ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第08章・72話

コードネーム・ネメシス

 太陽系外縁部の冥王星軌道付近に、突如として観測された謎の重力源は、超小型のブラックホールだと推察された。

「問題はアレが、いつから存在していたか……と言うコトになりますが」
 計算式の示したブラックホールの映ったモニターを見上げながら、ブリッジに集まったクルーに問いかけるボク。

 高密度の質量が生み出した重力源であるブラックホールは、マンガやアニメに出てくるブラックホールのように、視覚的に見えるモノでは無い。
一般相対戦理論や量子力学の数式を利用した計算が、その存在を確定させているのだ。

「質量が木星並みのブラックホールが、これまで観測されて来なかったなんて、不自然ですよね?」
 ボクは、どうして不自然であるかの答えは解っていたが、あえて聞いて見た。

「ああ。艦長の生まれた時代から1000年の時が流れ、人類の科学技術は飛躍的に進歩した。その最先端の観測技術を、我々は有している。それなのに、あのブラックホールは……」
 バルザック・アイン大佐も、あえて答えを譲る。

「ポッと出のブラックホールなんて、普通は考えられませんからね。やはりあのブラックホールは、時の魔女に関連しているのでしょうね」
 メルクリウスさんは、残念そうに言った。

「正確な軌道は、解りますか?」
「詳しい軌道計算はサンプルが少なすぎて不可能だが、このコキュートスや他の冥王星型天体の多くと同じように、太陽を公転しているようだ」

「バルザック艦長、待って下さい。もう少し、詳しい軌道が判明しそうです」
 紅色の軍服を着た、バルザック・アインの副官が進言する。

「ポイナ、それは本当か?」
「はい。小型ブラックホールは、準惑星エリスの周囲を公転しているようです」

「つまり、地球と月のように、ブラックホールがエリスの周りを周っているのか?」
「質量的に考えて、本来は逆のハズなのですが……」
 自身の発言が大いなる矛盾をはらんでいると気づき、自信を無くすポエナ副官。

「それが本当だとすれば、宇宙の摂理に反しているどころの騒ぎじゃないですよ」
 木星と同程度の質量を持つブラックホールと、木星の主要な衛星よりも小さなエリス。
本来であれば、ブラックホールの周りをエリスが周回するのが、宇宙の正しい法則だった。

「時の魔女とは、本当に宇宙の摂理さえ凌駕する存在なのか。だとすると、我々に勝ち目など……」
 弱音を吐露(とろ)する、冥界降りの英雄。

「諦めないで下さい、大佐。時の魔女は、姉を始め多くの同胞を死に追いやったのですよ」
 ポイナ副官は、血相を変え上官を叱咤(しった)する。

「まあまあ、落ち着てください。ポイナ副官。それにしても、あのブラックホールは一体、どこから現れたのでしょうか?」
 メルクリウスさんは、上手く話題をスリ替えた。

「例えばですが、次元の裂け目を通して、他の宇宙から時の魔女が召喚した……などとは、考えられないでしょうか?」

「流石に飛躍し過ぎ……と言いたいところですがね。相手はあの時の魔女です」
「まったく時の魔女は、宇宙の節理などお構い無しだな」
 宇宙通商交易機構の代表も、冥界降りの英雄も、無理やり自分を納得させる。

「あのブラックホールが、時の魔女によるモノだとして……」
「そうだな。コードネームを付けよう。ネメシスなどはどうだろう?」
 バルザック大佐が、突然言い出した。

「ネメシス……ギリシャ神話に登場する、義憤の女神ですか。不和と争いの女神であるエリスとは、確か姉妹でしたよね?」

「ボクの生まれた時代では、まだ未発見の太陽系第9惑星をネメシスと呼ぶコトもありました。ピッタリなコードネームだと、思いますよ」
 ネメシスと言うコードネームに、賛同するボク。

「そうですね。では、ネメシスとしましょう。ネメシスが時の魔女に拠るモノだとして、その目的は何だと思われますか?」

「目的か。正直、想像も付かんな」
 バルザック大佐は、集まったスタッフを見渡すが、彼らも首を横に振るばかりだった。

「火星のアクロポリスの惨劇を考えると、ネメシスを火星や地球を始めとした人類の街に、ワープさせる準備をしているのでは無いでしょうか?」

「考えたくも無いですが、考えられなくはありませんね」
 整った顔を歪める、優男。

「もしそうだとするなら、このまま放って置くワケにも行きませんよ」
「ああ。危険は伴うが、我々だけでも、対処する必要がある」

 宇宙ドッグコキュートスは距離を保って、エリスとネメシスの様子をつぶさに観測し始めた。

 前へ   目次   次へ