ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第10章・EP002

あるメタボ監督の決断1

 名古屋の有名な喫茶店で、赤いビロードのシートに1人の太った男が腰を降ろす。
男は日系のブラジル人で、若い頃は高度なテクニックで鳴らしたサッカー選手だった。

「クリームココアとカレーカツサンド、あとビーフシチューとあんかけスパをお願いね」
 慣れた感じで、オーダーを店員に伝える男。

「倉崎は、何にするね?」
「オレは、アイスコーヒーで」
 太った男の前のシートに座った、男が答えた。

「畏(かしこ)まりました。クリームココアにカレーカツサンド、ビーフシチューにあんかけスパ、アイスコーヒですね」
「あ! あと、エビフライを追加よ」

「エビフライ追加で。畏まりました」
 オーダーを繰り返した女性店員は、注文を書き込んだ伝票を片手に、2人の男が座る席を離れる。

「今日呼び出された理由は……何となく、解っているつもりです」
 倉崎と呼ばれた男が、言った。

「忙しいトコ、すまないね。昨日もアウェーで、試合だったのに。でも1得点1アシストの活躍は、見事だったよ」
「いえ。オレが怪我明けってコトもあって、監督が試合後半の半ばには下げてくれましたから」

 向かい合った2人の男が話していると、さっきの女性店員がトレーを片手に戻って来た。

「アイスコーヒーに、なります」
 コーヒーとストロー、金属の小さなクリームカップをテーブルに置く、女性店員。
そのまま踵(きびす)を返して、去って行った。

「怪我の具合も良さそうで、何よりよ。さっそく、本題に入るね。倉崎も解ってると思うけど、やはりソロソロ限界が来てると思うよ……」
 メタボな男は、真剣な顔を目の前の男に向ける。

「海馬コーチの……コトですね?」
「1つは、そうよ」
「1つ? ……と言うと、まだなにか問題でも?」

「その話は、後でするね。まずは、海馬 源太(かいば げんた)。もはやプロのレベルで、戦って行けるキーパーじゃないね」

「はい。厳しいと思いますが、オレも同じ意見です」
 チームオーナーであり、高校生もである男は言った。

「厳しい? 自業自得ね!」
 メタボな男が、テーブルを叩く。
コップに入った水が、僅かに零れた。

「高校時代の大会でベスト8に入ったくらいでのぼせて、プロになってからは節制もせずに遊び歩いて、1年でクビ。奥さんにまで逃げられて、まったく情けないったら無いよ。プロじゃ、自分を制御できない人間は、生きていけないね!」

「クリームココアにカレーカツサンド、ビーフシチューにあんかけスパ、エビフライになります」
 男の前に、高カロリーな料理が並べられる。

「ご注文は、以上でよろしいでしょうか?」
「ああ、アリガト」
 倉崎が答えると、女性店員は伝票を伏せて去って行った。

「もっと早くから、キーパー問題の対処を始めて置くべきでした」
「今から後悔しても、仕方ないね。まずはウチの予算の範囲内で、獲得出来そうな選手を早急にリストアップよ。遅れれば、昇格なんて夢のまた夢ね」

「はい。実は死んだ弟のヤコブのノートに、キーパーもリストアップされていたんです。また一馬に頑張って貰おうかと、思っていました」

「そのキーパーも、高校生ね?」
 カレーカツサンドを頬張りながら話を聞いていた、メタボな男が問いかける。

「一馬たちと同じ、高校1年です」
「高校生……正直に言うよ、倉崎」
 カレーカツサンドは、1瞬にして男の胃袋に収まっていた。

「確かにウチの予算規模だと、安い給料の高校生で選手を揃えるのは、仕方ないとも思うよ。でも海馬をクビにするのなら、全員が高校1年生になってしまう。いくら地域リーグの2部とは言え、遠征もあれば平日に試合もあるね」

「アイツらも、オレと同じ高校生の学生ですからね。授業に出て勉強もしなきゃ行けないから、体の回復も遅れてしまう。かなりの負担を強いているのは、解っているのですが……」

「別に倉崎を、責めているワケじゃ無いよ。そろそろチームの体勢を、本格的に整えて行かなきゃならない時期に来てるね」
 メタボ男は、あんかけスパをフォークで巻きながら提言する。

「です……よね」
 倉崎は、アイスコーヒーの氷を、ストローでかき回しながら呟いた。

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