タリアと袴田
黄色いイチョウの葉が舞い散る街中の公園で、頬を紅く染めるタリア。
「そ、そりゃそうだケド、週刊誌じゃこの人が、手下にやらせたって話じゃない」
ボクの身体に半身を隠したユミアが、袴田 凶輔の方を見ながら言った。
「アン、舐めてんのか、テメー」
「ヒッ!?」
狂気に満ちた眼光に怯えた黒髪の少女は、完全にボクの背中に隠れる。
「オイ、止めろ。どうしてお前は、わざわざ誤解を招く態度を取るんだ」
タリアが、言った。
「うっせ。誤解を解くのにいちいち説明すんのも、メンドウだろうが!」
「ヤレヤレ……まあ、わからなくも無いケドさ」
背の高い天然パーマの少女は、あっさりと同意する。
「すまないがタリア。そこを、説明してくれないか。彼がドローンでお前を襲撃した事件に、関わっていないという証拠かなにかを」
「しょ、証拠ってホドのモンは、無いケドさ」
「でも、お前が納得するなにかが、あったんだろ?」
「まあな。上手く説明できるかわからなけケド、今回の事件はコイツじゃねェ」
「ど、どうして、そう断言できるの?」
ユミアが、ボクの背中から少しだけ顔を出しながら言った。
「コイツの話じゃ、もう不良少年グループとの付き合いは無いみたいでさ。な?」
「ユークリッドに、顔も住所も晒(さら)されちまって、見バレして引っ越したヤツも多いしな。オレとの付き合いなんざ、黒歴史として封印したいんだろうぜ」
袴田は、ボクを軽く押しのけてベンチに座る。
タリアを手招きして呼び寄せるが、隣に座るまでには至らなかった。
「確かに、今回の事件に関わっていない少年たちはそうだろう。だけど、実際に事件を引き起こした、九頭山 太刀男についてはどうなんだ?」
「クズ男か。アイツは今回の事件の、戦犯だかンな。スマホどころか、現実(リアル)での嫌がらせがスゴ過ぎて、家にすら居られなくなって、ネットカフェを点々としてたらしい」
「そのコが、なにかしでかすって情報を、例の弁護士から掴んだらしくてさ。コイツは、事前に止めようとしたみたいなんだ」
「これ以上騒がれても、メンドウなんでな。だけどクズ男のヤロウ、どこのネットカフェに寝泊りしてるかわかんなくてよォ」
袴田が、タリアのパーカーの袖を引っ張る。
「それにしても、よくユークリッドのアイドルの、ライブのチケットが取れたな」
「プラチナチケットなんてモノじゃ、ないくらいに高騰してたモノね」
「コ、コイツ、それも例の弁護士に頼んだらしくてさ……」
嫌そうにしながらも、タリアは袴田の隣に座った。
「瀧鬼川は、オヤジの顧問やってっからよォ。一応はまだオレの命令も、聞いてくれるんでな」
袴田の父親の顧問弁護士である瀧鬼川 邦康は、タリアやアステたちの事件で、被告の少年たちを弁護しようとした弁護士だ。
けれども、袴田を始めとする未成年の少年たちの顔や個人情報は、ユークリッドの社長である久慈樹 瑞葉によって、世間に暴露される。
結局のところ、法廷で争うことなく訴えは取り下げられ、事件は幕引きとなっていた。
「まさか、コイツと瀧鬼川弁護士に、助けてもらうコトになるなんてね」
「お前はそれを確かめるために、彼に会ったんだな」
「ま、まあな。それにやっぱ会って、お礼言いたかったし……」
照れくさそうに、袴田から顔を逸らすタリア。
これ以上の追及は、愚問に思えた。
「で、でも2人は、ボクシングジムから出てきたよね?」
けれどもユミアは、まだ追及の手を緩めない。
「そこから、見てたのか!」
「ゴ、ゴメンなさい!」
黒髪の少女は、しっかりと頭を下げた。
「別に、怒ってないよ。コイツ、ボクシングを始めるんだ」
「オイ、なに勝手にバラしてやがる!」
「隠すホドのコトでも、無いだろ?」
「隠すホドのコトだろうが、バカ女!」
「ハア、誰がバカだ。誰が!」
「オメー以外に、どこにいる。コロすぞ!」
暴言を吐く、袴田。
だけどボクは、少しだけ袴田に同情していた。
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