2人のパジャッ娘
「待たせたね。わたしは、賀琉 真瑠淀(がりゅう マルデ)。モチロン、芸名だケドね。残念だケド、男を部屋の中には入れられないよ」
先ほどの少女が出て来て、小さな体でロランたちを威圧しながら言った。
「まあええわ。下着とカップ麺の空き容器が、同居してそうな感じやしな」
「か、金刺隊員、失礼でありますぞ」
杜都が、金髪ドレッドの男を注意する。
「な、なんでアンタが、ソレ知ってんだよ!」
「なんや、図星かいな」
「華やかなアイドル像が、ドンドン崩れ去って行くであります」
杜都が、現実のアイドルの姿に落胆していると、中から他のメンバーも出て来た。
「アンタらが、杏寿(アンジェ)の知り合いかい。わたしは、夏留守 憂音澱(げるす ウィンデ)って名で、売っていた。アンジェとは同じ番組にも出てたし、よくメシ喰いに行った仲だからね。あんなコトになっちまって、悲しんではいるんだよ」
白いロングTシャツしか、身に付けていなかった女性が言った。
今はモスグリーンのパーカーに、ベージュ色のパンツを穿いている。
長いホワイトブロンドの髪をかき上げながら、覇気の感じられない声で語った。
「オレはアンジェの弟で、ロランと言います。生前は姉が、お世話になりました」
ロランは、4人に向かって頭を下げる。
「止してくれよ。アンジェが本当に、死んじまったみたいで……グスッ!」
ウィンデが、ポロポロと涙を流し、泣き始めた。
「アンタが、アン姉の弟かい。ウィン姉はまだ、アン姉の死が受け入れられてないんだ」
長身のウィンデを慰める、小柄な少女。
「そうでしたか、スミマセン。葬式にも出たオレだって、やっと最近自分を納得させてる状況なんで」
「やっぱアンジェは……うわぁああ~ん!」
「うわ、ウィン姉……泣くなって。また他の住人に……」
「コラ、うるせェぞ!」
「こちとら夜勤明けなんだ。静かにしやがれ!」
階段までの部屋の中から、男性の怒鳴り声が聞こえて来た。
「このオンボロアパートは、壁が薄すぎて声が筒抜けなんだ。悪いがアンタら、場所を変えるよ」
マルデの指示で、4人の元アイドルは自室に鍵をかけ、アパートを後にする。
アパートから20分ほど歩いた幹線道路沿いのファミレスに、一行は入って行った。
「ここ、アンタらがおごってくれんだろ?」
「はい。呼びたてたのは、オレですからね」
「だいじょうぶか、ロランはん。もう財布の中身も、少ないんちゃうか?」
「それはそうなんだが、今は重大な局面だ。金を惜しんでいる場合じゃない」
「戦局を見極める戦術眼……流石でありますな」
「んじゃアタシは、炭火焼きステーキと野菜サラダのセット、ドリンクバーにイチゴのパフェで」
マルデが、容赦のない注文をする。
「わたしは、和風竜田揚げ定食に、和風ハンバーグセット。あと、ドリンクバーにテラミス」
「ウィンデはん、注文するときだけメッチャ元気やな」
「アマルとジーナは、なににする?」
マルデの問いかけに、2人は指でメニューを指し示しながら意志を示した。
「なんで、喋れへんねや?」
「このコたち、極度のコミュ障でね。外に出ると、ほとんど言葉を発さないんだよ」
申しワケ無さそうに俯く、2人の元アイドル。
「ちなみに名前は、こっちが柳都 雨摩婁(りゅうと アマル)」
マルデが、モコモコの白いコートを着た少女を抱え込む。
「今はこんなだケド、家に居るとうるさいくらいに喋るよ。音楽制作が得意だから、事務所が無くなったウチらには、欠かせないコだね」
アマルは青緑色のボブカットで、コートの下はパステルブルーと白のシマシマの上下を着ていた。
「で、こっちが麗 蒔南(れい ジーナ)。芸名ではあるんだケド、台湾出身でね」
ジーナは、オレンジ色をした三つ編みの髪を、頭の横でお団子(シニヨン)にしている。
服は、大き目のラベンダー色のワンピースで、大きなフードを被ったままだった。
「ジーナはパソコンが得意だから、ネット配線とかホームページとかやって貰ってる」
「そうでありますか」
「それにしても、2人ともパジャマみたいな服やな?」
「うん、だってパジャマだもん」
マルデは、あっさりと認めた。
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