アーキテクター・ドローン(無人機)
「オイ、やっぱ援軍どころの話じゃ無ェぞ!」
プリズナーの焦り声が、ゼーレシオンの触角を通じて伝わる。
戦闘機から変形した、5機のアーキテクター・ドローン(無人機)。
徐々にではあるが、意味不明な挙動をするようになっていた。
「バルザック大佐も、ご自身はともかく部下を派兵する余力は無かったのでしょうかね」
冷静なメルクリウスさんですら、愚痴をこぼす。
最果ての宇宙にたった3機の戦力で、ツィツィ・ミーメが率いるQ・vic(キュー・ビック)の大群と戦わなければならないボクたち。
増援された味方が敵となれば、更なる劣勢が予想された。
「時の魔女に完全に操られる前に、撃破してしまった方が良いでしょうか?」
ボクは了解を待つまでも無く、全てを斬り裂く剣(フラガラッハ)を構える。
無人機たちの、頭部の赤いカメラがパカパカと点滅を始めた。
女性を思わせるフォルムの身体も、マリオネットのように歪(いびつ)な動きをする。
「やむを得ませんね」
「敵になる前に、とっととやっちまおう!」
テオ・フラストーとバル・クォーダも、それぞれの武器を用意して臨戦態勢を取った。
するといきなり、5機のアーキテクター・ドローンが、1000年前の特撮ヒーローのようなアクションポーズを取る。
「な、なんだァ!?」
「こ、これは一体……!?」
プリズナーとメルクリウスさんの、驚く声が聞こえた。
「……」
ボク自身はと言うと、余りに想定外の出来事に言葉を失ってしまう。
「時の魔女ってのは、オレたちをおちょくっているのか!?」
「解りませんが、これでドローンは時の魔女の手に堕ちたと考えて……」
「アハハハハハハッ!」
メルクリウスさんの見解を、突然の笑い声が遮(さえぎ)った。
「そ、その声……美宇宙(みそら)か!?」
笑い声は、ボクのクローンでありながら少女になってしまった、群雲 美宇宙のモノだった。
「オイ、テメー。なにいきなり、笑い出してんだ!」
同じバル・クォーダに乗る、プリズナーが声を荒げる。
「だって、可笑しくて。ドローンを操ってるの、ボクなんだから」
「な、なんだとォ!?」
「ホラ、こんな感じ!」
無邪気に答える、美宇宙。
5機の無人機を確認すると、それぞれが違ったセクシーポーズを取っていた。
「どう言うこった。なんで無人機を、お前が操れる?」
「さあ。でも、ボクも時の魔女に造られたクローンだろうからね。コミュニケーションリング越しに、あのコたちを操れたんだ」
「……つうコトは、アリャ敵じゃ無ェってコトか」
「モチロンさ、見てて!」
バル・クォーダのコックピット内から、ドローンにコンタクトする美宇宙。
5機のアーキテクター・ドローンは、再び戦闘機の姿に戻ると戦闘を開始した。
アーキテクター状態では両肩の上下に装備された4門のレーザーキャノンが、1斉に火を噴く。
Q・vicを見る間に数十機、撃破して見せた。
「へッ、やるじゃねェか」
「まだまだ、こんなモノじゃないんだから。行ッくよォーーー!!」
プリズナーに褒められたのが嬉しかったのか、さらに気合を入れる美宇宙。
再びアーキテクター形態に変形した5機は、背中を合わせて円陣を組むと、両腕のビーム機銃で周りに群がる敵を掃射した。
「これは、頼もしい援軍が現れましたね。手の平返しになりますが、バルザック大佐に感謝です」
「喜ぶのは、早いよ。このコたちに、あのツィツィ・ミーメってヤツも干渉しようとしてる」
急に釘を刺す、美宇宙。
「それじゃあ、いつ乗っ取られるかも解らないってのか!?」
「今のところ、相手の干渉をボクがブロックしてるから、大丈夫だけどね」
「お前が気でも失ったら、敵に周っちまうのかよ?」
「残念だケド、そうなるよ。あと、アイツに近づき過ぎるのもマズいのかも知れない」
「だけどツィツィ・ミーメは、ワープができるんだぞ!」
ボクは、最悪のシナリオを予想する。
「か、艦長……ツィツィ・ミーメが!」
そのシナリオは、いきなり現実となってしまった。
前へ | 目次 | 次へ |