ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第09章・第28話

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ボクシング指導

「ボクシングか。タリアも昔は、ボクシングをやってたんだよな?」

「オヤジの影響でな。娘に自分の夢を、継がせたかったんだろ」
 パーカーを着た少女は、寂しそうな笑顔を浮かべる。

「タリアのお父さんって……その……」
「自殺なんてする柄じゃない、ゴリラ野郎だったんだケドな」
 兄を亡くしたユミアと同じく、体育教師だったタリアの父親は自ら命を絶って、他界していた。

「デカい図体して、ノミの心臓ってヤツさ。体育教師の職が消えて無くなって、酒に溺れて……な」
「ゴ、ゴメンなさい!」
「なんでユミアが、謝るんだよ?」

「だ、だって先生って職業が消えたのって、ユークリッドが少なからず影響してるんじゃ……」
「それを言ったらアタシだって、今や立派なユークリッドのアイドルなんだ。ユミアを、責められる立場じゃないさ」

 タリアとユミアは、互いにそれぞれの立場を想い合う。
2人とも、大切な人を亡くした哀しみを、知っているからなのだろう。

「オレは、お前を哀しませるマネはしないぜ」
 2人の間に、袴田(はかまだ)が割り込んで来た。

「その前に、まずリングに立ってから言え」
「さっき、立ったじゃねェか」
「スパーリングじゃなくて、本物の試合のリングにだ」

 タリアは、袴田に対しては容赦がない。

「スパーリングって、水野ボクシングジムってところでか?」
「そうだよ、先生。オヤジの同級生だかが、経営してるジムでね。コイツがどうしてもって頼むもんだから、昔のツテを訪ねたってワケ」

「そこまで頼み込んじゃ、いねェだろうが。ボクシングジムなんざ、そこら中にあんだしよ」
「だったら、自分で動け。手配は全部、アタシにやらして置いて」
「かったりいだろ、そ~言うのはよォ」

 袴田はこう見えて、大企業の社長の御曹司(おんぞんし)だ。
事務的な作業は、顧問の瀧鬼川弁護士か、少年グループにいたときは、九頭山のような少年がやってくれていたのだろう。

「それでタリア。彼のボクシングの腕前は、どうなんだ?」
「まあまあって、ところかな。筋は悪くないよ」
「なんだァ、この女(アマ)。さっきから、偉そうに」

「実際、アンタよりアタシの方が、まだ強いと思うよ。ボクシングを離れて、かなり経つケドさ」
 ベンチから立ち上がって、クルリと振り返るタリア。

「フザけた口、聞いてくれるじゃねェか。だったら今すぐ、ここで勝負しろ!」
 袴田も立ち上がって、着ていた上着を空のベンチに脱ぎ捨てた。

「オイオイ、教師としてケンカは認められんぞ!」
「心配すんな、先公。様は拳だけで、やり合えばイイんだろ!」
 袴田は拳を身構えると、タリアに向かって突進して行く。

「ホラ、これがストレート」
 タリアの右拳が、袴田の両腕ガードの間を撃ち抜いた。

「こンの女!」
 鼻を打たれた袴田が、顔を真っ赤にしながら尚も突進する。
けれどもタリアは、それをスウェーとダッキングでかわした。

「偉そうにして置いて、もう足元がフラ付いてるよ。こりゃあ、かなりの走り込みが必要だね」
「うっせ、黙ってろ!」
 袴田の右フックが、大きく宙を切る。

「まだワンラウンド3分も、経ってないじゃないか。アタシを自分の女にする気なら、1発くらいは当ててみろよ」

「い、言われなくたって……そうするぜ!」
 けれども袴田の拳は、大振り過ぎて当たる気配すら無い。

「ボクシングってのはね。ケンカとは、違うんだ。まずはジャブで、相手との距離感を確かめる」
 タリアの左のジャブが、何度か袴田の顔や溝落ちにヒットした。

「次にフックを使って、相手にダメージを蓄積させる」
 弧を描くタリアのパンチが、袴田の視覚の外から飛んで来る。

「あとは、ボディにストレートを叩き込むとか、チン(顎)にアッパーカットとか入れたりして、相手をダウンさせるんだ」
 袴田は、溝落ちに左ストレートを叩き込まれたあと、ライトアッパーで宙に舞った。

「……ゼッテーお前を……孕ませ……」
 真っ赤な髪の男は、公園の砂場に大の字になって落下した。


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