ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第09章・01話

タイタン

 ボクが、太陽系の最果てで救助されてから、半年の月日が流れていた。

 4か月前、準惑星エリスへの侵攻作戦は中止となり、バルザック・アイン大佐は宇宙ドッグコキュートスを、エリスの軌道から遠ざける決断をする。

「どうしてです。ここまで来て、怖気づいたのですか!」
 大佐の副官であるポイナさんが、激しく抗議した。

「アレから幾多の交戦があったが、時の魔女の戦力は未だ未知数だ。底が見えない。まるで無限に戦力が、沸いて出て来る感じすらある」
 冥界降りの英雄は、毅然と反論する。

「で、ですが……」
「ポエナ副官。このままエリスに突入したところで、我々が全滅するだけなのは目に見えてます」
「ただの犬死になんざ、まっぴらゴメンだぜ」

 メルクリウスさんとプリズナーも、正論を言った。

「みなさんまで、時の魔女を討つのを諦めたのですか!」
「無論、このまま引き下がるつもりは無い。たがこの2ヵ月で、我々の戦力も疲弊してしまった。コキュートスは、エリスに対し1定の距離を確保しつつ、わたしはプロセルピナで土星に向かう」

「土星ですか? もしや……」
「メルクリウス(宇宙通商交易機構の代表)。キミと同じ、ディー・コンセンテス(12神)の1人に会いに行くのだよ」

 4ヵ月前、ボクたちはエリスの公転軌道を離れ、宇宙戦艦プロセルピナで土星圏へと向かった。
1ヶ月近くの宇宙旅行の末、鏡の様な装甲に星々を映す宇宙戦艦は、土星の衛星であるタイタンのドッグに入港する。

「どうしてボクは、入れないんだ!」
 美宇宙が、検査官に向かって暴れている。

「お前の身体ン中に、発信機とか入って無ェか、チェックするんだとよ。オレも付き合ってやるから、さっさと来い」
「付き合うって、キミまでボクの身体を覗くつもりじゃない!?」

「ああ。じっくり拝ませてもらうから、安心しな」
「ヤダ! 絶対、行くモンか!」
 プリズナーから、逃げ回る美宇宙。

 ボクたちは、2人を置いて宇宙港に降り立った。

「ここが、タイタン。太陽系で、2番目の大きさを誇る衛星ですか……」
 タイタンは、衛星としては木星の衛星であるガニメデに次いで2番目に大きい。
惑星である水星や、準惑星の冥王星よりも大きかった。

「そうだ。火星のテラ・ホーミングを大方終えた人類は、このタイタンを第2の植民星(コロニー)に選んだのだよ」
 バルザック・アイン大佐に続き、ドッグの外へと出るボクたち。

「タイタンは元々、火星よりも高密度の大気を持っているんですよね?」
「むしろ、地球よりも大気圧が高いくらいだ。とは言え、メタンを主成分とする大気だがね」

 ボクの目に、タイタンの光景が飛び込んで来た。
火星のように、木々に覆われた自然豊かな大地は、まだ存在しない。
空は鉄骨に覆われ、大きく開いた窓からは主星である土星や、星々の瞬(またた)く宇宙が見えた。

「テラ・ホーミングは、初期段階を終え中盤に差し掛かったところでね。大気の組成は、かなり地球に近づけられた。メタンを燃料として発熱や発電を行い、気温も安定して来ている」

 長い黒髪の男が、説明をしながらボクたちの背後から近づいて来る。
浅黒い肌をした男は、漆黒のスーツを着ていて背が高かった。

「あ、貴方は、サターンさん!?」
 思わず、叫んでしまうボク。

「久しぶりですね、群雲 宇宙斗。火星の、アテーナー・パルテノス・タワーにて、会って以来ですか」
 サターンさんは、言った。

「はい。サターンさんは、このタイタンで指揮を取っておられるのですか?」

「ご存じでしょうが、土星はガス惑星ですから、大地なんてモノは存在しません。実質的な土星圏の中心は、このタイタンなのですよ」
 柔和な笑みを浮かべる、サターンさん。

 タイタンを覆う外壁には、多くのアーキテクターが貼り付いて、建設作業を続けている。
種類も多彩で、人間型もあれば車型、ムカデのようなタイプもあった。

「ところで、マーズの動向はどうなっている?」
 バルザック・アイン大佐が、問いかけた。

「状況は、悪化する1方ですよ」
 ため息を吐く、サターンさん。

「マーズは、火星に独裁政権を築き上げました。時の魔女によって破壊されたアクロポリスの街も再建が進み、1定の民意を得ています。宇宙斗艦長の艦隊との交戦で壊滅した火星艦隊も、規模を増して建造されていますね」

「あの男がそこまで出来るとは、むしろ驚きだな。決断力はあっても、短絡的な考えの男と思っていたが……」

「わたしも、同感です。ですが彼の2人の息子は、共に優秀でしてね。政治や外交は、2人が行っていると言って良いでしょう」

「ロムルスと、レムス……ですか」
 ボクは、知らず知らずに呟いていた。

 前へ   目次   次へ