戦争の刻(とき)
「アイツの剣も……重力を操るのか!?」
舞人は、ジェネティキャリパーに身体を強化し、叩き付けられた壁から抜け出す。
「少し違うな。拙者の剣は、重力の束縛から物質を解き放つのだ。例えば、こんな風になッ!」
レオ・ミーダスが、剣を天へと掲げた。
すると闘技場の中にあった死んだ者の身体が浮き、凄まじい勢いで舞人を目掛けて飛んで来る。
「……なッ!?」
身体能力で、死体をかわす舞人。
死体は闘技場の壁に激突し、真っ赤な血しぶきを上げて爆散した。
「大した反応だ……キサマの剣の能力か。だが、死体はまだまだあるぞ」
レオ・ミーダスの剣によって、闘技場に散乱していた死体が宙へと浮かび上がる。
重力から解放された死体は、1斉に舞人に襲い掛かった。
「クッ! 死んだ人の身体を、何だと思って……」
3体の死体を、何とかかわす舞人。
けれども背中から、別の死体が激突した。
「ガハッ!?」
死体もろとも、再び闘技場の壁に叩き付けられる舞人。
そこに無数の死体が、凄まじい勢いで次々に衝突した。
「戦争を止めるなどと言っていた割りには、口ほどにも無い。大暗刻剣(マハー・カーラ)の前には、手も足も出ないとはな」
レオ・ミーダスは壁に背中を向け、他の仲間たちの戦闘に加わろうとする。
「ま……まだだ!」
「なに?」
後ろを振り返る、レオ・ミーダス。
「言っただろう。ボクは、この島に戦争を止めに来たって!」
血まみれの舞人が、立ち上がっていた。
「1応、理由を聞いて置いてやろう。ヤホーネスの人間であるキサマが、どうして他国の戦争を止めようとする?」
「それは、ボクが孤児だったからだ。赤ん坊のボクは、戦場に捨てられていた」
「ホウ……」
感情の無い相槌を打つ、レオ・ミーダス。
「戦争が起これば、大勢の人が死ぬ。そうなれば、ボクみたいな戦災孤児だって……」
「戦災孤児が大勢生まれる……それは当然のコト。拙者とて、キサマと同じ戦災孤児だ」
舞人の言葉を、遮るレオ・ミーダス。
丘を降った街の方から、激しい爆発音が聞えた。
闘技場に届くころには、味気ない乾いた音になっている。
「キサマにも、聞えるだろう。連合艦隊による、砲撃音がな」
「聞えるさ。1つの音が鳴るたびに、大勢の人間が命を落としているかも知れないんだぞ!」
「それがラビ・リンス帝国の人間なら、喜ばしいコトよ!」
レオ・ミーダスは、自身の身体を重力解放し、神速で舞人に斬りかかった。
「帝国によって侵略された拙者の故郷は、戦火に焼かれ大勢の仲間が亡くなった。拙者は帝国の尖兵として子供の頃から戦場に駆り出され、死線をくぐり抜けて来た。他のヤツらとて、似たような境遇よ」
「だからって、戦争はなにも生まない!」
「いいや。戦争に勝利すれば、新たな領土と兵や労働力が得られる。戦争によって技術は進歩し、新たな産業すら生まれるのだ。ラビ・リンス帝国とて、利が無ければ戦争などはしないだろう?」
「それって、ラビ・リンス帝国のやり方を、認めてるってコトじゃないか!」
「別に、ラビ・リンス帝国だけでは無い。人類の、多くの国々がやって来たコトだ」
ジェネティキャリパーと大暗刻剣が斬り結び、激しい火花が飛ぶ。
「だからって、そんな歴史に従う必要は無いだろ。人間同士の国々で同盟を結び、互いが豊かになる道だってあるんだ」
「残念だが、ラビ・リンス帝国と共に歩む未来はない」
レオ・ミーダスは、舞人のガラクタ剣を跳ね除けた。
「キサマとて剣を抜き、武を以って敵を制する道を選んだのであろう。世界は、キレイ事だけで成立しては居ない」
「解ってるさ。ボクだって、キレイ事だけじゃない世界を、たくさん見て来た」
両手でジェネティキャリパーを構える、舞人。
「だから、ボクは戦争を止める!」
ガラクタ剣から、白い光が発せられていた。
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