調査報告
「会ったのは、戸出 陽瑠美(とで ヒルミ)と、出斯 禰里亜(でし デリア)と言う芸名で売っていた、元アイドルでね。今では小さなアパートに、2人でルームシェアして暮らしていたよ」
ロランが、目の前の席の2人に言った。
テーブルには、空になった2つの皿と、ミックスサンドが半分くらい残された皿が乗っている。
「2人で、1つの部屋を借りとんのか。元アイドルと言えど、慎ましやかな暮らしやな」
「まだマシな方らしい。中には、4人でルームシェアしてるメンバーも、居るって話しだ」
「世知辛い世の中で、ありますな……」
「大所帯のアイドルグループともなると、センターでも無い限り給料は低いらしくてな。彼女たちはまだ、センターを狙える位置にいたから、バイト程度の給料にはなっていたみたいだ」
「日高グループの肝入りアイドルグループで、そのレベルでありますか」
「倉崎はんも、かなりムリして給料払ってくれてんねやな」
杜都と金刺は顔を見合わせ、高校生オーナーに感謝した。
「2人は意外にすんなりと、話をしてくれたよ」
「そんで、なんか手がかりは掴めたんか?」
「残念だが、2人も番組には出ていたものの、準レギュラーとうワケじゃ無かったんだ」
「アイドルグループにも、兵科のような担当があると聞いたコトがあるであります」
「お笑い担当とか、歌やダンス担当とかやな」
「ヒルミとデリアは、歌やダンス担当だった。番組のエンディング曲を歌っているから、たまに顔を出すって感じらしい」
「ロランはんの、お姉さんはどうやったんや?」
「姉貴はまあ年も年だし、グループのまとめ役だったんだ。陽気な性格だったから、バラエティ担当になったんだろうな」
「年齢は、いくつだったでありますか?」
「1コ上だから、死んだときは今のオレと同じ20歳だね」
「こ、これは、不躾(ぶしつけ)なコトを聞いたでありあす」
「構わないさ。姉の自殺の事件を調査してるんだ。避けては、通れないよ」
ロランは、アンバー色のグラスに入った水を口にする。
「せやけど、手がかりは無しなんやな?」
「イヤ。2人はあくまで聞いたウワサとして、あるメンバーの名を上げてくれたんだ」
「それは、どんな方の名前でありますか?」
「壬帝 輝世嵐(みかど きせら)と言う名でね。自己中心的で、我がままな性格で、姉ともちょくちょく揉めていたらしい」
「壬帝……どこかで、聞いたコトがある苗字でありますな?」
「当たり前や。エトワールアンフィニーSHIZUOKAの、オーナーの苗字やで!」
関西人らしく、杜都にのり突っ込みを入れる金刺。
「そう。オレのチームのオーナー……壬帝 輝流(みかど シャル)の、実の妹だ」
「壬帝 シャルと言えば、日本サッカー界の至宝とまで言われた名選手だったであります」
「あのシャル選手の妹かいな。せやけど、そうなると年齢も……」
「姉貴のアンジェとは、同い年だったみたいだ」
「そうなると余計に、作戦方針の違いでぶつかるコトも多かったかもであります」
「そんでロランはん。今後は、どないするんや?」
「ヒルミとデリアから、バラエティ担当だった4人が同居するアパートの、住所は聞き出せた。明日にでも、会ってみるつもりだ」
そう言うとロランは、席を立った。
「そんならワイらも、付き合うで」
「雪峰士官から、ロラン士官の暴走を監視するよう、命令を受けているでありますからな」
空の皿の前に座っていた、2人の男も立ち上がる。
3人の男たちはそれぞれに会計を済ませ、地下にある喫茶店を出た。
翌日、同じ待ち合わせ場所に現れた3人の男は、赤い私鉄電車に乗って4人の元アイドルが住むアパートに向かう。
そこは、大都市名古屋から離れた、田園風景の広がるベットタウンだった。
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