別れと遭遇
ボクたちは、丘の上に立っていた。
紺碧の海と晴れ渡った空が、どこまでも広がっている。
小さな漁船が、魚を求めて出かけて行くのも見えた。
「姉さんも、ここで眠れて良かったよ」
ロランさんが、墓の前に花を供える。
「みんな、今日は来てくれてありがとう」
詩咲家と書かれた墓の前に集ったのは、オリビさん、アルマさん、リナルさん、ワルターさん、それにボクの5人だった。
「辛い想いをしたのは、お前もだろう。ちゃんとサッカーに、向き合えるか?」
「心配するな、オリビ。倉崎 世叛や一馬のチームメイトのお陰で、姉さんの死の真相を突き止めるコトができた。姉さんのためにも、これからはサッカーに集中しないとな」
「だけど、ロラン。裁判が待っているんだろ。あえて言わせてもらうが、自殺となるとディレクターの責任をどこまで問えるかは疑問だぞ」
アルマさんは、ロランさんに厳しい現実を示す。
「わかっています。無罪になる可能性もあると、弁護士にも言われました」
「それでも、戦うんだな」
「はい。姉さんの死の真相を、少しでも多くの人に知って貰いたいんです」
「わかったよ、ロラン。ボクやオリビも、なるべくサポートするから」
「裁判所に出廷してお前が抜けても、これだけのメンツが揃ってるんだ。なあ」
オリビさんが、リナルさんとワルターさんに視線を振った。
「任せておけ、ロラン。とは言えオレたちは、まずはレギュラー争いからだがな」
「いいや、必ずレギュラーになって、チームを上のカテゴリーに上げて見せるぜ」
気合を入れる、かつてのライバルたち。
「悪いが一馬、そう言うコトだ」
ロランさんが、ニコリと笑ってボクを見た。
ボクたちデッドエンド・ボーイズだって、負けませんよ……と言い返したかったケド、言えない。
言葉が出てこないのもあるケド、実力差を考えるとその通りだったからだ。
「それにしても、似てるな。試合の時はあまり気にならなかったが、こうして見るとソックリだ」
「ああ。まるで双子っつうか、鏡に映したみたいだぜ」
リナルさんとワルターさんは、マジマジとボクとロランさんを見比べる。
「幼馴染みのオレですら、似てると思うくらいだからな」
「だけどオリビ、なんで試合中は気にならなかったんだろ?」
「簡単な話さ、ワルター。ロランと一馬じゃ、プレイスタイルが違う。ロランは、中盤に君臨しゲームを支配するタイプだ。それに対し……」
「一馬は、チームメイトを活かしたり、スペースを作る動きとかチャンスメイクが上手いんだ」
ロランさんが、オリビさんの言葉のパスを受け取った。
言われるまで、自分がどんなプレイスタイルか、ほとんど気にしたコト無かったボク。
プロを目指すんなら、スタイルを決めなきゃいけないのかな。
「さて、一馬を見送るついでに、メシでも食いに行くか」
「そうだな、ロラン。腹も減ってきたところだ」
幼馴染みのコンビは、年上の先輩を見た。
「ハイハイ、ボクが車を出すよ。ワルターとリナルも、乗っていけよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおう」
「メシだメシ。カツカレーか牛丼か、悩みどころだぜ」
それからボクたちは、アルマさんの車で途中のファミレスに入ったあと、静岡の最寄りの駅まで送ってもらう。
ボクはロランさんたちに別れを告げ、1人駅のプラットフォームに向かった。
日本が誇る高速鉄道に乗り込むと、窓から見える景色はバスとは比べものにならないスピードで、後ろに流れ去って行く。
ロランさん、最後はメチャクチャ謝ってくれたな。
ボクは、自分の意志で残っただけなのに。
窓ガラスに、富士山の雄姿が見えて来た。
横に長いとウワサの静岡県らしいけど、名古屋まではアッと言う間だ。
ボクは疲れがたまっていたせいか、少し眠くなる。
い、いけない!
こんなところで寝たら、大阪まで行っちゃう。
慌てて顔をあげると、大きな影がボクを覆った気がした。
「み、美堂 政宗!?」
慌てていたせいか、思わず声が出てしまう。
振り向いたのは、死神と呼ばれる男だった。
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