ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第11章・第40話

交通事故の詳細

「オイ、マドル。館の娘夫婦の交通事故って……まさか!?」
「ああ。伊鵞 光瑠(いが ひかる)さん夫妻の、事故のコトだろうね」
 警部の問いかけに、答える少女探偵。

「なあ。その事故について、アンタ詳しいのか?」
「どうでしょうか。自分も当時、事故処理に携(たずさ)わっていますが、詳しいとまでは……」
 警部に恐縮する、中年の警官。

「お前さん、その館で殺人事件があったのは、知ってるか?」
「え、ええ。なんでも、マスター・デュラハンとやらが、犯人なんだとか」

「オレは捜査責任者で、マスター・デュラハンを、とっ捕まえなきゃならねェんだ。悪ィんだがよ。詳しく、聞かせてくれねェか?」
 警部の声と共に、墓場の舞台に雨音が静かに響いて来た。

「アレは、わたしが新人だった頃の話ですからね。詳細までは、記憶に無いのですが」
「だろうな。だが、覚えてるところだけで構わねェ。聞かせてくれ」

「……ンンっ! わ、わかりました」
 警官の咳(せき)払いと共に、今度は舞台の背景が夜に切り替わる。

「この辺りは、今でこそ家も建ち始めてますが、当時はただの野っ原でした。街灯すらまばらで、夜ともなれば運転も大変だったんです。それにあの日は、雨もパラついてましたし」

「雨が降っていたのですか。伊鵞 昴瑠(いが すばる)さんは、何も言って無かった」
 マドルは、言った。

「この周囲は、高台になってましてね。あっちで降って無くとも、時たまパラつくんですよ」
「そうでしたか。続けて下さい」

「早朝……夜が明ける少し前に、事故の報告を受け、上司と2人でパトカーに乗って、現場に駆けつけたんです。車は、警部殿の車同様、直線でスピードを出し、カーブを曲がり切れずそのまま、川に半分突っ込んでおりました」

「ま、まさか、あの先は川だったのかよ!?」
「吾輩たちも、危機一髪だったのだね」
 伯父と姪は、胸を撫で降ろす。

「ヒカルさん夫妻は、まだ息はあったのか?」
「残念ながら、現場で確認した時点で両名とも、ほぼ死亡が確定しておりました。それホド、酷い有り様だってんです」

「そうかい。姉のスバルさんの話じゃ、愛嬌のある可愛らしい女性だったみてェだが……」
 警部の声に、いつもの覇気がない。

「ところで、死亡が確認されたのは、夫妻の2人だけですか?」
「え、ええ。2名だけです」
「当たり前だろ。他に、誰が乗ってるって言うんだ?」

「当然、伊鵞 兎愛香(いが トアカ)さんだよ」
 マドルが、言った。

「トアカさんは、ついこの間殺されたんだぜ。十年以上前の事故で、死んでるハズ無いだろ」

「おかしいとは、思わないのかい。ヒカルさん夫妻は、新築の自宅に帰宅途中だったんだ。幼い実の娘を、連れて行かないのは不自然じゃないか?」

「言われてみりゃあ、そうだがよ。だが、現にトアカさんは、少し前まで生きていたんだ。何らかの理由で、屋敷に残ったんだろ」

「そう……かも知れない」
「そうじゃない可能性が、あるってのか?」
 首を傾(かし)げる警部の絵が、ボクの脳裏に思い浮かぶ。

「例えば、夫妻の車に同乗していた幼いトアカさんは、川に流されてしまった……」

「オイオイ。だったら第1の殺人で殺された、トアカさんは誰だってんだよ?」
「あくまで仮定の話だよ、警部」
 マドルは、言った。

「ずいぶんと、ぶっ飛んだ仮定だな、オイ」
「吾輩としては、スバルさんの言動にも、不自然なところが残るのでね」

「オレには、あの綺麗な女性が、事件に関わっているとも思えんが」
「警部が独身な理由が、解ったよ」
 クスリと笑う、マドル。

「吾輩からも、質問イイかな。事件はロクに調査もされずに幕引きとなったと聞いたのだケド、本当かな?」
「そう言やスバルさんが、怒ってたな」

「はい。そんなウワサが、ありました。自分は当時、新人だったので気付かなかったのですが、なんでも地元の名士たちが、警察に圧力をかけたのだとか」

「なんだってェ、ホントか!?」
「あ、あくまで、ウワサであります。自分も、上司が酒の席で、愚痴っていたのを聞いた程度で……」

「地元の……名士たちか」
「どうした、マドル。なにか、気になってんのか?」
「まあね。警察署へ、急ごう」

「まあ、元からその予定だからな。捜査協力、感謝する」
 車の切り返す音が、ドーム会場に響く。

「少しだけマスター・デュラハンに、近づけたのかも知れない」
 頼りないエンジン音が鳴る舞台で、マドルが呟(つぶや)いた。

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