レオ・ミーダス
「な、なんだよ……いったい、何が起きているんだ!?」
目を覚ました因幡 舞人が、最初に見た光景は闘技場で争う人々の姿だった。
「どうやら周辺の国々が、ラビ・リンス帝国に対して叛旗(はんき)を翻(ひるがえ)したようじゃな」
舞人に膝を提供していた、ルーシェリアが現状を説明する。
「そ、そんな……戦争が、始まってしまっているのか!」
「予期せぬカタチじゃがな。事前に、計画されていたコトらしいの」
闘技場に奴隷として連れて来られた7人の少年と7人の少女が、それぞれの武器を手に闘技場に残った数少ない兵たちと戦っている。
その中の1人の少年が、舞人やルーシェリアの前に立ちはだかった。
「キサマの身に纏(まと)っている鎧……雷光の3将の物だな。ミノ・アステ将軍と見受けるが、拙者の得た情報とは少々異なるな」
少年は、コーヒー色の身体に黒い髪を頭の後ろで結わえ、鷹のような鋭い眼光をしている。
銀色の縁取りのある緑色のコートの下に、金色の鎧を装備していた。
「前任者は、故あって亡くなっての。ついさっき、妾が跡を継いだのじゃ」
「左様であったか……拙者は、レオ・ミーダス」
少年は、背中に挿した細身の剣に手を掛ける。
「スパ・ド・ルーリアが、我が故郷よ。襲名を終えたばかりとは言え、ミノ・アステの名を継いだのだ。容赦は、出来ぬ!」
レオ・ミーダスは、剣を抜くと1瞬でルーシェリアとの間合いを詰めた。
「……なッ!?」
重力剣(イ・アンナ)で、いなせると踏んでいたルーシェリアは、剣に手を掛けるのが遅れる。
「させない!」
けれども舞人が、ルーシェリアの前に立って、レオ・ミーダスの攻撃を防いでいた。
「ホウ。キサマも、その者の仲間か。ならば、容赦はせぬ!」
レオ・ミーダスは、再び神速で間合いを詰め、剣を振り抜く。
「イ・アンナ!」
けれどもその動きは、ルーシェリアの重力剣によって封じられた。
「クッ!? 身体が……重い!」
膝を付く、レオ・ミーダス。
「残念じゃったな。キサマの相手は、ご主人サマ1人では無いのじゃ」
重力剣を少年に向ける、漆黒の髪の少女。
「待って、ルーシェリア。この人と、話がしたいんだ」
「言って置くが、この者はまだ奥の手を隠しておるぞ」
「うん。判ってる」
「ならば、好きにするが良かろう」
ルーシェリアは、剣を下げ他の者との戦闘へと向かった。
「情けをかけたつもりか……蒼き髪の少年?」
レオ・ミーダスの鋭い眼光が、舞人を捉える。
「そうじゃない。ボクはこのクレ・ア島に、戦争を止めるためにやって来たんだ」
「戦争を、止めるためだと?」
訝(いぶか)し気な顔をする、レオ・ミーダス。
「ボクは、ヤホーネスの生まれだ。ボクの国は、サタナトスと言う1人の少年によって、大きな被害を受けた。海底都市であるカル・タギアも、同じような状況なんだ」
「ヤホーネスでは王都が壊滅的な被害を受け、年老いた王が死に新たに若き女王が立ったと聞く。カルタギアでも海皇が魔物と化し、若き王が跡を継いだとの情報だったが……それが、たった1人の少年の仕業だと言うのか?」
「そうだ。ラビ・リンス帝国ですら、サタナトスの脅威を受けている最中なんだ!」
「なんだと!?」
「今、サタナトスは、ミノ・リス王の元へと向かっている。このままじゃ、王の身が……」
「フハハハ、なるホドな。いくら計画していた反乱とは言え、コトが上手く運び過ぎていると思っておったわ。まさか拙者らの他にも、ミノ・リス王を暗殺しようと考える者が居ようとはな!」
重力の枷(かせ)を外されたレオ・ミーダスは、再び神速で間合いを詰める。
「その攻撃は、読めて……ッ!?」
剣撃を受け止めようとした舞人の身体が、フッ飛ばされて闘技場の壁に叩き付けられえた。
「拙者が刀、大暗刻剣(マハー・カーラ)は、全てを重力から解き放つ」
レオ・ミーダスの剣は、黒く輝いていた。
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