬。お前に、託して置きたいモノがあるんだ」
「ボ、ボクに……?」

「ああ。お前ももう、懐かしく感じるかも知れない。オレの弟の、ノートだ」
 サッカー界の新星は、1冊のノートを少年に差し出す。

「こ、これって!?」
「ああ。死んだ弟、ヤコブのノートさ。これをお前に、託したいと思ってる」

 ノートには、大勢のサッカー少年のプロフィールが、事細かく書かれていた。
少年はかつて、それを手がかりにデッドエンド・ボーイズのメンバーを集めた過去を持つ。

「実はな、一馬。オレの元には、海外クラブからオファーが届いている。労働ビザやら何やらあって現実的じゃない話も多いが、中には興味を惹かれるオファーもあってな」
 サッカー界の新星と少年は、公園のベンチに座った。

 無邪気に遊びまわる子供たちの姿はすでに無く、街路灯が明るい光を放ち始めていた。

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