ペイト・リオット
大魔王の去った闘技場に現れた、周辺諸国からの使者たち。
大量の貢物を携(たずさ)え、7人の少年と7人の少女の奴隷を伴(ともな)っている。
けれども使者たちは、反抗の意思を示した。
「フッ……お前たち使者風情が、ラビ・リンス帝国に対して反旗を翻(ひるがえ)すつもりか?」
ミノ・テリオス将軍が、使者たちに鏡の剣を向ける。
「へッ、そうよ。オレの名は、ペイト・リオット。オレの国は、お前たちラビ・リンス帝国に蹂躙され、国土は荒廃し大勢の人間が死んだ。積年の恨み、晴らさせて貰うぜ!」
奴隷として連れて来られたハズの、7人の少年の1人が剣を抜いた。
彼は赤毛の短髪で、筋骨隆々の鍛えられた身体に、皮の鎧を装備している。
黒鉄(くろがね)の武骨な剣を持ち、左腕に鉄のバックラーを装備していた。
「悪いが、情報が足りぬな。我がラビ・リンス帝国が支配した国は、大方そんな有り様なのだ」
ミノ・テリオス将軍は、全く動じない。
「澄ました顔しやがって。その威張り腐った態度が、気に入らないんだよ!」
使者の隊を率いていた大柄な男が、突然ミノ・テリオス将軍に襲い掛かった。
「キサマも、歯向かうか。どうやら、最初から計画されていた様だな」
尚もクールな、ミノ・テリオス将軍。
「なッ!?」
襲い掛かった男は既に、宙に浮かぶ鏡の中に閉じ込められていた。
「シィニ・スさん!?」
ペイト・リオットが、叫んだ。
「シィニ・スだと? この顔、覚えがある。旅人を襲っては、怪力で2つの木をネジ曲げ、旅人の両足に結び付け股を裂いて殺す、殺人鬼の名だ」
鏡の中の男の顔を確認する、ミノ・テリオス将軍。
「お、親父が鏡の中にッ!?」
「キ、キサマ、親父を鏡から出しやがれ!」
「さもないと、生きて帰れねェかんな!」
同じく奴隷の7人の少女たちの3人が、乱暴な言葉を吐き捨てる。
少女たちは、黒髪の長髪、オレンジ色の短髪、モスグリーンのお下げで、瞳の色もそれぞれ違っていた。
けれども、全員が右手に曲刀を持ち、左手に丸い盾を装備している。
「お前たち、この者の身内か?」
「そ、そうだ!」
「親父は、身寄りの無いアタイらを育ててくれたんだ」
「いいから、親父を出しやがれ!」
「大方、襲った旅人の伴侶や子女を襲い、生まれた娘たちであろう」
ミノ・テリオス将軍が問い質すと、男はニヤリと笑った。
「お前たちラビ・リンス帝国が搾取(さくしゅ)したお陰で、盗賊に身を窶(やつ)す他無かったのよ。お前らがオレの行為を非難するのは、お門違いってモンだぜ!」
「盗人猛々しいとは、良く言ったモノよ。地獄にて、自らの罪を悔い改めるがイイ……」
雷光の3将が筆頭は、鏡の剣ジェイ・ナーズで鏡を1閃する。
「ガアアアァァァーーーーッ!?」
鏡は粉々に砕け、地面に散らばった。
粉砕された鏡の欠片それぞれから、男の肉体が肉片となって現れる。
「イヤアァア!」
「オ、親父が!」
「……そ、そんな」
シィニ・スの娘と称する3人の少女たちは、混乱し涙を流した。
「グリィ・ネ、ズリィ・ネ、ブリィ・ネ。悲しむのは、後にしろ。元より、命を捨てるのは覚悟の上。オレたちには、目的があるコトを忘れるな!」
ペイト・リオットが、少女たちを一喝する。
「ほう。お前たちの、目的とはなんだ?」
ミノ・テリオス将軍が、整った顔をペイト・リオットへと向けた。
「知れたコト。ミノ・リス王を討ち、我ら抑圧された国々を開放する。その為であれば、この命など惜しくは無い!」
赤毛の少年は、剣を抜き将軍に向け斬りかかる。
「同じ結果となろうコトが、解らんのか?」
ミノ・テリオス将軍は、再び鏡の剣を振るった。
「お前の剣の弱点は、見抜いている!」
ペイト・リオットの武骨な剣が、眩(まばゆ)い光を放つ。
「この少年、光の魔法を操るのか!?」
「光の中じゃ鏡は、オレの姿を映せねェからな」
目を覆う将軍に、ペイト・リオットは追撃を仕掛けた。
「まだまだ行くぜ。フェーズ・ド・ア・レイ!」
黒鉄の剣の左右が展開し、中から長細い物体が射出される。
「光の弾だと!?」
発射された光の自動追尾弾は、回避を試みるミノ・テリオス将軍を、どこまでも追い駆けた。
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