名古屋の駅の地下街
「本当にすまないな、杜都、金刺。まったく関係のないキミたちにまで、協力を仰ぐことになるとは思って無かったよ」
御剣 一馬にそっくりな男が、名古屋の有名な待ち合わせ場所にて、2人の男に礼を言った。
「気にせんでええって、ロランはん。こちとら、好きで協力させて貰ってんで」
「民間人の助けになるのは、軍に関わる者の務めであります」
金髪ドレッドの男はニカッと笑い、筋肉質の男は敬礼をする。
巨大ターミナル駅前の雑踏は、夜となったくらいでは人の流れは収まらなかった。
巨大な女性型人形の下を、慌ただしく駆け抜けて行く人々。
「ロラン士官は、今日は戦果があったでありますか?」
「それは……それなりにだな」
「そりゃないで。こっちかて番組の録画映像の入ったディスク、渡してるんや。それなりの内容を、教えて貰わんと困るやケドな」
「情報共有は、作戦(ミッション)成功への重要なポイントであります」
「わかったよ。ホントはオレ1人で、やるつもりだったんだがな。雪峰キャプテンが言った通り、名古屋の地理に疎いのも事実だ。協力を仰いだ以上は、オレの情報も渡すべきか」
3人の男は、巨大ターミナル駅の地下へと降りて行った。
名古屋の駅の地下には、地上とはまた違う煌(きら)びやかな街が広がっている。
「ここが、名古屋の地下街か。静岡でも話に出たコトはあったケド、メチャクチャ広いな」
「ロラン士官は、ずっと静岡に駐屯(ちゅうとん)されているでありますか?」
「名古屋へは何度か来たコトがあるんだが、かなり前だったから記憶も曖昧(あいまい)なんだ。駅の辺りも周ったケド、地上がメインだったからな」
「ワイは関西出身やし、大阪にも地下街あるさかい、大して驚かんかったケドな。そこの店、入ろか」
金刺の提案で、3人は地下街にある喫茶店に入って行った。
「わ、悪いんだが、静岡から出てきてあまり金のない身だ。奢(おご)れんぞ」
「かまへん、かまへん。それぞれ、自腹や」
「自分たちも、倉崎指令に給与をいただいてるでありますからな」
「オレより年下で、給料を払う立場か……大したモノだな」
ロランは、注文したミックスサンドを食べながら、ため息を吐く。
「ここの名物は、エビフライサンドやのに、けったいなモン注文してはるな」
「やはり、金銭の補給がままならないでありますか?」
金刺はエビフライサンドを、杜都はみそカツサンドを注文していた。
「それもあるケド、サッカー選手は身体作りが大切なんだ。肉食ばかりに偏ってしまうと、いざとなったら走れなくなるからな」
ミックスサンドには、卵と野菜とハムがバランス良く挟まっている。
「やはりロラン士官は、サッカーを続けたいでありますな?」
杜都の言葉に、ロランの食べる手が止まった。
「そう……だな。ホテルを飛び出した時点で、オレはエトワールアンフィニーを辞める覚悟を決めていた。姉貴の事件を、どうしても解決したかったからだ。でもオリビの話じゃ、まだ壬帝(みかど)オーナーは、一馬くんをオレだと思っている……」
「別に悩むコトなんか、あれヘンで。どっちも取りに行けるんなら、取りに行けばええんちゃうか」
「そうでありますな。雪峰指令から、一馬隊員もそのつもりだと報告があったであります」
「これだけ大勢の人に迷惑をかけて置いて、ここで引いたら今さらだな」
ロランは、まっすぐな眼差しで2人を見た。
「オレが得た、情報を話すよ。今日、姉貴と同じバラエティ番組に出ていた、元アイドルのウチの2人と会って来たんだ」
「そ、そうでありましたか……」
「ホンマはウチの誰かが、同行するつもりやったんや」
「オレが、暴走しそうだからか。ま、確かにそうなるよな」
「ま、まさか、もう暴れて来はったん?」
「イヤ、普通に会って話をしただけだ。暴れて警戒されたら、元も子も無いからね」
ロランはそう言うと、2人の元アイドルに会ったときの様子を話した。
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