アステカの神話
「第1の太陽が海に没し、第2の太陽として復活を遂げた父ドス・サントスは、ケツァルコアトルとなって覇を唱えた。人々は暴風雨に薙ぎ払われ、生き残った者たちもサルへと変貌した」
次女のマクイが、天に両手を伸ばしながら告げる。
「ケッ、神憑きにでもなったか。不気味なヤツらだぜ」
プリズナーが隣で、顔を歪めていた。
「ケツァルコアトル……か。聞いたコトがあるな」
恐らくは、アニメに出てたか、ゲームの敵キャラかのどちらかだろう。
ボクの昔の記憶など、その程度に過ぎなかった。
「どうだろう。もしかして、これまでに地球に起きたコトを、神話になぞらえてるんじゃないかな?」
「あ、どう言うこった?」
「例えば今の話は、地球に残った人々が異常気象が原因の暴風雨によって死に、生き残った人々もなんらかの病気に襲われた……あるいは、無気力になったとかだな」
「なるホドな。それじゃあ最初のは、どんな解釈になる?」
「ドス・サントスは、黒のテスカトリポカとなって覇を唱えた……容姿が今と違うか、あるいはそう言ったタイプのアーキテクターに、乗り込んで戦ったとか?」
「続くのが、人々は巨人となって戦い、大地に血が満ち屍が転がった……おおよそ、ドス・サントスを支持した兵士たちも、アーキテクターに乗って戦ったんだろうな。恐らく、オレたちの勢力と」
「キミが、まだ少年兵だった頃の話か」
「ああ、その頃にはアメリカらかつての超大国の弱体化を突いて、中南米から新興勢力の軍隊が攻めて来やがったんだ。もっともメキシコやコロンビアなんて国々も、とっくに滅んじまっていたがな」
「アステカ神話の、神らしいぜ。トラロックや、テスカトリポカも同じだ」
プリズナーは、コミュニケーションリングを使って情報を得たのだろう。
「アステカ神話か。流石に、馴染みのある神話とは言えないな」
「だったら、続きを聞こうじゃねェか。オラ、漏らした娘。オメーの番だ」
「う、うっさい……」
侮辱の言葉に、チピリは2人の姉の間に挟まりながら、プリズナーを睨み付けた。
「だ、第2の太陽が没し、第3の太陽として復活を遂げた父ドス・サントスは、トラロックとなって平和をもたらした。けれどもケツァルコアトルが現れて、天から火の雨を降らせ、トラロックを太陽の座から引き摺り下ろした」
怯えていた少女も、神が宿ったように冷静となり、自分の役目を終える。
「相変わらず、ワケがわからんな。宇宙斗艦長よ、どんな意味だ?」
考えるのも面倒になったのか、プリズナーはボクに翻訳を丸投げした。
「さっきの横暴なタバコ臭いヤツが、トラロック……ドス・サントスの今の姿なのだろう」
「らしいな。国の名前にも、なってやがるしよ」
「そこにケツァルコアトルが現れて、天から火の雨……核でも使ったのか……を降らせ、トラロックを太陽の座から引き摺り下ろした……」
「オイオイ、ドス・サントスを殺ったのは、アンタじゃねェか?」
「今の話だと、ボクがケツァルコアトルになってしまうな」
神話を朗読し終えた少女の方を見ると、チピリは姉たちの間に姿を隠す。
「こんなイイ話は、ねェぜ。アンタが、この国の次の王ってコトだろ?」
「ボクは、火の雨なんて使ってないぞ。それに今の話だと、ケツァルコアトルはトラロックを太陽の座から引きずり降ろしただけで、自分が次の王となったとは言っていない」
「ハア? 玉座から引きずり降ろしておいて、王座に就かないワケねェだろ」
「いいえ、ケツァルコアトルの言葉は真実さ」
長女のショチケが言った。
「都合のイイ、言いワケしてんじゃねェぞ。だったら次の王は、誰だってんだ?」
「それを告げるのは、アタシたちの役割りじゃねェんだよ」
プリズナーに抗う、次女のマクイ。
「もったいぶりやがって。だったら誰が……」
「ドス・サントスが、復活して王になるってコトだろう?」
「だったらよ。復活させなきゃ、イイんじゃねェか?」
プリズナーは、狡猾な笑みを浮かべた。
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